ピクスタが「リモートワーク主体」の働き方へ移行 オフィス面積を3分の1に削減、賃料は半分以下に | キャリコネニュース
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ピクスタが「リモートワーク主体」の働き方へ移行 オフィス面積を3分の1に削減、賃料は半分以下に

新オフィスに設けられたソファ席とカフェ席(ピクスタ提供。以下同じ)

新オフィスに設けられたソファ席とカフェ席(ピクスタ提供。以下同じ)

新型コロナ禍への対応をきっかけに、社員の働き方を「リモートワーク主体」に振り切った会社がある。国内最大級の素材提供サイト「PIXTA」を運営するピクスタ(東京・渋谷)は、この2月に「オフィス縮小移転」という大胆な取り組みを行っている。

昨年2月に「原則在宅勤務」を始めて1年。働き方を変えるさまざまなメリットを感じたという。企業理念との親和性もあると判断し、働き方の主体を完全に切り替えたというが、どのような考え方に基づいているのか。同社執行役員で戦略人事部長の秋岡和寿さんに話を聞いた。(キャリコネニュース編集部)

即断実行。積み重ねた取り組みが開花

ピクスタ戦略人事部長の秋岡和寿さん

ピクスタ戦略人事部長の秋岡和寿さん

――現在の出社率はどのくらいですか。

コロナ前が100人ほどだったので、5%くらいですね。総務、経理、人事系のバックオフィスの業務に携わるメンバーと、どうしてもリアルで会って話をしたい案件のある事業系のメンバーが出社しているくらいです。

働き方の主体をリモートワークに置くことに決めた昨年夏ごろには、オフィスをなくせないか、といったゼロベースでの検討もしました。最終的には、オフィスの役割をワークプレイスではなく「会社の象徴とコミュニケーションの場」と再定義し、約300坪あった旧オフィスから約100坪の新オフィスに縮小移転しています。

――オフィスのコストはどのくらいになりましたか。

賃料を含め、5割強削減しました。約120席あった固定席を約20席のフリーアドレス席にし、11室あった会議室・応接室も1室に減らしました。その一方で、オンライン会議用の個人ブースを新たに2席作ったほか、出社したメンバー間でコミュニケーションが取りやすいラウンジなど共有スペースも広めに取っています。

また、社内と社外の境をできるだけ減らそうということで、入口を透明なガラス扉にしました。来客用のエントランススペースをなくし、「PIXTA」コミュニティのクリエイターや家族・子供向け出張撮影サービス「fotowa」のフォトグラファーの方たちが、社員と直接出会えるようになっているところも特徴です。

――リモートワークは御社には合っていた、ということでしょうか。

リモートワークへの移行は昨年2月17日に1日で準備し、翌日から実行しました。ウェブサービスを商材とする事業で、オンラインでできる仕事環境が整っていましたし、五輪を見据えてリモートワークの導入を意識していたので円滑に移行できました。意思決定の早い組織風土であることも大きかったと思います。

コロナになったから変わったというより、コロナになってもともと取り組んでいた考え方ややり方がよりしっくりいって、移行しやすかったという感じです。進めていくうちに、企業理念である「才能をつなぎ、世界をポジティブにする」との親和性も高いと感じました。

東京から地方への引っ越しを決めた人も

――企業理念との親和性とは、どういうところでしょうか。

もともと当社は、埋もれていたアマチュアカメラマンの才能を活かせる機会を提供するべく、2005年に創業されました。その人の背景や制約と関係なく、個人が持っているものをしっかり活かせるチャンスをつかんで欲しい、という思いでサービスを作っています。

いつでもどこでも働けるリモートワークは「個人の才能」を発揮させる状況をより加速させ、いろんな人に選択とチャンスが広がりやすい状況を生むと感じています。この働き方の広がりは、当社の理念を実現していく大きな社会的変化でもあり、レバレッジが効く営みではないかと思います。

リモートワーク主体の働き方に合わせて、制度も変えました。コアタイムをなくし、基本は月~金で深夜労働はできるだけしない中で、月の労働時間の範囲で柔軟な働き方ができるようにしています。時間単位の有給休暇取得も可能です。

人材採用についても、これまで東京中心になりがちだったのが、理屈上は海外にも広げていけるようになりました。東京に住んでいたメンバーの中には、福島や福岡、富山に引っ越した人もいますし、栃木からフルリモートで働く前提で新しく入社した人もいます。

