アビームコンサルティングが推進する「Biz Athlete Workstyle 3.0」とは何か? 推進役の岩井かおりさんに聞く
「日本発、アジア発のNo.1グローバルコンサルティングファーム」を目指すアビームコンサルティング。世界12の国と28の地域に拠点を設け、約6,600人の従業員を擁するコンサルティングファームが、社員が自律的に選択する多様で柔軟な新しい働き方として「Biz Athlete Workstyle 3.0」を推進している。
社員一人ひとりが生産性高く、付加価値の高いコンサルティングサービスを提供するためのユニークな「働き方改革」の取り組みは、他の会社の参考になるに違いない。イニシアチブを推進するChief Workstyle Innovation Officer(CWO)の岩井かおりさんに話を聞いた。(キャリコネニュース編集部)
働き方改革の目的は「効率と量」がすべてではない
――「Business Athlete(ビジネス アスリート)」とはインパクトのある言葉ですが、どういうコンセプトを込めているのでしょうか。
岩井 一流アスリート(競技選手)のように、当社のコンサルタントが卓越したプロフェッショナルとして、頭と体、心のコンディションを十分に整え、仕事の生産性や効率性、創造性や品質を高め、能力を最大限発揮していこう、というものです。
当社の働き方改革のビジョンは「クライアントと当社コンサルタントの双方にとって、アビームコンサルティングが魅力的であること」です。この実現には、社員一人ひとりがプロフェッショナルとして自律し、より自由に、より知的に、より活き活きと働くことが必要です。
働き方改革は一般的に、限られた時間の中で最大限の成果を出すという意味での「生産性向上」を目的としていることが多いようです。しかし、当社コンサルタントが担っている成果は、作業効率を上げて量を増やすことがすべてではありません。
――それはどういうことでしょうか。
岩井 クライアントは、私たちに「変革の実現」を期待して仕事を依頼します。クライアントの中だけからでは出てこないやり方、改革に結びつくアイデアが求められています。それを生み出すために、コンサルタントが困難な状況でも活力を持って前向きに考えることのできる環境を整えることが、当社の働き方改革です。
クライアントの期待を超える成果を生み出すためには、プロジェクトメンバーやクライアントとの会話や関わりの時間を十分に持つことが大事ですし、自分たちの世界を広げる余裕をもってワクワク働くことも大切です。十分な休息を取ってエネルギッシュで前向きに働くことも欠かせません。
3.0では「時間や場所にとらわれない働き方」を進める
――最新の取り組みには「Biz Athlete Workstyle(ビズ・アスリート・ワークスタイル) 3.0」という名前がついていますが、1.0や2.0もあるのですか。
岩井 過去にそのような名前の取り組みがあったわけではありませんが、これまでの取り組みを振り返って2020年にそのような定義をしています。
当社では、2017年からワークスタイル改革に取り組んできました。最初は「ワークライフバランスを取りながら生産性向上を追求する」や「多様な社員がいる中で、心理的安全性を担保しながら自分らしく活躍するための土壌づくりをする」といった、その後の活動のベースとなる取り組みを進めました。これが1.0です。
2.0では、働き方の枠組みから一歩進んだ取り組みも含めて進めています。「社会貢献」の視点から、社会課題解決をどのように自分ごととして捉えて取り組んでいくかということや、「健康経営」の視点から、脳科学を参考に個人やチームのパフォーマンス向上策に取り組み、行動変容につなげていくといったことです。「Business Athlete」のビジョンを定義し、それを浸透させる活動を始めたのもこの頃です。
――3.0では、何が変わったのでしょうか。
岩井 「Business Athlete」のビジョンを実現するために、「時間や場所にとらわれない働き方」をさらに推し進めていく点です。最大の成果を出すために、どういう働き方をすればいいのか、自律的に選択できることを目指しています。
「リモートワークの推進」はコロナ以前から実施していましたが、今年1月より週1回以上の出社ルールを撤廃し、原則全社員の利用を可能とすることで、これまでの原則オフィスワークから、自宅やオフィス、クライアント先など最適な執務場所を柔軟に選択できるようにしています。
