「スモール・グッド」なアイデアはこんなに転がっている:ビジネスデザイナー細野真悟さんに聞く「小さな事業」の作り方 (2) | キャリコネニュース
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「スモール・グッド」なアイデアはこんなに転がっている:ビジネスデザイナー細野真悟さんに聞く「小さな事業」の作り方 (2)

ビジネスデザイナーの細野真悟さん(左)とグローバルウェイ取締役の根本勇矢

ビジネスデザイナーの細野真悟さん(左)とグローバルウェイ取締役の根本勇矢

リクナビNEXT編集長やリクルートキャリア執行役員を経て、現在はフリーのビジネスデザイナーとして活動する細野真悟さん。自らの挫折経験を踏まえ、新しいビジネスを作ろうとする人の実践型コミュニティ「Fukusen(フクセン)」を運営している。

インタビューの2回目は、「スモール・グッド・ビジネス」の具体例について。現在実験中のアイデアを含めて、「ここまで聞いてしまっても大丈夫なの?」と心配になるほど赤裸々に話してもらった。聞き手は株式会社グローバルウェイ取締役の根本勇矢。(構成:キャリコネニュース編集部)

購入前のマンション住民に聞ける「SMUCAMO(スムカモ)」

――前回、「副業解禁時代」のサラリーマンが手を出すべきではない仕事と、「スモール・グッド・ビジネスのオーナーになる」という対案についてお聞きしましたが、もう少し具体的な例をあげていただけますか。

細野:いま僕は「Fukusen(フクセン)」というプロジェクトを立ち上げて、会員を募ってビジネスプランを練っています。集めた会費もプラン検証のために投資するので実質ボランティアなんですけど(笑)、そこに出ている案件からいくつかご紹介しましょう。

たとえば「SUMUCAMO(スムカモ)」というアイデアがあるんですが。中古マンションを買おうとする人って、家族がいると、子供の教育環境や学校はどうかとか買い物はどうかとか、住んでいる人にしか分からないことを最後に確認したいじゃないですか。

でも、マンションの住人にピンポーンって行って「実際住んでいてどうですか?」とか聞けない。どの部屋に家族連れが住んでいるかもわからないし。不動産屋さんに「住民にヒアリングを設定してくれますか?」と頼もうにも、変なこと言われたら嫌だから受けてくれないでしょう。

でも購入時にそこでミスったら、数千万円ミスるわけじゃないですか。その瞬間ってそれなりの金額出してヒアリングしたいというニーズがあるのでは、ということで「あなたが今から買おうとしているマンション限定で、住んでいる人とのヒアリングをセッティングしますよ」っていうサービスを作ろうとしている人がいます。

マンションに住んでいる方々の家族構成などをデータベース化しておいて、1時間いくらみたいな感じで、匿名で顔出さずに根掘り葉掘りヒアリングできる。そうすると購入前の不安が全部消せるし、「実はここ治安が悪くてね」みたいな話も聞ける。

大企業がやらないビジネスの「すき間」が存在する

トライアル利用を始めた「SMUCAMO(スムカモ)」のサイト

トライアル利用を始めた「SMUCAMO(スムカモ)」のサイト

――あの、すみません、これ記事にしちゃって大丈夫ですか。どこかの企業とかに、アイデアをパクられたりするおそれはないんでしょうか。

細野:大丈夫。企業がやるには規模が足りなかったり、既存事業に悪影響を与えるとかいう理由で諦めさせられてるアイデアって、この世に何万とあると思っていて、それを個人の「スモール・グッド・ビジネス」として実現させるものだからです。

購入前に絶対に知っておかなきゃいけない情報だから、1時間のヒアリングで数万円出す人もいるはず。謝礼で半分支払ったとしても1~2万円のフィーが入ります。それが年間300人いたら300万円。個人なら十分幸せな「スモール・ビジネス」ではないですか。

――販促のブレーキになる領域だから、不動産会社は絶対にやらないビジネスですね。既存のサービスがハード面のニーズをほぼ揃えてきたから、その先のラストワンマイル、もうひと深掘りのこだわりを満たす需要が出てくる。

細野:ちなみに、このアイデアをやろうとしている人は、自分がマンション買うときにそういう負の経験があって、自分としてやる意味があってやっている。こういうすき間は、実はいっぱいあるんですよ。

――大企業の新規事業プロジェクトだと「3年で黒字化マスト」とか、前提となるコストが大企業の人件費で、大企業のビルの固定費はかかるし、大企業のマーケティングを使う前提になってしまう。

細野:でも一人でやれたり、誰かにちょっと手伝ってもらうくらいでやれるんだったら、全然黒字化できるし、スモール・グッド・ビジネスのオーナーは夢ではないと思います。下手にスキル極めて食えるようになるより、僕は楽だと思っています。

