NECが「実行力の改革」で中期経営計画を推進 そのカギは「企業カルチャーの大変革」だった
NECグループは「2020中期経営計画」(今年3月終了)の達成に向けて、抜本的な経営改革を進めてきた。前回の中期経営計画は業績悪化のため途中で撤回しており、背水の陣で挑んだ3年間だった。
新野隆・前社長(4月1日付けで代表取締役副会長に就任)が訴えた「実行力の改革」をけん引したのが「カルチャー変革本部」という組織だ。どのような取り組みが巨大企業グループを変えたのか。同社カルチャー変革本部(取材当時)の宗由利子さんに話を聞いた。(キャリコネニュース編集部)
社員から「千本ノック」を受けた経営陣
これまでの中期経営計画が未達成に終わっていた要因について、NECの経営陣は「やり抜く企業文化」が足りなかったためと考えた。そこで、外資系企業で人事部門責任者を歴任した佐藤千佳氏を招へいし、新設した「カルチャー変革本部」の担当本部長に据えた。「2020中期経営計画」を始める2018年4月のことだ。
カルチャー変革本部が最初に推進したのは、経営陣とグループ従業員との「ダイアログセッション」だ。新野社長など取締役は国内事業場をまわり、約1万人の従業員と直接的な対話を行いながら企業文化変革への協力を呼びかけた。
現場に居合わせた宗さんによると、社長をはじめとする役員たちがまるで「千本ノック」を受けているかのように、社員から厳しい声があがったという。
「人事評価制度に対する不満をはじめ、“大企業病だ” “無駄な仕事が多すぎる”といった声に耳を傾けました。それを踏まえて役員たちは合宿を繰り返し、勝てるビジネスを作り上げていくために、NECにはどのようなパラダイム・シフトが必要なのか、議論を重ねていきました」
2018年7月には、社員の力を最大限に引き出し、強靭で柔軟な企業文化を再構築することを目指した「Project RISE(プロジェクト・ライズ)」を始動。掲げた重点課題は「人事制度改革」「働き方改革」「コミュニケーション改革」の3つで、カルチャー変革の鍵として新しい5つの行動基準「Code of Values」も示された。
- 視線は外向き、未来を見通すように。
- 思考はシンプル、戦略を示せるように。
- 心は情熱的、自らやり遂げるように。
- 行動はスピード、チャンスを逃さぬように。
- 組織はオープン、全員が成長できるように。
「Code of Values」は単にスローガンとして掲げるだけでなく、人事評価にも組み入れられるなど社員のあらゆる行動を見直す基準となった。コンセプトをまとめたブックレットを作成し、部下を持つマネージャー、部長クラス向けセッションや事業部単位でのセッションを重ねながら、「Project RISE」の内容はNECグループの従業員に浸透していった。
グループ4万人の従業員が「1週間連続テレワーク」を実施
NECではあわせて、「働く時間」や「働く場所」「働くスタイル」を社員が自ら選択し、一人ひとりのパフォーマンスを最大化できる制度への見直しも行った。「スマートな働き方」実現のアクセラレーター(加速装置)として「業務・プロセスのシンプル化」「インフラの整備」「意識改革」の3つをあげた。
具体的な施策として、コアタイムのない「スーパーフレックスタイム」や「ドレスコードフリー」を導入。テレワークの対象者や回数の制限を「全社員・制限なし」に緩和し、社外サテライトオフィスの整備を進めた。
全社員へスマートフォンとPCを貸与し、グループウェアを刷新。テレビ会議システムやクラウドストレージなどスマートに働くための制度やオフィス、IT環境などのインフラ整備に努めた。電話当番やハンコ出社など、テレワークを阻害する要因を排除するため、「電話取次ぎ方法の運用見直し」や「承認の電子化」などの業務プロセスの見直しも進めている。
特にテレワークについては実践の機会づくりに努め、2019年夏には全社員を対象とした「1週間連続テレワーク」を実施。2020年2月20日には終日オフィスに誰も出社せずに業務を継続するトライアルを実施した。いずれもNEC単体で1.6万人(約8割)、グループ全体で4.1万人が参加している。
このような取り組みもあり、新型コロナ下での第1回目の緊急事態宣言下では、グループ従業員の約9割がテレワークへの移行を円滑に果たした。その後の出社率も25%未満となっている。
社員の意識も変わっていった。カルチャー変革本部が数ヶ月ごとに実施するパルスサーベイ(意識調査)の結果によると、「”スマートな働き方”の実践度」は1年間で43.1ポイントも改善された。
調査結果では、「自身のCode of Values実践度」「業務効率化の進捗」など、社員の変革の実感値も高まっている。この調査結果はすべて社内で公開されており、部署ごとの競争意識を高めることにもつながっているようだ。
「社員の成長と幸せ」と「会社の成長」の好循環を目指す
このような取り組みの末、NECの2020年3月期決算は23年ぶり過去最高益を達成した。売上収益が前期比6.2%増の3兆952億円、営業利益は同120.9%増の1276億円、当期利益は同152.0%増の1000億円。すべての事業セグメントで増収、グローバル事業の赤字額も大幅に縮小している。
コロナ禍による市況悪化に見舞われた2021年3月期の通期予想も、売上収益こそ前期比2.1%減だが、営業利益は同17.5%増で、いずれも期首に掲げた目標を達成する見通しだ。
「2020年3月期決算で業績が上向きになった際、会社は『Project RISE』が推進した『実行力の改革』の成果が一因となったという総括をしています。2021年3月期についても、1月に期首目標達成の方針を変えておらず、中期経営計画の実現に向けて順調に推移しています」
NECの「実行力の改革」の特徴は、一時的な数値アップを考えて管理を締め付けたのではなく、「社員の力を最大限に引き出す」取り組みを行ったことだ。ここで強化された力は、今後も発揮され続けていくのではないか。
「2020中期経営計画」は終了し、新しい中期経営計画も準備されているが、NECの「働き方改革」は今後も続けていく。目指すところは「社員の成長と幸せ」と「会社の成長」の好循環だ。
「社員がやりがいや達成感を感じ、その先のキャリアが描けるようになる。そういう仕事ができたときには、会社も成長するよい仕事ができた、といえます。さらに、お客様から”ありがとう”と言っていただいたり、新しい顧客開拓ができたりすることが、社員の成長ややりがいの実感につながっていく。このような好循環を回すための働き方改革の取り組みは、これからも継続的に行っていきます」