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竹中平蔵、高校生に特別授業 アフターコロナを見据え、今起きている「社会の変化の加速」を語る

竹中平蔵氏(画像はキャプチャ)

竹中平蔵氏(画像はキャプチャ)

菅政権のブレーンとして知られる竹中平蔵氏が1月28日、高校生対象の特別授業に登壇し、若者の素朴な声に耳を傾けた。特別授業は学校法人角川ドワンゴ学園N高等学校が主催し、オンライン上で実施。同校生徒らが出席し、教科書では学べない政治経済の裏側について理解を深めた。

特別授業(全3回)の初回を迎えたこの日は、質疑応答を含む50分×2部の構成で開催。竹中氏は「皆さんのこれからの人生を考える一つのきっかけになればいいなという風に思っています」と話し、政治経済を考える上で必要な視点について解説した。

もしあなたが大臣で”コロナのワクチンを受けるか”と聞かれたら?

「今週と来週、菅総理にとっては1年間で一番大変な2週間を迎えているんです。なぜでしょうか」

授業のあった28日は予算委員会の4日目とあって、竹中氏の話はこんな問いかけから始まった。竹中氏は予算委員会の特徴について「何を議論してもいいんです。スキャンダルを議論してもいいし、どんなことを議論してもいい――」と説明する。

「予算委員会の議論を聞くことで、実は『世の中は結構面白いぞ』ということが分かってくると思います」

と高校生たちにテレビ中継やネット中継を視聴することを勧めた。

その上で竹中氏は高校生に、

「もしもあなたが大臣で『コロナのワクチンを受けますか?』と聞かれたら、何と答えますか」

と問いかける。曰く、もしも「私は進んで受けます。早く受けたいです」と答えようものなら、大変なことになるという。

「『それは国会議員だから、大臣だからその特権を使って受けるんだろう』と。この間から、国会議員の偉い人がちょっとコロナになって、すぐに入院できたというだけで大騒ぎしている人もいるんですよ。『特権を利用しているんだろう』と批判されます」

一方で「私はワクチンを受けるつもりはありません」と答えても、「いやいや、政府がワクチンにこれだけ予算を使ってコロナを抑えようとしているのに、あなたは協力しないのか」と批判を受ける。

実はこれは、前日の国会で実際にあった質問だった。答弁した大臣は「私は受けたいという気持ちはありますけれども、これはまず医療関係者、高齢者から受けて、順番が回ってきたらぜひ受けたいと思っております」と上手く答えていた、と紹介。こうした”知恵の探り合い”が国会では日常的に行われているという。

新型コロナがもたらす”変化”とは?

授業は、高校生にリアルタイムでアンケートを取りながら進行。まず、竹中氏が「日本のコロナ対応はうまくいっていると思いますか」と聞くと、64%が「いいえ」と答えた。

結果を受け、竹中氏は「パンデミックはその前と後でまったく違う世界を作ってしまう」という教訓を紹介する。具体例として、かつてイタリアで発生したペスト菌の大流行を挙げる。

「イタリアで黒死病、ペストとも言われていますけども、が流行って人口の4分の1が死ぬんですよ。その結果何が起きたかというと、それが一つの要因になってルネサンスが起こるんです」

人口の4分の1が亡くなりましたので、当時の農家が貧しい土地を捨てて、豊かな土地に移るわけです。そうすると、一人あたりの収穫が上がりますよね。そうすると、一人一人をみると豊かになるんです。もう一つ、ペストを抑えられなかった教会の権威が失墜するんです。そこで人間復興のルネサンスが出てくる、非常に重要な基礎ができたという風に言われています」

また、ロンドンでコレラが発生した際は「水が汚いことが原因」と考えた人々が、都市部から郊外に移住した。その時に生まれたのが”田園都市”という言葉だったという。

つまり、パンデミックによって「その時に起こりかけていた変化が一気に加速する」と見ることができる。スペイン風邪が流行した際は、地球上の人口19億人のうち1億人が死亡した。このとき、「アメリカの影響力が圧倒的に強くなった」という変化があった。

では、新型コロナでは何が変わるのか。竹中氏は明らかに起こっている変化として「デジタル化」を挙げる。在宅勤務、遠隔教育、遠隔診療が一気に増えているが、「日本では小中学校で遠隔教育ができなかったんですよね」と語りかける。

