ICT導入で進む、保育現場の“働き方改革” 「持ち帰り残業が減少。子どもたちと向き合う時間が増えた」 | キャリコネニュース
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ICT導入で進む、保育現場の“働き方改革” 「持ち帰り残業が減少。子どもたちと向き合う時間が増えた」

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認定こども園や学童保育、療育など、児童福祉に特化した6つの事業、7つの事業所を鹿児島県において展開している社会福祉法人大潟福祉会様。早期にICT環境を整え、業務の効率化による残業時間削減や事務作業削減を実現し、子供たち一人ひとりと向き合う時間の確保を図っています。

また、職員が人間性を高め、その経験が子供たちに還元できるよう、充実した研修制度やライフイベントに伴う働き方の変化にも柔軟に対応できる福利厚生制度も充実させています。

児童福祉業界においてのICT導入のメリットや導入プロセス、特徴的な研修制度についてなど、大潟福祉会の潟山様からお話を伺いました。

業務効率化にICTを早期導入し、児童と向き合う時間が拡充。福利厚生制度の充実で定着率向上!

――働きやすい社内制度や環境作りに取り組んだ経緯を教えてください。

保育や福祉業界は、朝から夜まで働くことや残業手当が出ない事が当たり前といった雰囲気がありました。そのような過重労働の現状により、結婚と同時に退職する職員を見送ることが恒例。つまり、仕事と子育てとの両立を見通すことは不可能だったのです。キャリアアップを考える事はできませんでした。

一方、子どもたちを愛する想い、成長を支えるための努力を惜しまない職員の姿はだれにも気づかれないところで輝いていました。世間では低賃金で重労働といわれ、社会的な評価がされづらい業界です。だからこそ、職員がもつ想いやこの仕事の価値は、自分たちが変化することでその価値を変えていきたいと思いました。

この業界の素晴らしさを損なう要素を可能な限り取り除き、一つひとつを確かめ、働きやすさだけではなく、職員一人ひとりが自己実現できる職場に成長させたい想いから、かれこれ8年かけて地道に組織の再構築に取り組んできました。

「子どもにすべてのヒントがある」と信じ、私たちの努力が回りまわってすべて子どもたちに還元され、この業界に関わる人たちの幸せを増やすことが狙いです。こどもの幸せは、みんなの幸せにつながります。

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――特徴的な取り組みや制度を教えてください。

当法人の特徴的な制度としては2点あります。まず1点目は、ICT環境が充実している点です。当法人では働き方改革以前の約8年前からICT環境整備に取り組んでおり、業務の効率化や簡素化、また法人内にある7つの事業所を結ぶ情報共有システムにより、円滑な情報共有を図っています。職員の意識や仕組みも年々向上し、現在は、パソコンはもちろん、スマホやタブレット、サーバーも整備され、手書き仕事はほぼなくなりました。

業務にICTを取り入れることにより、仕事の持ち帰りを防止することにも繋がり、時間に余裕をもつことができることによって子どもたちと関わる時間が増え、本来の主たる業務に集中することができるようになりました。ICTのもつ力によって、働き方だけでなく、事業の質向上にも大きく寄与していることを実感しています。

ICT環境を充実させることで業務効率が向上し子供と接する時間を以前より多く確保

ICT環境を充実させることで業務効率が向上し子供と接する時間を以前より多く確保

2点目は、福利厚生制度です。子どもたちの前に立つ先生たちが豊かな経験や人間性をもちあわせることは、子どもたちの世界を広げることに通じていきます。自分が属する業界や職場以外にも目を向け、豊かな体験を通して視野を広げ、人間性を高められる機会を提供したいと考え、その想いを福利厚生制度に反映し、勤続年数ごとに研修費として3~10万円を支給し、自分の好きなことやチャレンジしたい想いを叶えられるようにしています。なお、研修期間は特別休暇扱いにしています。

また、新卒者を対象に「セルフプロデュース研修」と題し、入職前(例年2月)に魅力あふれる人間性を広げることを目的として、自分の好きなこと、挑戦したいこと、行ってみたい場所、会ってみたい人などをヒントに、今の自分に必要なことを自分自身で見極め、自分を磨くための自主研修として5万円支給し、計画・実施していただいております。

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――新卒者を対象とした「セルフプロデュース研修」は、実際どのように活用されているのでしょうか?

