ドトールが挑戦する新たな採用・人材活用の方法。 テクノロジーを活用して、多様な働き手の希望に応える

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――ドトールでは、どういった人員不足の課題に直面していたのでしょうか?

平本:少し前の弊社は人手不足への危機感が薄かったんです。理由はカフェという業態が学生における人気のアルバイトだから。弊社のアルバイトの約8割が学生ですから、なんとなく働き手に困るわけがないという空気がありました。結果、「1日8時間・週5日」働ける人だけを採用したい、みたいな店舗も出てきたりする。

――店側の事情ばかり考慮して、働き手の事情をあまり考慮していなかった。

平本:今の学生世代の1人あたりのアルバイト時間は減っています。学生を取り巻く環境や意識が変わり、学校の授業やインターンなどに使う時間が増えていますし、価値観も変化してきています。

――価値観の変化とは?

平本:変化でもあり多様化とも言えるのですが、「安定」を重視する傾向は強いですよね。右肩上がりの経済成長が止まった時代の家庭で育ってきたからかもしれませんが、「借金などリスクを背負ってでも何かをやりたい!」というよりも「目の前にあるお金の範囲内でできることをやる、暮らす」ことを大事にするような価値観。

――がむしゃらにアルバイトをする感じではない?

平本:「お金をたくさん稼いで何かをしたい。そのためのアルバイト」ではなく、「アルバイトは社会勉強のためにあるもの」という意識を感じます。

――授業やインターンについてのお話も含め、真面目な印象も受けます。

平本:昔は「1日8時間・週5日、働きます!」という人もたくさんいましたが、今は1日4、5時間・週3日で十分」という感覚でしょうか。そういった背景もあって、年々働きたいという人が減少していき、店舗からも人手不足の声が増加していきました。ただ、実は応募いただく人数自体はそれほど減っているわけではないんです。減っているのは採用者。採用確率が落ちていた。もし働く側の要望に応えられていれば何も問題はなかったはず。

――働く側の要望とは「1日3時間だけ」や「週2日だけ」といった細かい勤務条件希望という意味でよろしいですか?

平本:はい。そういった要望に応えようにも人件費には限りがあるので、1つの店舗で100%応えるのは難しい。そこでこれから取り組もうとしているのが「エリア採用」という方法です。

テクノロジーの力で、働く人の希望により細かく応える

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――「エリア採用」の内容について簡単に教えてください。

平本:店舗ごとではなく一定エリア内の複数店舗単位でアルバイトを採用する方法です。それにより、店舗とアルバイト、それぞれの条件に合わせて効率よく人員を配置することが可能になるので、採用率のアップにつながります。複数店舗のどこかには、勤務日など働き手が希望する条件にあった店舗が見つかり、店舗もほしい条件に合った働き手が見つかりやすくなりますから。

――統括する店舗も設定するのでしょうか。

平本:対象エリアの店舗の中から、比較的、アルバイトが充足している店舗が拠点になります。そこを面接や教育をする店舗とし、人手が足りない店舗に送り出すイメージです。

――それまでは各店舗がそれぞれ採用や教育をしていたと考えると効率的ですね。

平本:拠点となる店舗以外の店長は、自分の人材の好みを採用に反映することはできませんが、その分、面接や教育はなくなるので、納得はしてもらえるかな、と。

――逆に採用や人員の配置を管理する、拠点店舗のアルバイト管理の重要度は増しそうですね。

平本:そこはテクノロジーの力を使います。アルバイト・パート応募者を一元管理する「HITO Manager(ヒト・マネジャー)」や、求人広告発注を効率化、データベース化する「x:eee(エクシー)」といったシステムを利用して、適切でスピーディーな応募者管理と採用を進めています。

▲HITO Manager(ヒト・マネジャー)

▲HITO Manager(ヒト・マネジャー)

▲x:eee(エクシー)

▲x:eee(エクシー)

――働き手の情報管理はエリア採用以外にも効果がありそうです。

平本:「HITO Manager」や「x:eee」を活用する店舗が増え、働き手の情報が「見える化」すればフランチャイズの店舗でも活用できるようになっていくでしょう。

――エリア採用は比較的、狭いエリアに複数店舗が存在している都市部では実施しやすそうですが、地方展開は視野に入っているのでしょうか?

平本:たしかに店舗が広い範囲で点在しているエリアでは難しい点もあります。ただ、それはドトールの直営店舗だけの話ならば、であって、フランチャイズ店舗やグループ内の別店舗、あるいは近隣にある他のサービス業などと協力して人材を有効活用する形ができる可能性はあると思います。極端な話、構図としては店舗を持っている飲食業態なら、どこでも有効な方法になり得ますからね。

――テクノロジーの活用が採用や人材活用を進化させる。

平本:「HITO Manager」や「X:eee」のようなシステムが、さらに進化すれば、より働き手の希望を反映していくことができると思います。たとえば現在は複数店舗の人手が足りない曜日や時間帯に、そこを希望する働き手をマッチングさせるという形ですが、そこに働き手の優先事項が希望日時なのか希望店舗なのかも反映させることもできるかもしれません。

――より働き手の細かな希望も反映させる。

平本:日時よりも「あの店舗で働きたい」という希望が第一という働き手もいるでしょうしね。

――今までの時代では考えられないほど、働き手の都合に合わせるというか「働き手に歩み寄った」採用にも感じます。

平本:そういった時代に合わせる必要を感じていましたから。ただ、エリア採用の導入やテクノロジーの活用は、我々、採用する側の意識も変えてくれるのではないか、とも期待しています。

――どういう意味ですか?

