男性が大学時代にアルバイトしていたのは、23区南部にあるコンビニだ。住宅地で周囲にライバル店が少ないためか、店はとても賑わっていたという。
「とにかく忙しかったです。夜勤だったのですが、終電過ぎまでは会社帰りのサラリーマンがひっきりなしに買い物にやってきます。それに、週末はヤンキーの集合スポットになってました。駐車場があるような店舗でもないのに、店の前にたむろしてカップ麺とか啜っているんです。決して治安がいいとはいえませんでした」
本人も「自分は陰キャ」だと話す男性が、そんなコンビニでのアルバイトを選んだのは、通っていた大学の近くにあって「夜7時を過ぎると人通りが少なくなる住宅地ですから、夜勤なら暇そうだと思った」からだった。
しかし、結果は真逆。
男性は「まさか、週末はヤンキーの集まるスポットとは想像できませんでした」と悔しがる。
実際、仕事帰りの人が来なくなる終電終了後までは、全力でレジ業務。その後の真夜中も、客こそ少ないものの大量の品出し業務があるという、実際は「休む暇もないアルバイト」だった。唯一の救いは、交代要員として朝にやってくる同僚バイトの女子大生たちが可愛かったこと。
「やはり近所に住む女子大生たちだったんですが、自分の通っている大学にはいないタイプの美人ばかり。それに…自分にも笑顔で挨拶してくれるので、アルバイトをしていればいつかは仲良くなれるんじゃないかと、本気で考えていたんです」
ただ実際に起こっていたことは、せいぜい「朝の挨拶する」程度。関係性を深めるような出来事はまったく起きなかったわけだが、当時の男性は「完全に妄想に酔っていた」と振り返る。
「もうLINEが普及していた時期だったので、アルバイト同士でグループLINEもつくっていたみたいですが、当時は“LINEなんか始めたら終わりだ”という謎の価値観に囚われていて、入りませんでした」
むしろ、仲良くなるチャンスを全力で放棄しているじゃないか……。何やってんの。
オーナー店長のイヤミが尋常じゃない
さて、そんなコンビニには、忙しい以外の「大問題」があった。それは、オーナー店長が超イヤミだったこと。つまらないことをネチネチと言ってくるタイプで、アルバイトにも始終小言ばかりいっていたそうだ。
「恵方巻とかの時も、ノルマを強制することはないんですが、後から“買わなかったよねえ”とか延々と嫌味をいってくるんです。それも。お盆の時期になってもまだいってました。今思うと、自分以上の度を超えたコミュ障だったんじゃないかと思います。客にも挨拶すらしてませんでしたから」
そうしたイヤミの積み重ねで、職場には悪い雰囲気がどんどん充満していった。そしてついに「事件」が起こった。男性がそれを知ることになったのは、店長から、突然「今日、夜勤入って」という電話があったことだった。
「お願いというよりは、強制みたいな感じでした。ちょうど予定もなかったので入ることにしたんですけど、その夜は店長と二人っきり。朝になってやってきたのは、店長の奥さんやら親戚という人とかだったんです」
いつもと明らかに様子が違う。さすがに尋ねてみたところ、「キミ以外のアルバイトは一昨日全員辞めた」と告げられたそうだ。
他のバイトと仲良くなる夢を抱いていたのに、実際は完全に1人だけ「ボッチ状態」になっていたわけだ。痛すぎる。
「確かにほかのアルバイトとは、まったくコミュニケーションを取っていませんでしたが、そこまでとは…一瞬、死のうかと思いましたよ」
店ではすぐにアルバイト募集を始めたが、そんな急に応募が続々と来るわけもない。男性は週4日夜勤を求められ、店長も連続夜勤で死にそうな顔をしてレジを打っていたそうだ。
さすがに、ここまで至ると男性もバイトを続ける意味がない。
「このままでは、本当に死んでしまうと思い、自分もメールで辞める旨を告げて逃げましたよ」
さんざんな「ぼっち体験」をした男性だが、結局それは生粋のものだったようで、社会人になったあとも飲み会を断り続け、職場では「孤高の存在」と化しているそうだ。
男性は「今は会社員をしていますけど、グループワークが発達したおかげで、コミュ障でも仕事しやすくなってよかったですよ」と、同僚との関係づくりをあまり気にもしていない様子。
学生時代に経験した「自分以外全員ばっくれ事件」は、男性のメンタルをさらに強靱にしたのかもしれない。