“飾り物”の中期経営計画から脱却するために。8割以上の社員に浸透させた秘訣

ーー社員が当事者意識をもてる中期経営計画を作り始めた経緯を教えてください。

取り組みをする以前、当社の「中期経営計画(以下、中経)」は、完成したものを社員に展開して説明するという、一般的な手法を実施していました。内容はパワーポイント2枚だけで、中経というより行動指針に近く、社員からも「どこを目指しているのかわからない」と言われることも少なくありませんでした。

そんな折、会社とそれを支える執行役員の成長にワントップ経営フェーズの終わりを感じた社長の内田は、社外取締役を置いた社長のワントップ体制から、社内取締役を立てた新しい取締役会を作ることを決意し、2018年に新取締役体制へと変更しました。

この新しい取締役体制のもと、2019年から2021年までの中経の策定が始まりました。

その中で力を入れるべきと考えたのは、中身の充実も然ることながら、策定後にどうすれば社員が当事者意識を持ってこの中経を実行していけるのか、ということでした。

どんなに素晴らしい中経を作ったとしても、実行が伴わなければ意味がありません。人材不足の更なる深刻化が予想される一方で、社会の変化はスピードを増しており、こういった環境の中で中経を実行していくためには、経営陣だけでなく社員一人ひとりが当事者意識を持つことが不可欠だと考えたのです。

ーー社員が経営計画を理解し実行できるよう、策定プロセスから全社員を巻き込むために「アジャイル」手法というものを取り入れたのですね。

はい。策定に全社員が関われる状況を作ることで、企業運営に当事者意識を持ち、働きがいを向上させたいという思いから、策定プロセスから全社員を巻き込むため「アジャイル」手法を用いることにしました。

アジャイルは『すばやい』『俊敏な』という意味で、要求仕様の変更などに対して、機敏かつ柔軟に対応するためのソフトウェア開発手法として知られている言葉です。

具体的には、策定プロセスをα版・β版・1.0版という3段階に分け、各段階で未完成な中経のファイルを全社員に展開し、言葉の使い方から方針・戦略に至るまでどんな意見でも良いとしてフィードバックを求めました。年齢・社歴に関係なく社員からフィードバックを得ることができ、その数はα版に121件、β版に63件となりました。これらすべてに経営陣が回答。良い案を取り入れてブラッシュアップを重ね、1.0版をリリースしました。

ブラッシュアップの例として大きなところだと、企業理念の文言を大きく変更しました。そして、以前は2ページしかなかった中経は、内容としても充実し最終的には206ページの冊子となりました。

206ページの冊子となった実際の中期経営計画。完成した冊子は全社員へ配布

206ページの冊子となった実際の中期経営計画。完成した冊子は全社員へ配布

ーー「アジャイル手法」で得られた効果はありましたか?

“1.0版をリリースした後は、これまで実施していた個別の説明会を催すことはなく、各部署やチームの目標設定が速やかに行われました。目標とした「リリースとともに実行フェーズに入る」については達成できました。

また、策定後に実施した社員アンケートでは回答者の80%以上が「中経に対する取締役陣の考え方を理解できた」と、90%以上が本プロセスを「概ね良いやり方だった」と回答しており、取り組み・内容共に前向きに受け入れられたと感じています。

当社では8割以上の社員がお客様先に常駐しています。この形態は、社員と経営陣、異なるロケーションで仕事をする社員同士の「対話・議論」が難しいのですが、今回の取り組みにより以前よりも社内での「対話・議論」が起こるようになりました。

一方で社員の情報を受け取る力や、発言する力の強弱が見えるようにも。

「仕事のやりがい」は人それぞれですが、組織において自分の意見が尊重されていると感じられる職場は、心理的安全性も高まり仕事のやりがいにもつながると考えています。

そのため、今後は情報を受け取る力や、発言する力が弱い人に合わせた配慮をするとともに、その力を向上させる教育をしていこうと考えています。

策定後に実施した社員の満足度が高いアンケート結果

策定後に実施した社員の満足度が高いアンケート結果

また、今回「作成の方法」はアジャイルでしたが、中期経営計画自体は1年間固定されたものでしたので、今後は絶えず社員とディスカッションをしながら、中期経営計画そのものをアジャイル的に適宜更新するという本当のアジャイル中経の実施を目指していきます。

取締役陣全員が「必ずやり遂げる」気持ちを一つに社員からのフィードバック全てに回答

ーーこの取り組みで苦労したエピソードなどはありますか?