あわせて、大学院での学位取得や国際貢献活動へ参加で1~2年間程度の休職を認める「自己研鑽求職制度」や、2月には「副業制度」を導入しました。4月からはコアタイムのない「フルフレックス制度」を導入し、より柔軟な働き方を実現する予定です。
今後も「フルリモートワーク制度」や「短日勤務制度(週3日・4日勤務制)」などの新しい施策も打ち出し、継続的に組織や制度を見直していきます。
アスリートという言葉の意図は「しなやかさ」
――「Business Athlete」は非常にユニークかつ本質的なコンセプトで、他の会社でも参考になると思うのですが、その一方で、マッチョでパワフルな印象も強く、ついていけない人が出てこないかな、と心配にもなりました。
岩井 確かにアスリートという言葉をパワフルさと定義するのであれば、ついてこられる人は限られると思いますが、私たちが意図しているイメージは「しなやかさ」です。これは男女関係なく発揮できる力だと思います。
プロフェッショナルサービスを提供するには、自らのコンディションやチームとしてのパフォーマンスを最大化することは必要ですし、成果にコミットすることも求められます。「Business Athlete」は、そのような共通認識を持つためのワードとして使っています。
重要なのは、変化の激しい時代にしなやかに対応していける力です。Business Athleteの活動の柱に「Well-Being Initiative(ウェル・ビーイング・イニシアチブ)」というものがあるのですが、そこでも「レジリエンス」(弾力、適応力、回復力)という言葉をテーマの一つとして活動しています。
――具体的には、どのようなことをしているのですか。
岩井 心身のコンディション作りのサポートとして、食事や運動、睡眠などの生活習慣を向上する「ビジネスアスリート・サポートプログラム」を実施しています。社内セミナーや健康増進イベントのほか、睡眠については昼休み中の「Power Nap」(パワーナップ。仮眠)を推奨しています。
また、「ビジネス・アスリート・コンディショニング・レベル」(BACL)という取り組みでは、食事・運動・睡眠などの生活習慣や、仕事のパフォーマンス・モチベーションに関する社員データを収集し、自分のコンディションやパフォーマンスの相関性を理解してもらうことで行動変容につなげていく、といったこともしています。
BACLは、昨年4月の緊急事態宣言下で急きょテレワークになったときにも複数回実施しました。社員のコンディション上の課題を可視化し、会社としてどういう対応をすべきかを判断するために活用しています。
男性社員の育児休業取得率も高いアビーム
――また、「アスリート」という言葉からハードワークを連想し、ライフイベントで仕事を一時的に離脱せざるをえない女性には不利になってしまわないかと思うのですが。
岩井 まず、当社では男性社員の育児休暇取得率が非常に高いです(2020年12月末時点で39.8%)。数か月に渡って取得する社員もいます。男女関係なく育児休暇を取得する風土があり、産休・育休を取った女性が不利になることはありません。
また、ハードワークという言葉がありましたが、時間ではなく成果へのコミットを大事にする、という発想を持つようにしています。そのため、育児や介護などのライフイベントで仕事から離れたり時短勤務を活用したりしても、昇格できなくなるということはありません。
私自身も、産休・育休を経て、復帰後にシニアマネージャー、プリンシパルを経験しています。大事なのは、個々人が置かれた環境や制約を踏まえて、働き方をその時々で選択できることです。
――選択肢があっても、個人の力だけではそこまで及ばない人もいるかもしれません。会社として女性をサポートするしくみはありますか。
岩井 当社には「ワーキングマザーキャリア支援プログラム」というものがあり、女性が妊娠報告をするタイミングから「ワーキングマザー面談シート」というツールを使って、カウンセラーと面談を繰り返すというしくみがあります。
産休の直前と復帰前、復職後に面談を行い、本人やお子さんの体調、育児支援の環境が整っているか、本人がキャリアに関してその時どのように感じているか、といったことをヒアリングします。その中で、会社としてどのようにキャリアのサポートをしていくのがベストか確認しています。
