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「残業200時間でも“殺すぞ”って言われても、ウチはいい会社」CM制作会社勤務(29歳女性)の場合

夜景は、残業で出来ている。

夜景は、残業で出来ている。

「資料作りで休日出勤してたんですけど、まだ終わってなくて……」

ほっそりした体にボーダーのニットといういで立ちの浅井さん。片方に流した栗色の髪は美しいが、濃く引かれたアイライン以上に、目の下のクマが目立つ。

浅井さんは、大手広告代理店ともやりとりする制作会社でCMの企画・制作に携わっている。疲れた顔で「21時頃には会社に戻らなければ」という。昨日は、ほぼ不眠で撮影に参加し、終了後に深夜3時頃まで打ち上げに参加していた。この日は昼からずっと会社で資料作り。この2か月、土日に休んだ覚えはないそうだ。

「今まではタイムカード自体がありませんでした。電通の件で、去年冬から導入されたけど、導入されただけ。それ以降でも残業を227時間やったこともあります。でも1年目はもっとひどかったから、最高どのくらい働いていたか分からないですね」

パワハラには「最初は辛いとも思いましたが、実際、慣れますよ」

アハハと笑う浅井さん。少し心配になってくる。なぜそんなに残業が多いのかと聞いても、「ヤバい」「眠れない」「ツライ」しか出てこず、会話にならない。よくよく話を聞くと、残業が多くなるのには2パターンあるようだ。

まず、プレゼンや撮影に必要な資料探し。代理店やクライアントが見て、一目で仕上がりがイメージできるレベルまで作り込むため、準備に膨大な時間が必要となる。会社で寝泊まりして、何日も家に帰らないことはザラのようだ。深夜から代理店との打合せが始まることもあるが、「頭を動かす作業はまだマシ」。一番つらいのは「撮影が続く」ことだという。入社1年目、10日間ほぼ眠ることなく準備をした後で、丸2日間撮影を行ったこともあるという。

「その時は、人気アイドルを起用したCM撮影に関わってて、最初は『あのアイドルと仕事!?』って嬉しかった。でも体力的に死ぬほどツラかった。究極の睡眠不足すぎて、撮影中だろうがいつだろうが寝落ち、というか死ぬかと思いましたね」

浅井さんは当時を振り返って、笑いながら話す。楽しそうに語ってはいるが、空元気という印象だ。どうして長時間勤務・休日出勤が続くのだろうか。

「撮影直前まで内容に変更が出るからかな? 一昨日の徹夜も、朝から撮影なのに監督が深夜2時に『この小道具が欲しい』って言いだして、探し出すしかなくて」

と上司からの無理難題を挙げてから、一層テンション高く「あとは、私が仕事できないから」と言い放つ。

「例えば、映像編集が得意な同期なら『キューティーから1フレずつjpeg化して400枚商品カットをマスク抜いといて』って言われてパッとできる。今なら言ってることが分かるけど、入社当初は『キューティー』が分からないし『マスク』の抜き方も分からない。先輩たちも忙しいから手取り足取りで教えてくれなくて、調べるのに時間がかかって……」

2時間でできると言われた作業でも、浅井さんは1日かかってしまうこともある。それに対して先輩は、浅井さんがサボっていると思い、「お前それちゃんとやっとけよ!」と言い残して帰ってしまうこともあるそうだ。パワハラが横行する職場にも関わらず、浅井さんは「最初は辛いとも思いましたが、実際、慣れますよ」とケロリとしている。

「朝4時まで撮影して、次の撮影が6時からだとしても『あと2時間仮眠取れる!』って思っちゃう。先輩たちは叩き上げられて仕事を覚えてきた人たちだから、後輩を「育てる」ということが分からないみたいです。『見て盗め』って感じで、分からないこと聞いたら『考える能力ないな』『殺すぞ』って言われても『だから?』みたいな……けどうちの会社って、いい会社なんですよ」

