武田薬品工業「リスキリングプログラム:DD&Tアカデミー」後のデジタル人財30名の仕事 | キャリコネニュース
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武田薬品工業「リスキリングプログラム:DD&Tアカデミー」後のデジタル人財30名の仕事

武田薬品工業では2022年10月より約半年をかけ、MRを中心とした公募応募者に対して、大規模なデジタル人材育成「リスキリングプログラム」を実施した。その研修の舞台となったジャパン ファーマ ビジネス ユニット(JPBU) データ・デジタル&テクノロジー部(以下、DD&T)ヘッドの松野玲子氏にプログラム誕生のきっかけや、リスキリング後のBX(ビジネス・トランスフォーメーション)、デジタル人財の行方について聞いた。(以下、敬称略)

武田薬品工業株式会社
ジャパン ファーマ ビジネス ユニット 
データ・デジタル&テクノロジー部(DD&T)ヘッド

松野 玲子  

●プロフィール● まつの・りょうこ――外資系製薬で日本及びJPACリージョンのITヘッドを務めた後、2020年武田へ入社。現在、ジャパン ファーマ ビジネス ユニット データ・デジタル&テクノロジー部(DD&T)ヘッドとしてデジタル人財育成やデータ活用イノベーションに取り組む。

2024年3月7日武田薬品工業グローバル本社にて取材

武田薬品工業株式会社
ジャパン ファーマ ビジネス ユニット 
データ・デジタル&テクノロジー部(DD&T)ヘッド
松野 玲子  
●プロフィール● まつの・りょうこ――外資系製薬で日本及びJPACリージョンのITヘッドを務めた後、2020年武田へ入社。現在、ジャパン ファーマ ビジネス ユニット データ・デジタル&テクノロジー部(DD&T)ヘッドとしてデジタル人財育成やデータ活用イノベーションに取り組む。
2024年3月7日武田薬品工業グローバル本社にて取材

内製化により従業員を「デジタル人財」にリスキリング

――「リスキリング」とは、Re-Skilling(=学び直し)のことです。ビジネスモデルの大きな変化に対応するためには、新しい業務知識やスキルを習得することが重要ですが、企業がDXを推進するためにも、有効な施策として注目されています。

このリスキリングに製薬業界でいち早く取り組まれたのが、武田薬品工業(以下、武田薬品)です。御社でリスキリングプログラムを立ち上げた背景や、DX人財の育成に関してお話ください。

松野 武田薬品は創業240年を超える長い歴史を持つ会社です。私どもを含め、製薬業界で従来のITシステムに加えデジタルツールやデバイスを活用する動きが高まってきたのはここ15、6年のことかと思います。

もともと武田薬品では従業員に向け「ITパスポート資格」の取得の奨励などを2018年から行っており、従業員自らがITリテラシーなど基本的な知識を蓄積し、成長しようという基盤がありました。また、MRの各職場では「デジタルリード」という役割があり、デジタルを用いた効果的・効率的な活動方法などについて、イニシアティブを取って皆で共有していこうという取り組みもありました。

このような基盤がある中で、武田薬品ではグローバル全体で、バリューチェーン(価値連鎖による新価値の創出)開発を加速させるためにデジタルを有効に使っていこうと考え、2022年4月に、データ・デジタル&テクノロジー部門(DD&T)を設立しました。DD&Tはインフラなどの共通領域を有するグローバル部門と、マーケットやファンクションに近いところで意思決定をしてデジタルを活用していくために事業部内のDD&Tの両方が存在し、DD&Tコミュニティとしてつながっています。日本においても組織変更が行われ2022年4月から国内事業部門であるジャパン ファーマ ビジネス ユニット(JPBU)にプレジデント直轄部門としてデータ・デジタル&テクノロジー部(DD&T部)ができました。私はそれまでグローバルIT&デジタルという部署だったのですが、チームとともにJPBUへ異動し、もともとJPBUでデジタルを担当していたチームの皆さんとともにDD&T部をたちあげました。

また、組織面では、グローバルDD&Tを統括するチーフ データ&テクノロジー オフィサーであるガブリエレ・リッチが、当社のシニアエクゼクティブとなり、タケダ・エクゼクティブ・チームに入りました。これも当社がデータ・デジタルを活用するという点で大きな変化と考えています。

武田薬品工業「ガバナンス体制の組織図」
https://www.takeda.com/jp/about/corporate-governance/governance-structure/

武田薬品工業「ガバナンス体制の組織図」
https://www.takeda.com/jp/about/corporate-governance/governance-structure/

――DD&Tに異動後どのような取り組みからはじめられましたか。

松野 DD&Tになって最初に手掛けたことのひとつが、人材育成です。先にも話しましたが、武田薬品ではITパスポートの資格取得を奨励しており、いわゆるITに関する考え方は浸透していました。しかしながら、MRにとって資格勉強のすべてが必ずしも仕事に直結するものでもなければ、興味のある内容ではなかったという部分もありました。