自分たちの意思で変えられることが、やりがいにつながる
――今回、推進の体制図を見て驚いたのですが、岩井さんは経営管理や人事ではなく、プリンシパルとしてコンサルタントの組織をまとめる現業業務を行いながら、ワークスタイル改革の先頭に立っているのですね。
岩井 やはり変化というのは、現場で実効性のある仕組みにしていかないと実現できません。そのため、どのような課題があって、実現するためにどのようなハードルがあるかを分かっている人間が推進役に入ることの重要性を感じています。
なぜこのような取り組みをコンサルタントが自発的に行っているかというと、第一に、私自身も含めて自ら自分たちの働く場をよりよくしていきたいという思いが強い社員が多いと思います。働く場所がより刺激的で、選択肢が多い場になっていくことは、自分自身の成長の可能性を広げることにもつながります。
また、自分たちの意思で働き方を実際に変えていけることが、一人ひとりのやりがいにつながっているのではないかと思っています。「より柔軟で、イノベーティブな発想を目指すためには、時間と場所に囚われない働き方が必要だ」と言葉で言うのは簡単です。
しかし、そういったことを実際に起案して、導入までつなげることができれば、風通し良くアイデアを提案して実行までできることになります。会社が良い方向に向かっているのを体感できることが、イニシアチブに参画している社員の喜びにつながっていると考えています。
――有志の方はどうやって集めているのでしょうか。
岩井 リーダークラスには直接声をかけて入ってもらった人もいますが、基本的には「こういう目的でこういう取り組みをします。やれる人いますか?」という感じで、全社に募集をかけており、様々な部門の社員が自ら手を挙げ参画している形です。
「ベストな働き方」は人によってもタイミングによっても変わる
――働き方改革を現場のボトムアップで進められる会社は少ないと思うんですが、こういう取り組みについて、人事の方はどうお感じになりますか。
人事グループ・高橋さん 当社はコンサルティングファームですので、社員の課題認識が深く、課題解決への思いも強いです。そのため、現場で活躍している社員が自社の課題についても自分事として捉え、人事と一緒に考えて解決策を提案し、実行しているのだと思います。
当社の経営理念(ブランドステートメント)である「Real Partner(リアル・パートナー)」には、クライアントの変革を実現する”真のパートナー”として、どんな困難に直面し、どんなに道のりが長く険しくとも、クライアントと共に歩むという意味が込められています。
人事としてもこの理念に沿って、現場の声を聞きながら寄り添い、その先のクライアントの変革も見据えながら進めていけるのは、アビームだからできることだと思っています。
――「ワークスタイル改革」に取り組まれる中で、岩井さんが特に大事にしている考え方のようなものはありますか。
岩井 ひとつは「ベストな働き方」には、何かひとつ決まった正解があるわけではないということです。人によっても違いますし、同じ人の中でもタイミングによって異なります。その人の置かれた環境や価値観が変化することも前提として、その人と寄り添いながら見つけていくものであると思います。
私自身、自分のキャリアの中で、やりたいことの大きなところは変わっていないと思うのですが、働き方の細かい部分はそのタイミングで変わってきた実感がありますし、その時に寄り添って一緒に考えてくれる人がいたからこそ、今までやってくることができたという思いが強くあります。
もうひとつは、働き方を考える上で「働きやすさ」はもちろん重要な要素ですが、それだけではなく、「働きがい」と併せて考えなくてはいけないと思います。働きがいとは、互いを信頼し合える環境の中で、自分で選択しながら仕事をしていくことや、自分らしく能力を発揮して成長していくなど、貢献している実感を得られることだと考えています。
このような働きがいが、実際働いていて「ここで働き続けたい」「ここで働いていることに幸せを感じる」といった部分につながると思います。これはBusiness Athleteのビジョンともつながっていますし、私がワークスタイル変革を進めるうえでも大事な軸となる考え方となっています。