実の親が子どもを虐待し、最悪の場合は子どもの命が奪われる痛ましい事件がしばしば起こる。子どもたちを親の育児放棄や虐待から守る役割を果たすのが児童相談所(以下、児相)だが、時に”勘違い”の通報で動いてしまうケースがある。
女性向けコミュニティサイト「ガールズちゃんねる」に1月20日にスレッドを立てた人物も勘違い通報をされた一人だ。ある日、児童相談所の職員が20時頃、スレ主の自宅に突然訪れた。同じマンションの住人から「最近子どもの姿が見えない」と通報があり、現状を確かめに来たという。
スレ主はもともと家から子連れで外出しない生活を送っており、近隣住民が不審に感じ、通報したのだろう。スレ主は「何かすごく嫌な気持ちになった」と綴る。実は筆者も勘違いで児相に通報され、職員の来訪を受けた経験がある。(文:ジャッカル薗部)
「ご確認したことがございまして」に始まり、子どもの様子を質問される
昨年6月末の18時過ぎ。家族で夕食をとっているときにチャイムが鳴り、インターホン画面を見ると、「市役所の者」を名乗るスーツを来た男性2人が立っていた。
「行政の職員が訪ねてくるとは何の用事だろう」と戸惑いながらもドアを開けると、男性の首からは「児童相談所」と書かれたタグが下がっており、筆者は身構えた。
わけのわからないまま男性2人を玄関に通すと、非常に丁重な態度で「ご確認したいことがございまして」と切り出してくる。職員から明言はなかったが、誰かが虐待やネグレクトなどを疑って児相に通報したことは明らかだった。
ベテランと思われる児相職員は筆者の緊張を和らげようと時折笑顔を見せたり、世間話をしたりしながら、子どもが部屋にいるか、生活のスケジュールなどについて丁寧に質問をしてきた。
筆者は動揺しながらも質問に精一杯冷静に答えたが、その際に通報に繋がったであろう出来事を思い出した。
「いつも笑顔で挨拶を交わしている人が通報した?」と疑心暗鬼
児相職員が来る数日前の21時頃、2歳の長男は寝かしつけ時に激しく泣いていた。長男はもともと声が大きいことに加え、俗に言う「イヤイヤ期」で自己主張の激しさが増していた。「イヤだー!」「うわーん!」などと30分以上にわたって叫び続けた。
筆者が住んでいるマンションは静かな住宅街にあるため、夜だとドアをしっかりと閉めても大声は周囲に漏れる。長男の凄まじい泣き声を聞いた近所の人が「あの家では子どもが乱暴されているのでは?」と思い、児相に通報したと思われる。
筆者はその夜のことを児相職員に伝えた。すると職員は理解を示し、「何かお困りのことがあればこちらにご連絡ください」と名刺を渡して引き上げていった。滞在時間は10分ほどだったと思う。
しかしその後、楽しいはずの夕飯は一転してどんよりしたものとなった。「一体誰が通報したのか」という怒りがふつふつと湧いてくる。「いつも笑顔で挨拶をしているあの人が通報したのかもしれない」。そんなふうに思うと、近所との関わりもイヤになった。
たしかに長男の泣き声は大きい。だがその日の夜のように絶叫することは稀だし、普段から夫婦ともに長男に対して愛情をもって接しており、虐待を疑われて児相へ通報されことは心外だった。
まるで自分の育児を真っ向から否定されたように感じられてショックだった。「家庭の事情も知らないくせに正義を振りかざして!児相に言いつけるなんて酷い!」とも思った。
通報した人も、子どもを助けたいという一心で通報したのかもしれない
来訪から数日後、児相担当者から筆者へ電話があり「虐待の事実がないことがわかりましたのでこれ以上追跡はしません」といわれ、この件は終わった。通報されたと知った時はショックだったが、日が経って冷静になるにつれて、通報した人の心境もわかるようになった。
今回の通報は勘違いだったけれど、実際に国内ではたくさんの児童虐待が起こっている。通報した人は、「子どもの身を守れなければ」との思いで勇気をもって児相に連絡をしたのかもしれない。
今後も近所の人から児相に通報されるかもしれない。でもその時には正直に事実を伝えると筆者は決めている。「児童相談所」と書かれたタグを首から下げた職員を見た時には、「どんな取り調べを受けるのか?」と身構えたが、職員の対応は丁寧で、決して威圧感はなかった。
こちらの話をしっかりと聞いてくれたので、通報の内容が勘違いであることを理解してもらえたことには心から感謝している。子育てにはこのような苦労もあるのだと思い知った出来事だった。