地方創生成功のカギは「成果を求めないこと」!? 福井県鯖江市のJK課プロデューサー若新氏が明かす「新しいモノを生む発想法」
東京一極集中を是正し、地方の活力を取り戻すために安倍政権で掲げられた「地方創生」。各地でさまざまな取り組みが行われるなか、福井県鯖江市では女子高生がまちづくり活動を提案する「JK課」を推進中だ。
同プロジェクトは2015年度の総務省「ふるさとづくり大賞」で総務大臣賞を受賞するなど、ひときわ注目を集めているが、プロデューサーである慶應義塾大学特任講師の若新雄純氏は、同市で移住者に半年間家賃無料で住居を提供する「ゆるい移住」プロジェクトなども行っている。地方創生の成功の秘訣とこれからの可能性について聞いた。
「地方には”何か”ができる余白がある」
もともと、鯖江市は市役所内の方針で「市民参加ができるまちづくり」を目指していたのですが、その市民参加から一番遠い市民が女子高生だと思いました。そのJKたちが中心になってまちづくりをやってみたらしたら、どんなことが起きるんだろう……と、ある種の実験として行いました。
大人が計画していたモノをJKに押しつけるのではなく、JKたちによって大人が振り回されるような新しいコラボレーションの形ができればよいと思ったんです。
――これまでのJK課の活動で特に印象的だったものはありますか?
僕が好きなのは、オリジナルのゴミ袋を作った事例ですね。ゴミ拾いイベントを実施しているときに、JKたちから「市のゴミ袋が可愛くない」という意見が出たので、市が実際に可愛い感じのゴミ袋をデザインして制作しました。
あとは、図書館のスマホアプリも彼女たちの企画で作りました。図書館の勉強スペースの空き状況や蔵書の位置を調べることができるアプリです。席を予約する制度自体はもともとあったんですが、電話して名前を名乗ってまで予約したくない。これもJKならではの発想でしたね。
――企画を考えるにあたって、特に意識していたことはあるでしょうか。
「事前に計画を立てず、大人の都合で成功を求めないこと」ですね。それだけは最初から譲れなかった重要なポイントです。実験によって大人たちには想像できなかった”新しい何か”が生まれること自体が一番大事な成果。そこで、何か具体的な数字や成果物を目的にしてしまうと本当に新しいものは生まれません。
当然、反対の声も出ましたが、市長や企画を一緒に行ってくれた市民協力課の方が交渉や根回しをしてくれました。そもそも、本当に新しいモノはいつも”あやしい”し、”うさんくさい”ものなんです。
JK課は公共事業としてはすごい低予算でしたが、話題にもなって、総務大臣賞をもらったり、高校の現代社会のテキストの表紙になったりもしました。逆に、最初から賞をとることを目的にして計画的に活動をしていたら、ここまで楽しいものにはできなかったと思います。
あと、よくある地方創生の企画だと「うちの町にはコレがあります!」と特産品や環境の良さをアピールするものが多い。でも、今はもう日本全国どこでも美味いモノはたくさんあるし、田舎なら大抵空気や水は美味しいものです。別に何が一番魅力って決めなくてもいいと思うんです。
僕はJK課やゆるい移住を通じて「地方のまちには新しい”何か”ができる余白がある。自由に実験できる場所がある」ことを伝えられればと考えています。
「問題解決の手段」として考えない方が多様な発想ができる
――鳥取県八頭町のITをテーマにした取り組みについてはどんな印象を持ちましたか?
実験に一歩踏み出したという感じで、楽しみですね。あまり規模が大きい自治体だと反対の声が出たときに身動きが取れなくなってしまう可能性がありますが、八頭町は人口1万8000人程度とちょうどいいと思います。変化を楽しめるムードを、市職員もまちの人もどう作っていくかが大事だと思います。
地方創生の取り組みは「問題解決の手段」として取り上げられがちですが、例えば、人口減少や少子高齢化自体は多くの先進国でも抱えている問題であり、そんなものすぐに解決できると思わない方が、多様な発想ができると思います。ネガティブなものをなくす、ということじゃなくて、ポジティブなものをいろいろ作っていく、みたいな。
新しいことを始めると、よいことも悪いことも含めて「予想できない何か」が起こります。でも、それが”イノベーションの本質”であると僕は思っています。地方創生の「創生」という言葉には問題の解決ではなく「何かを初めてつくり出す」という意味がありますから、実験的な取り組みや変化を後押しするのには、ぴったりの言葉だと思います。
今後、全国各地でいろいろな実験によって”何か”が生み出されていくことを僕は非常に楽しみに思っていますし、自分自身ももっと楽しんでいきたいですね。