「助けて!」が言えない…… 自殺未遂で救急搬送される女性たちを病院はどう救う? | キャリコネニュース
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「助けて!」が言えない…… 自殺未遂で救急搬送される女性たちを病院はどう救う?

11月24日の「クローズアップ現代」(NHK総合)を観たんだけど、非常に後悔した。端的に言えばそれは「観なきゃ良かった」と思えるほど陰鬱な放送回だった、と言うべき内容だった。

「助けてと言えなくて~女性たちに何が~」と題されたこの日の放送では、救命医療の最前線にカメラを向け、そこで起きる、とある異変を克明に記録していた。(文:松本ミゾレ)

「オーバードーズ」で救急搬送される女性たち

クローズアップ現代ウェブサイトより

クローズアップ現代ウェブサイトより

東京・三鷹の杏林大学医学部付属病院。ここには全国でも有数の優秀なスタッフがそろう、救命救急センターが設けられている。年間1700人もの重症患者が搬送されてくるこの命の現場に、今深刻な異変が相次いで起きている。

カメラが入っている中、30代のシングルマザーが搬送されてきた。自殺を図ったという。この女性のように、現在医療の現場では、救命措置だけでは本質的な救済にならない、社会的な問題を背負った女性の搬送が相次いでいる。

さらに、意識混濁状態の22歳女性も搬送されてきた。こちらの女性も、自殺を試みたのだという。薬の過剰摂取を図ったと、ナレーションは伝える。この女性には、すぐさま医師による胃の洗浄措置が行われた。

彼女のような薬の過剰摂取によって搬送されてくる患者は、救命救急センターに搬送される患者の1割にも達するということだ。「オーバードーズ」なんて言われているが、SNSでも「以前OD(オーバードーズの略称)しちゃった」というような書き込みは、最近ではかなり頻繁に見かける。

病院側にも負担、医療費が払えない女性も

同センターの宮方基行医師は、緊急医療の現場に搬送される女性について、こう話す。

「社会的弱者として扱われる人たちを、見てもらう(見守る)施設が少ない。何処へも行けないので、当院のような救命センターが最後の受け皿にならざるを得ない」

これは女性に限った話ではないけど、精神的、経済的に追い詰められた末に自殺を図る女性たちは少なくない。

VTRには虐待、性被害を受けた過去のある女性や、貧困に喘ぎ、苦しみの渦中にある女性が何人も登場する。一方で、そんな女性たちを苦境から救い出し、サポートする団体も、行政の手も足りていない。その結果、どうしようもなくなって自殺という手段を選ぶ。そういう女性が確かにいるのだ。

病院側も、こうした女性がオーバードーズで搬送されてくることは、少なからず負担となっている。治療費が払えなかったりするだけでなく、中には何度も繰り返し搬送される女性もいるという。

その都度処置をするのは、医師にとってもジリ貧となる。まして現場には、他にも多くの重症者が搬送されるのだ。そこで病院側は、具体的な対策に乗り出す動きを見せた。救命救急センター専属の、医療ソーシャルワーカーを配置したのだ。

医療ソーシャルワーカーが生活保護申請も促す

医療ソーシャルワーカー、加藤雅江さん。彼女は、搬送されてきた自殺未遂の女性たちの受け入れ先となる病院、クリニックの手配を一手に引き受ける。それだけではなく、加藤さんは女性たちと福祉施設との架け橋となり、継続的な支援を受けられるように奔走する。

オーバードーズした女性や、DV被害を受けてきた末に、とうとう搬送されてきた女性にも手を差し伸べる。経済的な理由から自殺を図った女性に対しても、加藤さんは慎重なケアを施す。精神的な負担を対話で取り除き、行政と調整して生活保護の申請も促す。

行政の「支援」という枠の外にいる女性たちをサポートさせること、これが医療ソーシャルワーカーの仕事ということだ。これは生半可な覚悟ではやれない仕事だろう。そして現在、医療ソーシャルワーカーの数はまだまだ少ない。

現代の日本社会は、様々な理由で健全で人間らしい生活ができなくなった人々を助けるための機能がまだ十分ではない。人材も施設も足りないまま、改善される気配がない。

様々な理由で社会的弱者として追い詰められている女性は、全国各地に間違いなくいる。けれど、彼女たちを社会全体が支援するには、まだまだ足りないものが多すぎるように感じた。

生活苦を理由に自殺を図った40代女性は、取材に対してこう話している。

「声をあげる方が(自殺より)勇気がいるかもしれない」

助けて欲しい。その一言が言えない女性がいる。

あわせてよみたい:NHKが「ひとり親家庭の貧困」放送。課題は山積

 

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