2012年に設立され、クラウド会計ソフト「freee会計」を中心に、スモールビジネス向け「統合型経営プラットフォーム」を提供するfreee(フリー)。2019年12月の東証マザーズ(現グロース市場)上場後に急成長しています。
従業員数は1700人を超え、2027年6月期の連結売上高500億円超を目指している同社では、いまどのような戦略方針を立て、どのような人材を求めているのか。同社 人事基盤本部 組織基盤部長 兼 中途採用部長の笠井康多さんに話を聞きました。(構成・文:水野香央里)
「だれもが自由に経営できる」環境を提供したい
――御社は現在どのような事業を行っていますか。
中小企業や個人事業主のバックオフィス業務を効率化する、SaaSサービスの開発・提供を行っています。当社の顧客はいわゆる「スモールビジネス」で、特に従業員300人までの企業をコアターゲットとし、バックオフィス業務を効率的に行えるサービスを提供しています。
2013年にリリースしたクラウド会計ソフト「freee会計」は、初めての方でも安心して経理業務が行えるサービスです。また「freee人事労務」を使うと、従業員が勤怠管理を行うだけで給与計算や申告書類の自動作成が可能になります。現在20を超えるプロダクトを通じて、50万社以上の有料ユーザーに当社のサービスをご利用いただいています。
当社は「スモールビジネスを、世界の主役に。」をミッションに、「だれもが自由に経営できる統合型経営プラットフォーム。」をビジョンに事業を展開しています。多くの経営者は、自分のやりたいことを実現するために会社を設立しますが、実際には経営に伴う煩雑なバックオフィス業務に追われがちです。
本当にやりたかったことに集中できる環境が整い、個人のこだわりや好きなものを突き詰めたビジネスが増えれば、世界はより多様で豊かになると考えています。目指したい世界がまずあって、それを実現するために私たちのビジネスがあると考えてもらうと、当社のことをより理解してもらえると思います。
――「統合型経営プラットフォーム」とはどのようなものなのでしょうか。
複数のSaaSツールを1つに統合し、データを相互に連携させることで、会計や人事労務を超えたバックオフィス業務全体を効率化できる仕組みのことです。他社のサービスでは、異なるソフトウェアを部分的に連携させて利用することが一般的ですが、当社はfreeeのプロダクトを起点に他領域のソフトウェアとデータの連携や入力作業の一元化が可能です。
例えば会計業務には、取引の仕訳入力だけでなく、請求書の発行や入金の管理、購買申請や支払い業務など多岐にわたる作業があります。スモールビジネスでは、複数の市販ソフトを組み合わせて対応したり、システム間のデータ連携を手作業で行ったりすることも少なくありませんが、これにより工数の増加やミスが伴うリスクが発生します。
当社のサービスでは、こうした業務プロセスを一貫して自動化し、例えば請求書の情報が自動的に売掛金として帳簿に登録されるなど、リアルタイムで他の機能にデータが反映される仕組みを実現しています。この結果、データの入力ミスが減り、業務確認の手間も省けます。また、経営状況をリアルタイムで可視化するレポート機能により、経営者が迅速かつ正確に意思決定を行えるようサポートします。
他社でのセールス・開発経験を活かしてもらいたい
――現在どのようなキャリア採用に注力していますか。
当社の中長期成長戦略では、2025年度以降を「高成長モデルのスケール期」と位置づけ、既存顧客に対して複数のプロダクトを利用してもらうクロスセル推進を強化しています。これにより、顧客に当社の「統合型プラットフォーム」の価値を実感してもらいやすくなり、解約率の低下やユーザーあたりの単価向上にもつながると考えています。
この戦略を進めるために、幅広いポジションで経験者のキャリア求人を募集していますが、中でも力を入れているのがセールス、プロダクト開発、エンジニアの採用です。
当社のセールス職で特に重要になるのが「顧客の課題を理解し、提案する力」と「プロダクトを理解する力」です。当社プロダクトのラインナップが充実する中で、ARPU(1有料課金ユーザー企業あたりの平均単価)を伸ばしていくために、これまでより規模の大きな企業が顧客となるケースが増えています。
企業の規模が大きくなればなるほど、社内の意思決定プロセスも複雑になるため、プロダクトの選定を含めて、顧客の課題に対して私たちが提供できるものが何かを見極め、提案する能力が以前にも増して求められています。
この新しい領域については、当社の中に経験や能力の伸びしろとなる部分があるので、中小企業向けのセールスを経験してきた方で、より大きな規模に挑戦したい方に入社していただき、力を貸していただければありがたいなと思っています。
――プロダクト開発、エンジニアについてはいかがでしょうか。
当社の柱である会計や人事労務の更なる進化を担う人材に加えて、新規プロダクトの開発ができる人材を募集しています。当社の成長には柱となるプロダクトの更なる成長と新規プロダクトの開発の両輪が必要になります。そのためには、会計ソフトなど成熟しつつあるプロダクトについては、しっかりと改善を進められる人材が必要ですし、初期フェーズのプロダクトを成長させられる力も必要になります。
プロダクトマネージャーの経験者はもちろん、本質的に価値のあるプロダクトを作りたい方であれば、プロダクトマネジメントの経験は少なくても、当社のプロダクトドメインの知識が豊富な方にプロダクトマネージャーを目指していただく道も考えています。また、当社が新しく開発しようとするプロダクトの多くは、その領域に特化した競合がすでに存在していますので、他社で類似プロダクトの開発経験があるエンジニア人材を採用することで、開発や内製化のスピードを上げていくことも考えています。
新しいビジネスや役割が次々と生まれる環境
――採用する人材に求める人物像はありますか。
まず必要なのは、当社のミッションやビジョンをしっかり理解し、共感していただけることです。この実現に向けて、当事者意識を持って、全力で取り組んでくれる方に来て欲しいというのは、以前から変わらない方針です。
