「都市部と地方との格差は、むしろ小さくなっていくのでは」 ライフネット生命・出口会長が大胆な仮説を唱える理由
総務省統計局の最新調査によると、2009年からの5年間で人口増減率がプラスになったのは1都3県(東京、埼玉、千葉、神奈川)と愛知、福岡、それに沖縄だけ。残りの40府県では減少となり、秋田や青森では1割以上も減っている。
少子化による人口減少により、都市と地方の格差はさらに大きくなると予想されている。その一方でIT技術の発達などによって人が集まって住む必然性は低くなり、地方に住むメリットが増えるという反論もある。果たして未来は、どちらに転んでいくのだろうか。(文:伊藤 綾)
「工場中心モデル」の終わりで都市集中の合理性は薄れた
読書家としても知られるライフネット生命保険株式会社の出口治明会長兼CEOは、地方の今後について明るい見通しを持っているようだ。鳥取県八頭町の特設サイトのインタビューで、出口氏は「むしろ都市部と地方との格差は小さくなっていくのではないでしょうか」という大胆な仮説を述べている。
「高度成長期の日本は、簡単にいえば工場中心のビジネスモデルだったと思います。でも、これからの日本はアイデア、サービス産業の世界になります」
出口氏は戦後の日本について「集団就職などのかたちで地方から都会に人を集め、生産性を上げて高度成長をしてきた」と分析する。人が集まっているほうが工場は作りやすいので、地方から都会に人を集めることが合理的だったわけだ。
しかし産業が高度化するにつれて、この構造は変化する。例えばインターネットを利用したサービスは、アイデアさえあれば生産・営業拠点を都心に持つ必要はない。2008年にネット専業の保険会社を生み出した出口氏ならではの発想だ。
出口氏は、たった2人の若者によって起業された米Googleを例にあげ、「企業の発想は都心にいなくてもできる」として、真のイノベーションのあり方をこう述べる。
「革新的なアイデア、発想というのは、別に都心にいなくても実現できるのではないでしょうか。何も都会に人が集まるのではなくて、全国で知恵を出し合えば色んな仕事ができるようになると思います」
「住みやすいところに住んで知恵を出し合う」ことの可能性
出口氏はまた「世の中を変えるのは、よそ者・馬鹿者・若者」という言葉をあげ、地方のイノベーションも「空気を読まない人たち」によって行われると主張。従来の慣習や常識にとらわれない、柔軟な発想を持つ人たちが集まる場を形成することが大事という。
八頭町は人口2万人を切る過疎の町だが、自動運転やドローンなどの実証実験が積極的に行われている。日本の課題を先取りした地域に、先進的な取り組みをする「よそ者」が集まることで、地域は大きな刺激を受け、その成果がネットを通じて日本中に広がる可能性もある。
「人間は驚いたときに、脳が刺激されて豊かな発想が出ると言われています。僕は”人・本・旅”と言っているのですが、たくさんの人に会う、たくさん本を読む、色んなところに歩いて行って体験を積む――。そうして色んな人が交わることで、新しいアイデアが出てくるんだと思います」
多様な人に会うためには、都市のほうが有利な面もある。しかし地方には、おいしい水や食べ物や空気といった、人間にとってかけがえのない住みやすさもある。出口氏は「全国いろんな場所で、住みやすいところに住んで知恵を出し合えば、いろんな仕事ができるようになると思います」と、地方在住者たちのネットワークの可能性を指摘する。
八頭町の取り組みが地方創生におけるひとつのロールモデルとして、同じような問題に直面する他の地域へと広がっていく将来に期待したい。
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