そのため、アップスキリングの観点で従業員皆が自分の業務に活用できるデジタル知識を学ぶことができる研修を企画し、興味を持って学べる環境をまず整えました。

具体的には、アップスキリングプログラムとして、オンライン上で自由に研修ができるプラットフォームを利用し、DD&Tで指定した日本語750種類、英語4500種類にもわたるデジタル関連講義の中から、好きな内容を最低2科目学んでもらうことを目標としました。最終的に、JPBU全従業員の98%が2科目以上を学んでくださり、デジタルに興味を持ってくれた従業員によっては20科目以上を受講する方もいるなど、武田薬品全体のデジタル知識の底上げにも繋がったのではないかと思います。

また、JPBU プレジデントの古田未来乃からもデータサイエンスを経営に活かすためにさらに学びという話が出たため、古田傘下のリーダーシップチーム(事業部門長など)にも、週に3時間×7週間分、宿題付きのブートキャンプのような厳しい研修を実施しました。

「仕事に役立つデジタル知識の研修企画がDD&Tでの最初の仕事でした」と松野さん

「仕事に役立つデジタル知識の研修企画がDD&Tでの最初の仕事でした」と松野さん

――2022年10月からは、リスキリングプログラムもスタートされましたね。

松野 そうですね。2022年4月以降DD&Tではさらに専門人材を入れ、JPBU全体でデジタル活用を進めていきたいと考えていました。社外からデジタルの専門性が高い人材を迎え入れるということも方法の一つなのですが、当社では将来デジタル人材を内製化していくという事も考えていたので、社内人材をリスキリングし、デジタル人材として活躍してもらうことを目的としたリスキリングプログラムであるDD&Tアカデミーを実施することになりました。

このプログラムの最大の特徴は、一般的な現在の業務と並行した研修ではなく、まずDD&Tに全員異動してもらい、6か月間研修だけに専念してもらうというところです。リスキリングといってしまえば簡単ですが、今までの仕事からデジタル分野にジョブチェンジするわけですから、応募する社員たちにとってはある意味で「転職」で、決意とコミットメントが必要な研修だったと思います。

デジタル分野のキャリアに挑戦したいということを第一に、上司の推薦や業務実績、在職期間などは一切問わず社内公募をかけました。そうしたところ、約30名の募集に対して150名を超える社員からの応募があり、嬉しい悲鳴を上げることとなりました。最終的には面接を行い、約30名のアカデミー生を決めましたが、結果的に20代から50代までの幅広い従業員を迎えることになりました。

――選ばれた人たちはどのような人ですか。

松野 JPBU従業員の構成はMRが多くを占めており、その比率のまま全国各地にいたMRが中心です。MRは医療従事者に情報提供活動を行う従業員であり、医療の現場や患者さんに最も近い職種のひとつだと思います。私たちの製品が使われている現場を知る彼らの中からデジタル人財を育成することは、非常に意味のあることだと考えています。

2022年6月に選考をした後、引継ぎなどを4か月かけて丁寧に行ってもらい、10月にDD&Tへ異動していただき、DD&Tアカデミーがスタートしました。

研修約1か月で配属先を決定

――実際のリスキリング研修はどのように行われましたか。

松野 リスキリングのために異動してきたアカデミー生は、最初に大学の教養課程のような課目研修として、データマネジメント、AI、デジタルマーケティングの基礎など順番に1か月ぐらいかけて全員共通で学びました。その後、本人の希望職種と適性を考慮しつつDD&T部内での配属先を決定しました。

配属先が決まった後は専門課程として、配属先別の仕事内容であるカスタマーエクスペリエンス(オムニチャネルマーケティング)、AI&ビッグデータ、データマネジメント、テクノロジーの4つの分野に分かれ、2、3か月かけ座学で学びました。途中、年末休暇をはさみましたが、最後の2か月は各チームでOJT行い、卒業となりました。育成担当者、講師なども一部を除きすべて武田の従業員で作ったプログラムでした。

「組織作りは他人任せにせず自分たちのこととして取り組んでいます」と松野さん

「組織作りは他人任せにせず自分たちのこととして取り組んでいます」と松野さん

――6か月の研修を外部に委託せずに自社で行ったとは。すごいことだと思います。

松野 武田薬品では、組織作りは他人任せにせず、自分たちがやらなければならないと考えています。私とダイレクトレポートのメンバーが1名の専任担当者と共に、卒業後の姿を見据えてプログラムを考え、研修をすすめました。また、識者や有資格者にお願いすべき課目は外部講師に依頼をしました。