「その理由は明快です。日本では文部科学省がこの遠隔教育を正式な単位として認めてないんです。つまり、規制があるんです」

さらに、竹中氏は「どうして日本で在宅勤務が広がらなかったのか。それは働き方に問題があるからでしょう」と続ける。デジタル化には「単にデジタル機器を使えというわけではなくて、それに合わせて不都合な制度を変えることが重要」と結論付けた。

「100万床ある国で医療崩壊なんて、本来はあり得ない」

続いて、「日本の医療界はコロナに対してすごく頑張っていると思うか」という質問を高校生に投げかける。結果は歴然。85%が「はい」と答えた。

だが、竹中氏は「正解は誰にも分かりません。でも、私は聞かれたら”NO”と答えます」と断言する。”ある大病院の医師”という竹中氏の甥も大変な状況で、家にも帰れない日が続いており、「そういう医師がいることは間違いないし、心から敬意を表して感謝したい」と話す。

「しかし、皆さんはご存知でしょうか。この国には病床は100万あります。100万あるうちのコロナ用に割り当てられた病床数は2万7000です。3%弱なんです。あとの97%はまだ活用できるんです」

竹中氏は「医療崩壊」という言葉に疑問を抱いており、「この国全体ではものすごいたくさんの医療資源があるのに、そのうちのごく一部しかコロナのために割り当てられていなくて、まだ活用する余地があるのにそれが残されているということです」と説明する。

「別の言い方をすると、本当に大変な思いをしているのは医療従事者のごく一部ということなんです」

と補足。100万もあるベッドで医療崩壊なんて「本来はあり得ない」と言い切り、ベッドが動員されていないことに問題があると指摘する。介護士の増員や防護服が必要なことに対しては、政府が用意した2.6兆円の予算が4割しか使われていないことを指摘し、「こういう議論がワイドショー的、SNS的に広がらないので見落とされている」と危機感を示した。

「若い人には海外へ行くことを勧めたい。それはアウェーで勝負するということ」

竹中氏は高校生から寄せられた質問にも回答。「どこで正しい情報を得たらいいか」という質問に対しては「いろんな方の声を聞いて、自分で判断するしかない」とアドバイスする。

「ものを読むだけ、聞くだけでは絶対だめで、その後に考えるっていうことが私はすごく重要だと思います」

と諭す。竹中氏は小泉政権が引退する2日前に、官邸で開かれた夕食会に招待されたエピソードを明かす。当時出席したのは、次期首相に決まっていた安倍晋三氏、経済界重鎮の2人の計4人。非常にプライベートな会食だったという。その時、小泉氏は、隣の安倍氏に言い聞かせるようにして語った。

「総理大臣になったらね、いろんな人がいろんなことを言ってくる。で、いろんな人の意見を聞いた方がいい。しかし、総理としてはその時は『ありがとうございます』とだけ言って、『それはいいですね』『それは違いますね』とか何も言うな。全部自分で持ち帰れ。そして自分で考えて、腹に落ちたことだけやれ」

竹中氏は、総理大臣だけでなく、企業のトップも最後は自分で考えなくてはならず、こうした孤独に耐えられる人がリーダーの資質だとする。

また、「もしも今、高校生だったら何をしたいか」という質問に対しては、少し考えた上で「戻れるならば、もっと世界を知りたい」と答える。竹中氏が高校生だった当時であれば、行き先はアメリカだったが、今は中国やインドに置き換わってきているという。

「海外に行くことをぜひ若い人に勧めたいと思います。それはアウェーで勝負するということ。アウェーで勝負するのは、すごくつらいです。言葉は思うほど通じないし、考え方は違うし、肌の色が違って受け入れられない場合もあるし。でも、そこで得られるものを本当に見た時の新鮮な感覚、それとアウェーで生き抜くことによって得られる精神的なタフネス。これは極めて大きいものがあると思う」

竹中氏は「次に世界を引っ張っていくような国に行ってみたい」と続け、そこで多くの友達を作って見聞を広めることで、初めて日本の良さ、悪さが分かるとまとめた。

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