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主人公は自動車整備工場の兄弟 NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」が神回と話題

ある人の人生に華やかなスポットライトが当たるかどうかは、マスメディアが取り上げるか否かで決まることも少なくない。しかし素晴らしい仕事ぶりが人知れず行われていることは往々にしてあり、無名であってもその価値が変わるものではない。

12月7日放送のNHK総合「プロフェッショナル 仕事の流儀」は、まさにそんな無名の素晴らしい仕事ぶりが、メディアに取り上げられて陽の目を見た瞬間だった。視聴者からは「神回だ」という高評価がネットに書き込まれている。(ライター:okei)

「ただ直すだけなら、それは整備とは言わない」

NHKの番組ウェブサイトより

NHKの番組ウェブサイトより

今回ライトが当てられたのは、広島県福山市にある小さな自動車整備工場だった。ここに往年の名車からダンプカーまで、どんな車でも蘇らせる整備士の兄弟がいる。72歳の兄・小山明さんと、弟で64歳の博久さんだ。

父から受け継いだ自動車整備工場を、博久さんの息子と3人で切り盛りしている。自動車専門誌の編集者・高橋賢治さんは、彼らをこう称賛する。

「ゴットハンド。神の手みたいな技術を持っている」

工場の2階に暮らす明さんは、工場とすべての道具を毎朝丹念に掃除して磨き上げる。おもに車検の整備を担当する明さんは「うちはええ整備します、と言っても、工場が汚ければお客さんがどう思うか。それだけです」と淡々と語り、照れ笑いした。

弟の博久さんは気さくな人柄で、客の応対や故障車修理を受け持つ。仕事場で明さんと話や共同作業をすることはほとんどないが、役割を分担し支え合っている。そんな彼らの腕を頼って、月に150件の依頼が殺到するという。

ある日、博久さんが修理したセダンは、エンジン奥のホース外れが不調の原因だった。一般的な整備工場なら、つなぎ直して終了だ。しかし博久さんは根本原因まで追究し、同じトラブルが起きないようにする。博久さんにはこんなこだわりがあった。

「ただ直すだけなら、それは整備とは言わない」

「満足すれば、絶対痛い目に遭いますから」

車は身近にあるもので、一番危険なもの。それを直させてもらうのだから、いいかげんなことはできないと、とにかく安全には力を入れているという。

仕事への姿勢は、兄・明さんも同じだ。「車検に通るレベル」では妥協せず、修理費用を抑えながら気になるところを徹底的に直す。そこに商売っ気のない職人気質がうかがえた。

全国から訪れる同業の見学者たちは、その道具の豊富さに驚く。コンピュータ制御で車の故障をスキャンする機器だけでも20台。車種によって得手不得手があるためだ。限られた儲けの中から、道具には最大限の投資をしている。

さらに知識面でも「お客さんの上に立っとかにゃいけん」という意識が常にある。明さんは毎月13冊の専門誌を熟読し、展示会をまわり、常に最新情報を仕入れている。

2人の仕事ぶりには「満足」ということがない。37年前に生産されたイタリア製のフェラーリを修理してもらった50代の男性客は「音と走りを両方楽しめる車なので、それをよく知っておられる」と喜んでいたが、博久さんはまだ満足していない様子だった。

明さんも「満足することなんて絶対にないですからね。満足すれば、絶対痛い目に遭いますから」と語る。博久さんには、整備のプロとしてこんな信念がある。

「客が気付かないことも気付き、追究し続けてこそプロ」

ケンカはしない「どっちか欠けたら仕事できませんので」

そんな兄弟の半生は、決して楽しいことばかりではなかった。彼らの工場は昭和34年に父の稔さんが始め、法人向けの故障車整備がおもな仕事だった。高校卒業と同時に働き始めた明さんは、休日もなく早朝から深夜まで必死に働いた。

しかし当初は無理な値引きを要求され、神経をすり減らすことも少なくなかったという。8歳年下の博久さんは、10年後に入社。仕事が遅いと叱ったりせず、じっくりやらせてくれる兄がありがたかったそうだ。

父の引退後、「企業の担当者にゴマをするのが嫌だった」という明さんは、個人の車整備に絞ることにした。だが経営は悪化し、3人いた従業員はゼロになってしまう。

しかし「兄ちゃんの力になりたい」と、博久さんがアマチュアのモータースポーツ車の整備を手掛けると、高い技術が評判となり遠方からも客が来るようになった。その矢先、明さんが喘息で仕事ができなくなり、博久さんは必死に工場を維持した。

1年後、博久さんが手がけたスポーツカーが、全日本選手権で1位から4位を独占する快挙を成し遂げた。知らせを受けた兄は淡々と受け止めたが、「あのかわいかった弟が工場を支える大黒柱になった」と心の中でバンザイして喜んだそうだ。

博久さんは、「ケンカはほとんどしません。どっちか欠けたら仕事できませんので」と語る。兄弟というより人生の伴走者という感じだ。移動手段でありながら人生を楽しむ手段でもある自動車が運んでいるのは、人の命だ。その整備がいかに大切な仕事であるかということを、兄弟の働く姿から感じて胸が熱くなった。(ライター:okei)

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