それから、厳しい環境の中でもしっかりと成長していきたいと考えている人を求めています。組織やビジネスの急拡大に伴い、ベンチャー企業のように新しいビジネスや役割が次々と生まれています。正解のない難題に挑戦するため、しんどい局面に直面することもありますが、こういった成長機会を自らも成長することでつかみたいと望んでいる方にとって、当社は魅力的な環境だと考えています。
――連結売上高は2019年6月期から5期間で5.6倍に増え、2025年6月期は前期比30%増の330億円超を見込んでいます。
この規模とスピード感で成長している会社は、他にほとんどないと思っています。もちろん、ベンチャー企業は成長スピードが速く、多くの経験を積むこともできますが、規模はそれほど大きくはありません。大きな組織を動かしていくことや、その中で自分の役割が非連続的に変わっていくことによる成長機会は、当社だから提供できるものだと考えています。
優秀な経営陣とメンバーが揃っているので、明確な成長戦略が描けていますし、会社とプロダクトの成長に伴って個人の成長機会も豊富にあります。一人ひとりの裁量も大きく、目標設定をしっかり行い、それをベースに成果を出せば、HOWの部分はメンバーに任せるのが基本的な考え方です。自分がやるべきことを理解した上で、自由に働けることにも、魅力を感じてもらえるのではないでしょうか。
――人事制度はどのようになっているのですか。
社員に成長を求め、促すものになっています。四半期ごとに行う目標設定では、社員一人ひとりに対して、原則として現在の能力より1つ上の業務をアサインメントします。期待値をしっかりかけた上で、ストレッチな目標を設定して、それに向かって走り切るということです。
仕事の中で成長するためには、コンフォートゾーンでもなく、かといってパニックゾーンでもない適切なストレッチ具合で目標を目指し、挑戦と振り返りを短期で繰り返すことが大切です。四半期単位で行うため、もちろん負荷も大きくはなりますが、そうやって短距離走を続けていくことが、非連続な成長につながるので、この仕組みを徹底して運用して、“入社前には想像もしていなかった自分に会える”という経験を多くの方にしてもらいたいと考えています。
「意味」を信じて働けるよう社内コミュニケーションにも注力
――組織が急速に拡大していくと、ミドルマネージャーの役割も大事になってきます。
社員の成長には、マネージャーのサポートも重要ですので、マネージャー自身の活躍や成長支援にも力を入れています。組織規模の拡大に伴い、マネジメントのニーズは数年前の2倍近くになっているイメージです。
こうした状況に対応できるようマネージャー育成に力を入れています。具体的には「freeeのマネージャーに求める行動」を再定義し、各マネージャーが実装するための取り組みを加速しています。社内のサーベイから、この「行動」の実践度がチームの成果に強く影響することも分かっており、マネージャーの育成をチーム力の強化と成果の創出につなげていきたいと考えています。
なお、組織全体でジェンダーギャップの解消にも取り組んでおり、2030年までに社員と管理職の男女比率を45%ずつと同数にすることを目指しています(10%にはどちらにも分類が難しいケースを含む)。2023年6月末からの1年で、女性社員比率は25.2%から30.0%となり、女性の管理職比率は12.6%から16.0%まで上昇しています。
――全社的な一体感の醸成も重要になりますね。
経営陣と現場の社員のコミュニケーションは、非常に大切にしています。やはり一番大切なのは、社員自らが「この会社で働きたい」と思えるかどうかです。会社が何を成し遂げようとしていて、そのためにどういう事業を展開していくのか、顧客にどんな価値や喜びを届けられているのか、結果としてどれだけビジネスが成長していけるのか。こういったことを、経営陣が社員に共有する場を設けています。
人は、自分が「意味がある」と信じたことにしか頑張れないものです。社員一人ひとりに、会社の方針や方向性を理解し、納得してもらい、安心して会社のミッションに自分の時間を投じてもらえるようにしていきたいと考えています。
具体的には、年度初めに行われる全社キックオフ集会「freee Spirit(通称フリスピ)」や、経営陣が全社員に向けて直接情報を共有する月1回の「freeers(フリーヤーズ=freeeで働く従業員の意味)総会」です。「freeers 総会」は、株主総会と同じように大切という意味を込めて「総会」という名前を付けています。
会社の方針や取り組みについて密にコミュニケーションを行うことを通して、自分たちの仕事は、ただお金を稼ぐためでも流れ作業でもなく、重要な目的に向かっているもので、顧客にとって、ひいては世の中にとって価値があるのものだと理解してもらいたいと考えています。
「ビジネス職は週5出社」の意味
――働き方の柔軟性についてはいかがでしょうか。
当社のビジネス職は、週5日の出社が原則です。それは、私たちのような成長フェーズの会社にとっては、顔を合わせて議論することが何よりも大事だと考えているからです。実際、圧倒的に生産性が高くなりましたし、帰属意識も高まったように感じています。
最初は社内の反発もありましたが、ミッション実現のために覚悟を持って意思決定したことで、現在は現場の社員もこの意味を理解してくれています。
一方で、これは何がなんでも週5日の出社を求めているとか、形だけ出社していればいいという話ではありません。子育てや介護をしている社員や、突発的な事情が起きた場合には在宅勤務への切り替えを認めるなど、それぞれの事情に応じて柔軟な対応ができるガイドラインを作っています。
私も小さい子どもがいるので、結果的に週2~3日在宅勤務になってしまうこともあります。ミッションやビジョンの実現に向けて一生懸命な会社であると同時に、従業員それぞれの事情に応じたフレキシビリティ担保も真剣に考えている会社だと伝われば嬉しいです。
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