DD&Tアカデミーの卒業生は、研修が終了した2023年4月以降も大変活躍してくれています。成功の最大の理由は、リスキリングプログラムの後に「どのようなポジションへ進むのか」「どのような仕事をしてもらいたいのか」を明確していたためと、考えています。あらかじめ配属先を決めていたことで、履修すべき研修のカリキュラムもおのずと決まり、良い結果となりました。

――育成後はみなさんどのような仕事をされていますか。

松野 DD&Tの仲間として一緒に働いていますが、カスタマーエクスペリエンス分野に進んだ人が最も多いです。いわゆるデジタルプロダクトの開発・運用や、マーケティングオートメーションを活用したオムニチャネルエンゲージメントなどの担当者です。これらの分野は、顧客との良い接点を作るという意味でMR活動ととても親和性が高いため、社内でも彼らの活躍が注目されています。

もう1つは、データアナリストという職種です。いわゆるデータの可視化、ビジュアリゼーションの担当者ですが、彼らはMR時代にはユーザーとして使う側を経験していたので、ユーザーの視点を持った開発者となりました。実際に、武田薬品には3万件以上の社内ダッシュボードがあったのですが、アカデミー卒業生が中心となって本当に必要な数に厳選し、開発を行いました。同時に可視化されたデータをMRが効果的に活用してもらえるよう、チェンジマネジメントおよびユーザーに寄り添ったトレーニングも行い、予定よりもかなり前倒しでプロジェクトを成功させました。ここのような仕事は外部ITベンダではコミュニケーション等で難しい面も多いのですが、武田での人脈やビジネス知識が活きたケースではないかと思います。

――今後もリスキリングプログラムに取り組む予定ですか。

松野 2022年に結構なボリュームで取り組みましたので、同じようなプログラムをすることはについて今後の予定はまだ決まっていません。しかし、従業員のデジタル能力開発はこれからもずっと継続します。DD&T外の部署の人たちをデジタルサビィ(デジタルに精通している人財)にしていくために、私たちはアカデミー卒業生とともに教育係としてお手伝いしていきたいと考えています。

デジタルバイオ医薬品企業を目指す

――話は変わり、武田のセキュリティやITリテラシーへの取り組みについて教えてください。

松野 いわゆるセキュリティやITインフラは、すべてグローバルDD&Tが管理しています。データのセキュリティについては、エシックスアンドコンプライアンスチームにプライバシーオフィサーがいて、彼らと一緒にセンシティブな情報を適正に取り扱うことができるような体制を取っています。

また、私たちは患者さんにとって適切な治療がより適切なタイミングでアクセスできるようにする為、そして患者さんや臨床現場のニーズを特定する為に、匿名加工されたリアルワールドデータの活用を推進しています。リアルワールドデータとは、臨床現場において得られた治療に関するデータの総称で、私たちは主に個人情報が削除されたレセプトデータ※等を用いて、ペイシェントジャーニー※や治療に関する分析をしています。

今後はさらに医療情報の利活用を発展させ、あらゆるパートナーとの連携基盤を構築し、様々な医療ビッグデータへアクセスしたいと考えています。その為に医療ビッグデータを適切にハンドリングする為の環境構築やデータ人材開発も進めています。

さらに、電子カルテの標準化や普及、次世代医療基盤法の改訂、生成AIをはじめとするAIの急速な発展といったデータを取り巻く外部環境の変化に適切かつ迅速に対応する為に、継続的な教育機会の設定、社内外のコラボレーションを促進し、組織的なデータリテラシーの向上に取り組んでいます。

(注釈)
レセプトデータ:患者さんの傷病名、医療機関が行った医療行為の詳細などが記録されており、患者さん個人が特定できないよう匿名加工された情報。

「AIを使ったMR支援に取り組んでいきます」と松野さん

「AIを使ったMR支援に取り組んでいきます」と松野さん

――今後の展開について教えてください。

松野 今、注力しているのが、AIなどを利用したデータによるMRへのアクション提案です。こちらは2016年度からすでに取り組んでいるのですが、今後はさらに高度な活用が進む見込みです。MRはMRにしかできない仕事だけに専念することが可能になり、働き方も大きく変わっていくことでしょう。

武田薬品全体としては、デジタルバイオ医薬品企業になるという目標があります。デジタルを使ってより早く、より革新性の高い医薬品を患者さんにお届けし、従業員の理想的な働き方を実現し、地球や環境に配慮し守っていくという私たちの約束を果たすためです。

私たちJPBUでは、医療従事者のニーズに合った情報を届け、かつそれが患者さんを助けることに繋がることに今後も取り組んでいきます。オフラインだけでなく、オンラインで24時間どこでも医療従事者が必要なときに必要なサービスを武田から受けられるようにしていきたいと思います。

それが最終的には日本の医療従事者や患者さんのためになると思いますし、私たち従業員も活躍し成長を感じながら生き生き働けることにつながる。そういった環境作りに注力していくつもりです。

――本日はありがとうございました。

 

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