「さほど儲からない」ことが最大の参入障壁

「SMUCAMO(スムカモ)」の構想を説明するFukusenメンバー

「SMUCAMO(スムカモ)」の構想を説明するFukusenメンバー

――むしろサラリーマンとして、会社の中で途中まで検証してからやってもいいですね。

細野:そうそう。会社の中でダメだって言われたら「ラッキー!却下しましたよね?」と。それ、僕のアイデアですよって言って、会社辞めずに仕事しながら立ち上げて、仕事しながら幸せになればって、そんな感じ。

もうひとつ「歩き飯」というアイデアを紹介しましょう。いまコロナ禍で、みんな外に出なくなって太っちゃっていますよね。飲食店のデリバリーサービスで配達だけされてバクバク食べて、しかも割高じゃないですか。で、太ったから歩かなきゃ、みたいな愚かなことをしている。

一方、店側はデリバリーに売上の30%以上取られるし、本当は店に来てほしいんだけど開店休業状態。だったら「コロナ太りで歩かなきゃいけない人が、お店まで歩いて行って食べたらキャッシュバックされる」っていうサービスはどうかと考えたんです。

店からしたら、今まではターゲットじゃなかった中距離圏の人たちが10分以上歩いてきてくれるから、新しい商圏の集客につながります。しかも手数料を取られないし、配達準備もしなくていい。お客としても、ちょっと歩いて健康になって、100円とかキャッシュバックされるので遠くても歩いていく。

――これも、そんなに儲からないところに企業は時間かけてやらない、ということが最大の参入障壁ですね(笑)。でも本人としては、太ったから嫌だとか、何かしらの課題感を持っているから、ちょっとずつ積み上げて検証して、いつかビジネスになるかもしれない。

細野:そう。それで誰かが喜んでくれて、自分の利益になって、こんな幸せなことないじゃないですか。これならネットは使うけれども、ネットビジネスではない。

――ちなみに、本当に歩いてきたかどうかの証明はどこかで取ったりするんですか。

細野:例えば、歩く前にグーグルマップで「今からここを出て、こういうルートで行きます」と連絡し、歩き終えたらGPSの経路を撮って見せるようにしてはどうかと考えています。

一律3万円で「GitHubのこのブランチだけ片付けて」

細野:あと、マニアックですけど「workhub(ワークハブ)」というのをやろうとしている人がいます。

いま多くのエンジニアがGitHub(ギットハブ)にソースコードをホスティング(格納)しながら仕事してますが、「人手が足りない」「開発が間に合わない」っていうときに「GitHubのこのブランチだけ誰か片付けてくれ」っていうのを、パッと依頼してパッとやってくれるみたいな。

ポイントは100円ショップみたいに、一律3万円とすること。いちいち人を捜して、依頼して交渉して値決めするとか面倒臭いから。「このブランチお願い」ってGitHubのある程度のブランチを公開しちゃって、「それやります」と手を挙げた人が納品してくれるマーケットを作りたい、という人がいます。

――それって多分、そもそもスモール・ビジネスのスモール・システムを、さらにスモールに分解しているんですね。ニーズありそうです。

細野:ベンチャーで手が足りないとか、ここの構造だけきれいにして欲しいとかをブランチ単位でお願いできるマーケットプレイス。一日で作ってくれるのに、いちいち「契約書回して」とかいらんでしょう。それも今、実験しようとしています。

――確かにウェブエンジニアのスキルワーカーとしては、「ワードプレスで採用サイトの作成請け負います」とかよりも圧倒的に夢がありますね。

細野:事例があると「ああ、それは確かに行けそうだし、大手がやってこなさそうだね」って思うでしょう。いま僕がやってる「Fukusen(フクセン)」というプロジェクトは、そういう面白くてスモールだけどグッドなものをインキュベートしていきたいと思って運営しています。この運営のしくみも面白いと思うので、次回は具体的に説明しましょう。【過去のインタビュー記事はこちら】

※本記事は2月10日に掲載した取材記事となります。7月よりブランドチャンネル設立に伴い、カテゴリーを移動しておりますが、本記事はPR記事ではございません。

細野真悟(ほその・しんご):リクナビNEXT編集長、リクルートキャリア執行役員、リクルートグループの子会社の社外取締役を歴任。現在は、企業間レンタル移籍プラットフォームのローンディールのCSOを務めるかたわら、音楽コラボアプリを運営するnana musicの戦略顧問、および共済型ビジネス実践ファーム「Fukusen(フクセン)」を主宰するビジネスデザイナーとして活躍中。【ビジネスデザイナー細野真悟さんに聞く「小さな事業」の作り方:過去記事一覧(全5回)】

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