平本:極論ですが、本当はアルバイトの採用活動ってないのが一番なんですよ。辞める人が「いい職場だから」と替わりの人を紹介してくれる、といったように、紹介が紹介を呼んで人材に困らないのが最高。そのためには結局、働きやすい、いい職場であることが問われる。

――いい職場であれば、人に困ることはない。

平本:テクノロジーを駆使した採用と人材活用をしても、店舗の環境がよくならなければ自転車操業は変わらない可能性もある。エリア採用は店舗の悩みを解決するために取り入れる方法ですが、一方では採用の大切さを現場の店長にも知ってもらう機会でもあると思います。それを理解してもらえれば、応募をしてくれた人、採用した人を活かさないということが、いかに損益になるかもわかるのではないかと思います。すなわち今まで以上に人を大事にするようになると思うんですよね。

――エリア採用は「人材を大切にすること」を実施すると同時に、その大切さにも気づかせる効果もあるんですね。

エリア採用の先にある「新しい働き方」の時代

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――エリア採用の詳細やその先にあるヴィジョンをうかがうと、飲食業というよりも人材派遣業の分野のお話にも聞こえます。

平本:余談になりますが、人材派遣会社はアメリカよりも日本の方が多いんです。もしエリア採用のような方法を上手く使うことができれば、今ほど企業が人材派遣会社に頼らずとも、うまく人材を活用できる気がするんです。これまで人材派遣会社に頼らざるを得ない、つまり人材のやりくりがうまくいかなかったのは、採用する側の事情ばかり優先させてきたから、という側面もあるのではないでしょうか。

――人材派遣会社の業務を採用する側と働きたい人のマッチングと考えればエリア採用の有効性も実感できますね。

平本:それに働きたい人の情報があり、一元管理をしている価値は、将来的にも価値があるんです。冒頭でもお話しましたが、ドトールのアルバイトは学生が多い。その働き手の情報や登録は、ご本人が希望すれば、一度辞めたあとも登録をそのまま残しておきたい。その後に「1日だけ働きたい」「この一週間だけ稼ぎたい」という希望が出てきたときもスムーズに対応できますからね。

――「経験さえあれば、年月を経てもすぐに働ける場所を持てる」ことにもつながりそうですね。店舗としても1日だけのヘルプに応えてくれる経験者の存在は心強そうです。

平本:副業が奨励されるなど、これからの時代の新しい働き方にも合いそうですしね。「浮いた時間を有効に使いたい」と考える人にもニーズがあるでしょう。

――近年、話題に挙がる「新しい働き方」とも相性がよさそうですね。

平本:ええ。個人的な意見ですが、人手不足が叫ばれたり、夫婦共働きが当たり前になりつつあり社会でありながら、一方で、「103万円の壁」(所得税が発生しない年収の上限)や「150万円の壁」(配偶者特別控除が受けられる年収の上限)など、ちょっと語弊があるかもしれませんが、働きたいという気持ちを抑制するといっても過言ではない制度も存在している。今の状況を考えれば共働き世帯こそ税制面などで優遇されなければいけないと思います。エリア採用を背景にした採用や人材活用も、それを後押しができるとうれしい。

――「働きたいけど、時間の面で条件の合う仕事がなかなか見つからない」という人にとってはうってつけですね。

平本:副業って、共働き世帯、それも子育てをしながら働いているような世帯にこそニーズがある。自分にとって都合のよい、ちょっとした時間を使って稼ぎたいという人は多いでしょうから。

――仕事に自分を合わせるのではなく、自分に合った仕事を選べるのは理想的でもあります。そう考えると、エリア採用は学生や共働き世代だけではなく、高齢者や主婦の労働意欲にも応えやすい方法といえるかもしれませんね。

平本:エリア採用とそれを活かした人材活用、働き方が当たり前といった時代になれば、自然と家庭でも働き方や税金などの話も今までより出てくるようになるでしょう。アルバイトをしている学生にとっては、それも学びになるかもしれません。

――一種の社会教育のよう。

平本:我々のようなチェーン展開をしている企業こそ、取り組むべき方法。働き手というコミュニティづくりだと考えています。そして、これはテクノロジーなしでは実現しない。「HITO Manager」や「x:eee」といった店舗や働き手を「見える化」するテクノロジーを使って、どんどん発信していきたいですね。

取材・文・撮影/田澤健一郎

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