社宅への入居は「強制ではない」? ワタミの主張に元社員が呆れてしまうワケ

今回もワタミの過労自殺裁判の話です。原告(遺族)側は、森さんが入居を指定された社宅には次のような状況にあり、過労の一因になったと主張します。

「美菜(森さん)の社宅は、(職場の店舗から)歩いて帰ることが出来ない距離で、深夜に終業する居酒屋勤務のため、始発まで店舗に留まらなければならず、身体的にキツイものであった。そして社宅からの通勤を、ワタミ人材開発本部から命じられた」

一方でワタミ側は「社宅からの通勤は強制していない」し、「一旦社宅に入居したとしても引っ越しも可能」だと主張し、食い違っています。実際はどうだったのでしょうか。(文:ナイン)

一人暮らしの社員の部屋は、会社が一方的に決めていた

watami森さんと同時期に勤務した私の経験では、新入社員の入居する社宅には2通りのパターンがあったように思います。1つはレオパレスなどの家具つきの社宅で、もう1つは一般的な家具なしの社宅です。

初めて一人暮らしをする社員は、たいてい家具付きの社宅に入居しました。家具などを購入する資金的余裕がないだろうという会社側の配慮だったと思います。すでに一人暮らしをしていた社員だけは、生活に必要なものが最低限揃っているという理由で、家具なしの社宅であったと聞いています。

ただし家具付きの社宅に入居になった社員も、入居3か月後にはその部屋を出て、家具なしの物件に引っ越す必要がありました。社宅といっても一般の賃貸物件をワタミの会社名義で借りているだけなので、引っ越したくないという社員の希望は通りません。

社宅の場所も、本社が決めたら希望は通りません。というより、そもそも希望を聞かれたことがありません。ある日、本社から住所と地図が書いたファクスが働いている店舗に送られてきて、初めて「あぁ、ここに住むのか」と知ります。

引っ越し日時も会社が決め、引っ越し会社から連絡が来ます。「今日は引っ越しがあるから前日は休み」という配慮もありません。ひどいときには「異動で3日後に引っ越し」という唐突な場合もあり、シフトの調整も追いつきませんでした。

社宅を出たくても、引っ越し先を探す時間的・経済的余裕はない

こんな状況なので、引っ越し当日になっても準備が終わらない社員もいました。当日朝に業者の人たちと荷造りをした社員も少なくなく、「ワタミの社員は当日になっても荷造りが終わらない」と認識している人もいました。

整理しますと、ワタミの社員は社宅に住むことを強制されませんでしたが、「社宅に住むと社員が決めた場合は、会社がその場所を決めていた」ということです。

ただし、一人暮らしをしているワタミの外食勤務の社員で、社宅以外に住んでいる人を私は知りません。勤務が夕方から朝方になり、休みもはっきり決まっていない居酒屋勤務をしながら、家を探すのは時間的に難しいからです。

裁判でワタミ側は、会社は社宅通勤を「強制」していないし、いつでも自分の意思で「引っ越し可能」と主張しているようです。しかし新入社員であった森さんに、資金的にも時間的にもその余裕があったとは、私には思えません。

つまりいくら社宅を出たくても、一人暮らしをする限り社宅に住み続けざるを得ないということです。したがってワタミ側の主張は、明確なウソとは言えないのかもしれませんが、内情を知る私から見れば「よくそんなことが言えるよなあ」と呆れてしまいます。

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