栄養士として入職された方は、東京のホテルやカフェで「食」めぐりの旅をし、これまで食べたことのないものを食べて知見を広げられたそうです。味だけでなく見た目も美しく、盛り付け方や彩り、食材の使い方、切り方の工夫などが学べたそうです。この経験を活かして、入職後に子ども達が食べることの楽しさや食材に興味を持って笑顔になってもらえるような給食を作っていきたいと感じてくださったようです。

栄養士として入職された方が制度を利用し、食めぐりの旅を通じて味だけではない食の楽しさを体験

栄養士として入職された方が制度を利用し、食めぐりの旅を通じて味だけではない食の楽しさを体験

ICTを導入する目的を意識し、目標達成するためには時間をかけて待つ姿勢も大切

ICT導入にあたり、苦手意識のある職員への対応や意識改革が難しい事を課題とされる企業も多いと思いますがどのように解決されましたか?苦労された点も含め教えてください。

システムを導入した8年前は、パソコンを使ったことがない職員に、電源ボタンの場所を教えることからのスタートでした。まだ世間でもこの業界にICTを取り入れることが主流になっていない時代だったので、導入当初は試行錯誤の日々でした。手書き作業に慣れている環境だったため、その文化を再構築していくことは容易ではありませんでした。ICTを導入することに抵抗する職員ももちろんいて、効率化によってこの仕事に対するやりがいを失わせてしまったのではと悩むこともありました。

ICT本来の効果が出るまでには5年はかかったように思います。現在は、総務部内にホームページやシステム関係全般を担当する方が在籍しておりますので、社内で不具合や不明な点があれば機器に苦手意識のある職員でも気軽に相談できる環境を作っています。

機器やシステムを導入するのは簡単ですが、本来の目的をみんなが意識して同じ目標に向かうためには時間をかけて待つ姿勢も大切であることを学びました。今では現場からたくさんのアイディアが出るようになり、職員が主体となってICTを充実させていく文化が根付いています。

――ICTを導入したり、福利厚生を充実させたことで感じられた効果はありましたか?

まず、サービス面の向上として、仕事のパフォーマンスが向上し、子どもと関わる時間が増えました。また、子どもたちの様子や連絡事項等の最新情報をシステム上で一括共有でき、園とご家庭との行き違い等を防ぐことができるようになり、より安心感をもってご利用いただけるようになりました。

組織体制の部分では、どこにいても情報を得る手段があるので、職員間や事業所間の連携が図りやすくなり、緊急時等の迅速な対応も可能になりました。チームワーク力が向上し、結果的に残業の削減にも繋がりました。
人事面としては、労務管理がしやすくなった事と、システム内で職員に向けたアンケート調査を簡単に実施できるため、職員の声をひろいやすくなりました。

また、福利厚生を充実させた事で、ワークライフバランスが充実し、職員のエンゲージメントの向上に繋がりました。

――ホワイト企業の認定取得を目指したきっかけや目的を教えてください。

取引先様がホワイト企業アワードを受賞されたことがきっかけです。また、鹿児島県で取り組んでいる「かごしま子育て応援企業」や「かごしま働き方改革推進企業」の認定を受けていたのですが、全国規模でみたときに自分たちの職場がどの立ち位置にいるのかを知りたくなり、客観的な評価を受けてみようと申請しました。認定を受けることで、職員の安心感や法人に対する信頼性を高めることにも繋げたいと思い、取得にチャレンジしました。

――ホワイト企業認定取得後に、社内外から得られた効果はありましたか?

ホワイト企業認定により、客観性のある評価として法人の取り組みが見える化されたことで、法人に対する信頼感・安心感に繋がったと思います。同じ業界や地域ではない、一般企業を含めた全国規模の認定制度によって認定を受けることができただけでも嬉しかったのですが、ホワイト企業認定の最高ランク、プラチナの評価をいただけたことは、私たちの自信にも繋がりました。認定マークや立派な表彰状までいただけて、広報活動にも活かされています。

――コロナ禍で今後課題としていらっしゃる点について教えてください。

少子化や人口減少の影響により、人材不足が恒常化しており、保育人材の確保が大きな課題となっています。地方は特に影響を受けやすい立場にあるため、先を見越して新たな社会福祉事業への取り組みを提案していく必要があります。

5年前から就労支援事業として農福連携の取り組みを始め、2020年より喜界島での国産珈琲豆生産事業を新たにスタートさせました。就労支援事業とマッチするビジネスモデルの確立をすることで、障がい福祉や地域創生に繋げることが狙いです。社会福祉法人としての役割を見極め、少子化と人口減少にめげることなく、可能性を広げ、チャレンジしていきたいと思います。

――今後注力してく取り組みがあれば教えてください。

職場環境だけでなく、職員一人ひとりの生活の質が向上していくような取り組み、いわゆるQOLを高められるようなイノベーションを起こしていきたいと考えています。社会福祉法人でおこなう事業は国の制度に基づいて運営されているので、制約も多く、投資できる財源もありませんが、これまでのように福祉に携わる私たちだからこそ実現できる未来を創造して、時代を切り開いていけるような努力を続けていきたいと思います。

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――最後にホワイト化を目指す企業様へ一言お願いします。

社会福祉事業をホワイトに運営することはそう簡単なことではありません。私たちもトライアンドエラーを何度も繰り返してここまでこれました。職員だけでなく、保護者の皆様、行政まで巻き込んで、私たちが創造する未来を提案してアクションを起こしたからこそ、今の当たり前を作り出すことができたと思っています。「子どもにすべてのヒントがある」が私たちのスローガンです。次世代を生きる子どもたちの声に耳を澄まし、共にその声を社会へ届けていきましょう。

<ホワイト財団のインタビューページ>

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