最も苦労した点は、社員からのすべてのフィードバックに回答をすることでした。

工数的な負担も多かったのですが、どちらかというと精神的な負荷の方が高かったと感じています。これに対しては、アジャイル中経を始める前に、取締役陣全員で合宿を行い「必ずやり遂げる」という気持ちを一つにしたことで、乗り越えることができました。

社員総会でのβ版の説明とディスカッションの様子

社員総会でのβ版の説明とディスカッションの様子

ーーホワイト企業の認定取得を目指したきっかけや目的を教えてください

昨今では、大手企業だけではなく中小企業でもITを活用した課題解決が必須となっています。そして、こういったお客様の課題をIT技術で解決するのが、我々システムインテグレーター(SIer)の役割であると、私たちは考えています。

しかし現状ではIT人材が不足しており、SIerのエンジニアとして必要な「お客様と同じ課題意識を持ち、企業価値を上げていくことができる能力」を持つ人材は更に不足しています。

こういった背景を受け、SI業界への優秀な人材の流入を増やすためにSI業界の魅力を上げることが急務であり、同時に既存のエンジニアのさらなる成長をサポートすることにも力を入れる必要があると考え、教育システムの構築や新たな人事制度へのチャレンジ、企業理念の浸透など、様々な方法で業界に先駆けたホワイト化に取り組んでいます。

ーーホワイト企業認定取得後に、社内外から得られた効果はありましたか?

採用活動において、応募者の方々が当社に興味を持っていただくきっかけの一つになっていると思います。特に新卒採用においては、その傾向が強いように感じました。

ーーコロナ禍に伴った取り組みや新制度、今後の課題点について教えてください

2020年4月1日に社長の内田が全社員に向けて『APCの最優先事項を「社員とそのご家族を守る=社員の給与を守る、そして社会に貢献する」とします。』というメッセージを出しました。

以降、このポリシーに則りリモートワークの促進や一時金の支給などを実施してきました。

お客様先常駐というビジネスモデルは、その特性上リモートワークは難しいと言われてきましたが、上記の宣言から1か月ほどで在宅勤務率を85%にまで上げることができました。これは、ひとえに社長をはじめとする取締役陣の「何としても社員を守る」という気持ち、そしてそれを実現するためにお客様との調整や環境整備に社員たちが励んでくれたからこそだと、手前味噌ながら思っております。

緊急事態宣言解除後は、新型コロナウイルス発生の前に戻すことはせず、勤務場所が別々であってもチームとして機能する円滑なコミュニケーションの確立を目指すという指針のもと、新しいワークスタイルを模索中です。

ーー最後にホワイト化を目指す企業様へ一言お願いします

“SIerは業界構造上「ホワイト化」の取り組みが難しい業態だと思います。しかし、「こういう業態だから」「中小企業だから」「資金がないから」と施策や取り組みを進めることが難しい企業であるほど、そこに真剣に向き合い「ホワイト化」を実現出来れば、長期的に企業を存続させることが出来るのではないでしょうか。

ホワイト化は、中小企業や取り組みが難しいとされる業種・業態の企業こそが取り組むべきだと思います。当社のような中小企業の中で実施した事例を多数の方に知ってもらうことで、多様な社員が安心して働き強みを発揮出来る環境を世の中に広めていくことに寄与できれば幸いです。

<ホワイト財団のインタビューページ>