こちらをまっすぐ見て言う姿は、どうしても嘘を言っているようには思えなかった。確かに、映像業界は激務・薄給・契約社員が当然の世界だ。しかし浅井さんは新卒なのに正社員雇用で、給料も悪くないらしい。

「他の会社に比べたら全然マシ。仕事ができるようになれば、好きな企画を提案して制作までできる。私はそんなレベルまで行ってないけど……」

「利益を出していないのに『200時間働いたから残業代よこせ』はおかしい」

過酷な長時間労働に耐えられるのは、浅井さんがかつて「女優志望」だったころも影響していそうだ。

高校を卒業してから数年間、演劇と週6バイトという生活をしていたという。しかし、どれだけ素晴らしい演技をしても、見てくれる人は少ない。お金も入ってこない。むしろ芝居を打つたびにお金が出ていく。「当時は『夢をお金で買う』という状況でしたが、それが今ではCMを作ってお金をもらっているから幸せです」と話す。

「そうやって考えると、私はまだそんなに働いてないですよ。私の仕事はいかに予算を使わず、良質なCMを作るか。利益を出して会社に貢献しなきゃ働いたって言わない。好きな仕事をさせてもらって、しかもまだ利益を出せていないのに、『200時間残業したから残業代くれ!』っておかしくないですか?」

これはクリエイティブ職でよく言われる「やりがい搾取」なのではないだろうか。そう伝えても、彼女はピンと来ないようだった。

「奨学金の返済もあるので、就職のときに『1年目でも年収400万円以上』を条件にしていました。そこはクリアしているので満足しています。映像の仕事に就くことは夢だったし、好きなことしてそれだけお金をもらえるのであれば、激務も休日出勤も当然です。私ができないだけだから」

それなりに収入があって、やりがいがあるのであれば、残業時間は200時間をゆうに超えてもかまわない。これが浅井さんの持論のようだ。

「体はボロボロ。健康診断にも引っかかった」

しかし、そんな彼女は「採用してくれた恩に報いようと、早く一人前になって貢献したいんだけど」と前置きした上で、

「こんな会社さっさと辞めて幸せになってやる! だから仕事中も常に恋愛スイッチ・オン。でも中々いい人がいないんですよね……」

と話す。これまでの発言とは矛盾しているようにも感じるが、「辞めたら幸せになれる」とも呟く。

「仕事は好きだけど出世しようとかは……。私、仕事できないし。早く結婚して辞めて、幸せになりたい」

この後、浅井さんは「ウチはいい会社」「早く辞めて幸せになりたい」という相反する言葉を自分に言い聞かせるように何度も繰り返した。さらにひたすら「仕事できない」と自分を卑下する発言を重ねる。このブレや自己肯定力の低さに、彼女の精神状態の危うさを感じてしまう。

インタビュー中もスタッフからの電話があり、度々メールを返していた。取材をしているのは土曜日の夜。この日時にも関わらず、彼女の会社は稼働している。

21時半、浅井さんは「もうこんな時間!? 会社に戻らなきゃ」と携帯を掴もうとして、アイスコーヒーのグラスを倒してしまった。テーブルを拭きながら、ぽつりと溢す。

「先輩たちは、こういうところが嫌なんだろうな」

残業100時間を軽々と超える世界。彼女はもちろん、周りの人間も疲弊しきっている。些細なミスで八つ当たりされることもあるのだろう。

「あれ、お会計いいんですか? 私払いますよ」

こちらが取材を申し込んでいるのにも関わらず財布を取りだす。いつも打ち合わせ代を払っているから職業病なのだろうか。

結局、この日も彼女は朝まで仕事をし続け、そのまま代理店の打ち合わせに行ったという。彼女は自らの生活について「体はボロボロ。健康診断にも引っかかった」と語る。

「でも、舞台をやっていて貧乏だったときは健康診断すら受けられなかった。だから勤め先と保険証があるのは嬉しいです。でも貧乏に耐性があるから『こんな会社、いつだって辞めていいんだから』と思ってる。それが支えですよ」

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