――それでも最終的に自前のオフィスを持つに至った理由は何でしょうか。

先ほど言った「会社の象徴とコミュニケーションの場」として必要と判断したということです。企業理念実現のために、個人が持ち味を活かして意思や意欲をもって組織に貢献していく「自律自走」を大事にしながら、組織の求心力とのバランスをいかに取るか、ということはコロナ以前からの課題ではありました。

事業面でも、ウェブサービスの各機能を分化したうえで全体としてのUIやUXを整えてよい価値をユーザーに届けるには、組織やメンバーがしっかりと連携が取れた形であることが大事です。多様性のあるバックグラウンドを持った人たちが、同じ思いの下に集ってコミュニケーションする中で新しい価値の芽が生まれる。そのような場として、最低限のオフィスは必要と考えています。

より重要になる「コミュニケーションの相互作用」

開放感のある「屋上庭園」(ビルの共用スペース)

開放感のある「屋上庭園」(ビルの共用スペース)

――リモートワークにおける最大の課題は、どこにありますか。

コミュニケーションですね。お互いに察することも察してもらうこともできない環境では、「言葉を尽くすこと」がより必要になります。自分から働きかけるし、相手のことも気遣う。そういう相互作用が大事になっています。

人事制度上の影響はありませんが、運用上の工夫は必要になっていると感じます。本来マネジメントはメンバー一人ひとりに合わせていかなくてはいけないものですが、それがリモートになってより必要になっています。

現状や途中経過、結果を説明したり報告してもらったり、こまめに言語化することが求められていたり。助言だけでなく、関係者に丁寧につないであげるとか、そういうことの積み重ねが大事だなと感じています。

――会社としてコミュニケーションを促進する取り組みをしましたか。

会社全体としては、会社の一員であることを確認する場として、全体会議や表彰式をオンラインで実施しています。リアルのときは壇上で話している人と後ろで聞いている人という距離感がありましたが、オンラインだと距離が近くなるので、メッセージがどんなレイヤーのメンバーにもかえって伝わりやすくなったかなと感じています。

ただし、コミュニケーションの本筋のラインは、上長と部下などの業務上接点がある人たちの関係性で、これをいかに強化するかということが大事です。その部分は会社一律としてこうしなさいではなく、各部署の状況に合わせた取り組みを行ってきました。

リーダー同士で話し合って「リモートになっても孤立感を抱かせないようにしよう」とか、「リアルとあまり変わらない感覚を維持しよう」というコンセンサスを取りました。そのために、15分の朝会で雑談をする時間を取ってみたり、ボイスチャットツールのDiscordを一日中つなぎっぱなしにしてみたり、そんな試行錯誤と情報交換をしていました。

新メンバーの受け入れに配慮

――リモートワークでは、新メンバーが入ってきたときに組織に馴染みやすくする「オンボーディング」がやりにくくないでしょうか。

昨春以降に新たに入社した人が5~6人いるのですが、いまのところ大きな問題は起きていません。人事としては、入社後1か月、3か月、6か月のフォロー面談をしたり、同じ時期に入社した人同士を紹介して自分の部署以外の人たちとのつながりをもつ機会を設けたりしています。また、「駆け込み寺」というチャットルームを設け、新メンバーは半年間そこで何でも聞けるようにしており、相談を基に人事が適切なメンバーにつなげるようにしています。

受け入れ部署でも、密にコミュニケーションを取ってくれています。入社前から同じ部署のメンバーと接点を持てるように時間を取ってくれたり、業務マニュアルを事前にドキュメント化して入社後の見通しを説明してくれたりとか。関係する部署の人たちともコミュニケーションする機会を設けてくれるなど、各部署で工夫をしています。

――リモートワーク主体の働き方で成果を上げられる人になるには、どのような点が大事になりますか。

心身の健康の自己管理が、相当重要になっていくのかなと思います。オフィスに毎日通うことは、人間の生活のリズムを作る上ではとても大事なルーティンになっていたのではないでしょうか。家の中だけで過ごしていると環境の変化が限られてきますので、元気に仕事をするためにも、物事の考え方や発想を広げる意味でも、環境を自分で考えて選択して整えることが大事です。

当社はリモートワークに一気に振ってしまったので、どこかのタイミングで「やっぱりもう少しリアルを入れていかないと」となるかもしれませんし、そこは今後の状況を見ながら対応していくでしょう。

しかし「元に戻す」という発想はまったく持っていません。リモート主体への切り替えはある種の壮大な実験ではありますが、一度極端に振ってみないと、どこに(リアルやオンラインの)一番の価値があるのか分からない。これからはオンラインを基本にしつつ、リアルの本当の価値がどこにあるのかを検証し、コロナがおさまった段階では両方のよさを交えたハイブリットな形を志向していくのではないか、と思っています。

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