鎌倉新書・清水祐孝会長CEOインタビュー(1) 「出版にこだわらず、情報を届ける会社をやろう」と目覚めたころ | キャリコネニュース
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鎌倉新書・清水祐孝会長CEOインタビュー(1) 「出版にこだわらず、情報を届ける会社をやろう」と目覚めたころ

鎌倉新書・代表取締役会長CEO清水祐孝氏

鎌倉新書・代表取締役会長CEO清水祐孝氏

鎌倉新書といえば、2017年に東証一部(現プライム市場)に上場し、売上高を38億円に伸ばした大手企業。紙の出版からインターネットビジネスへ、事業を大胆に転換して成功を収めていますが、その道のりは決して平坦ではありませんでした。

しかし、次の一歩をどこに踏み出していけばいいのか、変革の種となって的確に導いてくれたのは、いつもお客様だったそうです。鎌倉新書・代表取締役会長CEO清水祐孝氏のインタビュー、全3回を掲載します。

仏教書の販売先で「お葬式の市場規模」を発見

鎌倉新書は、私の父が創業した会社です。仏教書の出版事業をしていたのですが、業績が思わしくなく、唯一いた社員も辞めてしまったので「手伝ってくれないか」と声が掛かりました。私が26~27歳のことです。

当時は親元を離れていたので、儲かっていないことくらいは容易に想像がつきましたが、どこまで厳しい状況かは全く知りませんでした。勤めていた証券会社を辞めて半年後に入社してみたら、借金が売上高の3倍くらいあった。バブル崩壊前の景気のよい時期で、わりと鷹揚にお金を借りられていたのかもしれません。

会社は実質的に倒産状態に陥っていて、「話が違うじゃないか」となったのですが、そんなことを言っていても仕方がない。これまでと違うことをやらないとどうにもならないと考えながら、会社の中身を自分なりに把握していきました。

仏教書というのはお寺さんが購入してくださるのですが、実際に足を運んでみると、お葬式をやったり、お墓を分譲したりしていて、「隣接したところにこんな産業があるのだな」と発見がありました。あらためて調べてみると、世間から見ると非常にニッチなのですが、お葬式の市場規模が意外と大きいことが分かりました。

いま日本国内で、1年間に140万人の方が亡くなるのですが、当時はその3分の2くらい、80万人くらいでした。それでも、亡くなる方1人あたり150万人くらいの費用がかかるとすると、1兆2000億円の市場規模になる。

それから、当時はまだ大きなお仏壇が仏間に入る時代だったのですが、この市場が5000億円。お墓を建ててお骨を安置する市場が5000億円。これらすべてを足すと2兆円以上。これはかなり大きな個人消費の産業じゃないか、と気づくに至りました。

「出版ビジネス」のまま、読者対象を変更

月刊『仏事』は供養業界誌として現在も刊行されている

月刊『仏事』は供養業界誌として現在も刊行されている

そこで、仏教の教えの本を作っていたのでは立ち行かなくなるということで、お葬式やお仏壇、お墓の業界に向けた情報を載せた冊子や、そういった産業の方がお客さんにお渡しする紙媒体の販促ツールなどを作り、全国の葬儀社さんや石材店さん、仏壇・仏具店さんにまとめて数千部ずつ買っていただく、という事業を始めました。

寺院を対象にした『宗教と現代』という月刊誌も、供養関連の内容を増やし、名前を月刊『仏事』に変えました。そうすると、少しずつ売上が増えていき、借金も減って――というのが入社して数年間の話です。当時は、この事業が大きくなる感覚もなく、とにかく目の前の借金を返さないことにはどうにもならない。そんな状況で、将来上場しようなどということは頭にも浮かびませんでした。

ここで私がやったことは、「出版ビジネス」という軸は変えずに、読者対象をちょっと横にずらしたという話です。たまたま隣接する領域に、学術的じゃない産業が横たわっていて、土地勘がゼロじゃなくて、そこにシフトしていったという話だと思うのですよね。

そして、社長兼月刊『仏事』の編集長として、葬儀社さんや石材店さん、仏壇・仏具店の社長に話を聞く、といったことをやっていたのですが、ある日、お客さんのところで私どもの雑誌が社長の机の上に置かれているのをみて、ふとあることに気づきました。

本を買ってくれるお客様は、紙とインクでできた本が欲しいのではなくて、そこに書いてある”情報”が欲しいから買ってくれるのだと。つまり私たちは出版社じゃなくて、情報を売っているのだということ。そのとき「これからは情報の届け方にはこだわらないで、情報を届ける会社をやろう」と考えが変わりました。

例えば、ある話を月刊誌に4ページ載せました。しかし、そこには通り一遍の話しか書いていません。この領域についてもっと深く知りたい人は、全国に取材に駆け回っている私が1日かけて話しますと、100ページくらいの情報をお伝えできますよと。

雑誌の情報をセミナーやコンサルティングに展開

セミナーは役員や社員が講師を務めるなど形を変えて継続している

セミナーは役員や社員が講師を務めるなど形を変えて継続している

つまり、情報の深さによって課金体系を変えてやればいいのではないか。何千人に届ける情報なら月刊誌を年間15,000円で定期購読してください。特殊な情報についてもっと深く知りたい人は3万円のセミナーに参加してください。そんな形で。

あるいは、コンサルティングという形で、御社のためだけに情報を調べて持ってきてくれという方には、50万円、100万円支払っていただければお届けしますよと。「自分は情報屋だ」と思ったときから、情報の形をさまざまに変えながら、多様なビジネスを展開していくことができました。

お取引先との関係も、少しずつ変わっていきます。大手企業の社長のところに行くと、最初は「何しに来たんだ!」と言われるので、いや、社長のところがもう素晴らしい成長を遂げているので、ぜひお話をお聞かせください、なんて頼み込んで聞かせてもらって。このときは、取材先から私に100対0で情報が流れてきます。

しかし、私はそれを毎日いろんな会社であちこち繰り返しているので、私のところにどんどん情報が溜まっていきます。で、半年後に大手社長に会うと、先方からいただく情報が70に対し、こちらが届ける情報が30くらいになっているのですね。それを繰り返していくと、どこかの時点で、私から届ける情報が51と過半数になる。

そうなると、社長も好意的に捉えてくれるようになります。「来月はいつ来てくれるんだ?」「おたくで出してる本、どんなのがあったっけ。うちで何か買った方がいいものがあるか?」とか。「飲みに行こうよ」と誘われることもありました。

最初のころのようにぞんざいに扱われることもなくなり、そのような関係を元に、セミナーを開いたり、コンサルティングをしたりして、新たなビジネスを広げていくことができるようになったのです。

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