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「恋愛できないなんて人間じゃないと言われた」 アセクシュアル当事者が投げかける”恋愛するのが当たり前”への疑問

LGBTの存在には光が当たるようになってきたものの、異性・同性問わず他者に「性的に惹かれること」のないアセクシュアルの存在はまだほとんど認知されていない。

そうした状況に一石を投じようと、アセクシュアルを自認するなかけんさん(21)たちは11月10日、トークイベント「あなたの『好き』と、わたしの『好き』、どう違う?」を早稲田大学GSセンターで開催した。

「自分は何か欠落しているんじゃないかと思っていた」

アセクシュアルとは、「恋愛的感情の有無に関わらず、他者に性的に惹かれることがない人」のことを指す。「セクシュアル」という単語の頭に、否定を表す「ア」がついた言葉だ。

性的に惹かれることと恋愛的感情は区別して考える。性的に惹かれることもなければ、恋愛的感情もないアロマンティック・アセクシュアルの人と、恋愛的感情のある「ロマンティック・アセクシュアル(ノンセクシュアル)」の人がいることになる。

なかけんさん

なかけんさん

なかけんさんは、アロマンティック・アセクシュアルを自認している。自分は周りの人と何かが違うのではないかと感じ始めたのは、14歳の時。仲の良かった女の子から「付き合ってほしい」と告白されたことがきっかけだという。

「『付き合ってほしい』というのは、『お買い物に付き合ってほしい』という意味だと思ってしまって、『予定空いているから行ける』というつもりで『いいよ』って答えたんです。その時点でお付き合いが始まっていたのに、自分は全然気が付いていなくて……。そのうちその子に距離を置かれるようになってしまって、共通の友人に聞いてみたら『付き合っているのに、なんの進展もないからだよ。なかけんが悪いよ』と言われて、ショックを受けました」

周りの友人が”男女が付き合ったら、関係が進展するものだ”と当たり前のようにいうことに違和感を覚えたという。そうした中、17歳でアセクシュアルという言葉に出会った。

「バイト先で『恋愛できないなんて人間じゃない』と言われて、ショックを受けたんです。その時、周囲の人も『大丈夫。できるよ』という励まし方で、私自身のありのままを肯定してくれたわけじゃなかった。自分は何か欠落しているんじゃないかと思って、インターネットで調べていくうちに、アセクシュアル・ノンセクシュアル掲示板を見つけて、自分はこれだったんだと気づきました」

周囲の人が「恋愛しなくてもいい」ではなく、「そのうち恋愛できるよ」と励ますのは、”恋愛するのが当然”、”恋愛はいいもの”という価値観が暗黙のうちに広く共有されているからだ。そうした社会では、自分たちの存在を可視化するためにも「アセクシュアル」というカテゴリーが必要になる、としている。

「異性愛カップルだと思われるけれど、相棒に近い感覚」


左からタカさん、真希さん、直さん、なかけんさん

左からタカさん、真希さん、直さん、なかけんさん

美容ライターとして働く和泉直さん(30)は、女性として生まれたものの、自らを男性と認識し、女性でも男性でもない「Xジェンダー」の考え方に共感して「Xジェンダー」を自認している。アセクシュアルで、5年前から異性愛の男性とパートナーシップを結んでいるという。

「私とパートナーは、戸籍や見た目が男女なので、よく異性愛カップルだと思われるのですが、お互いへの信頼感が強く家族のような関係なので、束縛や嫉妬といったカップルのような感情はないです。パートナーも精神的な繋がりを大切にしてくれていて、相棒に近い感覚です」

パートナーとの関係は信頼関係に基づいた家族のようなもので、お互いに恋人だとは思っていないという。

「この人といるととても気が楽で、一生親友でいたいと思ったんです。でも相手に彼女ができたら、疎遠になってしまう。それは寂しいと思ったので、私から『家族になりたい』と伝えました。パートナーであっても性的に惹かれることはなく、そういったことから自分は『アセクシュアルなんだな』と強く自覚しました」

ショップ店員の真希さん(21)は、他者に性的に惹かれることはないものの、アニメやゲームのキャラクターに対しては、恋愛的に惹かれることがある。生身の男性と交際したこともあるが、性への嫌悪感が強く、「相手から反応が返ってくるのが怖い」という。

「20歳の頃に、インターネットで『アセクシュアル』『ノンセクシュアル』という言葉を知って、とても安心しました。その頃ちょうど『自分はおかしいのかもしれない』と悩み始めていたんですが、言葉があると知って、なんだか認められているような気がしました。他にも同じ人がいるし、おかしいことでもないんだと思えたんです」

タカさん(20代前半)は、女性との交際を経たのち、デミロマンティック・デミセクシュアルを自認するようになった。デミロマンティック・デミセクシュアルとは、相手と精神的に深いつながりを持てた場合にのみ、恋愛的に惹かれたり、性的に惹かれたりすることがありうる人のことを指す。

「恋愛は”大人になるためにはしないといけないこと”だと思っていました。義務のように感じていたんです。何人かの女性とお付き合いする中で、自分の求めているものは、いわゆる”お付き合い”とは違うんだなと気が付きました」

相手と出会ってすぐに気持ちが盛り上がり、好きだと感じる人もいる。一般に恋愛は、そうした気持ちの盛り上がりや興奮、情熱と結びつけて捉えられることが多い。しかしタカさんの考える精神的な繋がりとは、そうしたものとは真逆の、数年を掛けて築き上げるような相互の信頼関係のことだという。

「アセクじゃない人にも『恋愛感情って何なんだろう』と問い直してほしい」


なかけんさん(左)と三宅大二郎さん(右)

なかけんさん(左)と三宅大二郎さん(右)

今回のイベントで紹介されたもの以外にも、「グレイセクシュアル」や「リスロマンティック」など様々な人々がいる。聞き慣れないカテゴリーが多いが、こうした新しいカテゴリーがいくつも生み出されるのには、理由がある。アセクシュアルについての研究活動を行う三宅大二郎さんは、こう説明する。

「性愛が前提の社会では、自分たちの存在やあり方が『ない』ことにされてしまいます。言葉を作ることによって『存在』を確立し、可視化していくことができるんです」

三宅さんとなかけんさんで作るアセクシュアル啓発委員会では、今後もアセクシュアルに関する啓発活動を行っていく。またなかけんさんはYouTubeチャンネル「性性堂堂」での活動も続けていくという。

「アセクシュアルという言葉が広がることで、『自分はおかしくないんだ』と思える当事者がいればいいなと思います。また自分はアセクじゃないという人にも、『そもそも性愛や恋愛感情って何なんだろう』と問い直してほしいと思っています」

直さん(左)、なかけんさん(中央)とGSセンターの職員

直さん(左)、なかけんさん(中央)とGSセンターの職員

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