「1年目は月収6万。貯金を切り崩して生活してた」 低賃金・長時間労働、でもアニメーターを辞めない理由(1)26歳男性の場合

「月収20万っていうと『高いじゃん』って言われるんですよね。福利厚生ないのに」

「月収20万っていうと『高いじゃん』って言われるんですよね。福利厚生ないのに」

アニメーター歴4年目の原画マン、渡辺智樹さん(仮名/26歳)は「アニメーターになりたいなら親の援助を受けられるか、貯金があるかじゃないと無理」と話す。多くのアニメーターは業務委託で、作画1枚いくらという出来高制だからだ。渡辺さんも業務委託で働いている。

“原画マン”はカメラが切り替わる一連のカットの中で、動きのキーとなる絵を複数枚描く。相場は1カット約4000~5000円。しかし原画と原画の間、動きを作画する”動画マン”は1枚200円程度。

「動画マンだった1年目は月300~400枚描いても、6~8万。簡単な作画だと枚数を稼げるけど、1時間に1枚しか描けなければ時給200円ですからね。当時は週6で作画して、休日はバイトをしていました。それでも足りないので、学生時代の貯金を切り崩していました」

渡辺さんは家賃3万円の寮に住み、残った分は食費に使っていたという。節約で最初に削りがちなのが食費だが「1日カップラーメン1個みたいな生活をしていたアニメーターはよく倒れていたので(笑)。体が資本だから食事だけはしっかり摂っていました」という。

動画マンになった今は月収20万円程度で、福利厚生はない。アニメーターの月収について、上げ方は2つあるという。1つは「クオリティを下げてでも、いかに多くの仕事を納品するか」。しかしこの場合「作品を作りたくてアニメーターになったのに、手を抜いて稼ぐって何のために仕事をしているんだと思う」と、あまりやりたくないようだ。

2つめは「拘束作品を増やす」。拘束とは作品の専属契約のことで、”完全拘束”と”半拘束”がある。完全拘束は契約作品の仕事しか受けられなくなるため、「会社によってまちまちだけど、出来高に加えて完全拘束で1作品あたり30万円以上のこともある」という。

半拘束はその作品以外の仕事も受けることができるが契約作品を優先させてくれ、というもので渡辺さんは8万円程度が支払われている。

「拘束は『君の能力が必要で、そのためにこれだけ出せます!』という証拠。スキルがあれば支払額も増えますし、拘束数も増えます。アニメーターとして認められた気になりますね。拘束で食べて行くには『修正不要の絵を描く』『重い(難しい)仕事をこなして一目おかれる』ことが大切になります」

渡辺さんは半拘束の仕事を1本抱えているが、「契約作品が終了するまで仕事が続くので、長期休暇を取りたくても取れません。贅沢な悩みですけどね」とも話す。他の仕事と重なることもあり、地獄を見たことがあるという。

「半拘束の仕事と、1枚1週間かかる仕事が被ってしまいました。2~3時間睡眠でずっと描いていました。キャパ超えるとどうしようもない。クオリティを下げないように全力を尽くしたけどいいものも作れず、精神も身体もボロボロ。年末だったけど、実家にも帰れませんでした」

「つらければ辞めればいい。辞めないのはもうちょっと勝負したいから」

そんな渡辺さんに今後の目標を聞くと、「お金がある状態で仕事したい。監督はやりたいけど現状では厳しい」と話す。

「監督は全拘束で300万。制作が1年で終わればいいですが、3年かかったら『年100万で仕事してください』ってことですからね。演出は1作品20~30万で、期間は最低2か月から1年程度。同時進行で演出を5本やってる人もいるけど、12時間労働で年収500万みたいで……」

そのため現在の目標は「絵コンテライター」だという。絵コンテとは大まかな構図などを描いた、いわばアニメの設計図のこと。「相場は1本20~30万なので、月2本あれば40万になる」と話す。

「実は今、結婚を考えている彼女がいるんですけど、今の収入だと自分1人を養うのが精一杯。子どももほしいですし、普通の生活がしたい。彼女と『30歳までに結婚できるように』という話をしているのでがんばっています。でも原画マンだと、この自分の幸せを叶えるのは難しいのが正直なところです」

来年、現在持っている半拘束の契約が切れる。自身も勝負の年になると感じているようだ。収入に関しては「アニメの作画より、ゲームの作画の方が単価は高いみたいです。1カット2万円といった話も聞いています」というが、現時点はゲームの世界へ移ることは考えていないようだ。

「つらければ辞めればいいとは思っています。僕が辞めないのは、もうちょっと勝負したいから。業界はブラックだと思いますし、改善していってほしい。でも改善しようとしたらアニメーターとして生き残れない。難しいですね。でも、もう少しあがいてみます」