東本願寺で残業代未払い 被害男性は「残業が130時間以上なのに手取り17万。パワハラで不眠症と過呼吸に」と語る
真宗大谷派の本山・東本願寺(京都市 下京区)が、非正規雇用で働いていた僧侶の男性2人に未払いの残業代計700万円近くを支払っていたことが26日までにわかった。残業代の支払いを求めていた男性2人は、もう1年契約を更新できるはずだったが、3月末で雇い止めにあったという。
「時間外割増賃金は払わない」という覚書も存在
キャリコネニュースは、残業代の支払いを求めていた2人の男性のうち1人に話を聞いた。男性は現在、38歳。門徒の世話係として4年間働いてきたという。
「東本願寺には、門徒が全国から訪れます。2泊3日で滞在し、境内の清掃をするんです。そうした門徒たちに境内を案内したり、お仏壇の意味を説明したり、門徒同士の話し合いの司会進行役を勤めたりするのが私の仕事でした」
門徒の世話係になると、長時間勤務を強いられることが多い。
「世話係の中にもいくつか役割分担があります。門徒につきっきりで世話をする『担当』という役回りになると非常に過酷です。1日目は8時半~23時頃まで、2日目は6時45分~23時頃まで、3日目は6時45分~16時頃まで勤務します。残業時間は平均して月に60~70時間で、多いときには130時間を超えました」
かなりの長時間労働だが、「給料は額面で月17~19万円ほど」にしかならなかったという。過去に一般企業に勤務した経験もあるため、「ずっとおかしいと思っていた」と振り返る。
「残業代が出ないのはおかしいと思っていたのですが、先輩も何も言っていないし、言い出せる雰囲気でもありませんでした。ある時、労働協約が回覧されたのですが、そこには時間外割増賃金は払わないという覚書がありました。さすがにおかしいのではないかと思い、きょうとユニオンに相談しました」
2015年の冬からきょうとユニオンと共に団体交渉を開始したものの、交渉は難航。しかしユニオンが労働基準監督署に伝えると通告したところ、あっさり残業代の支払いに応じたという。
「管理職が信仰心を利用しているのが問題」
男性は、パワハラの被害にもあっていた。
「直属の上司から、理由もないのに叱責される、机を叩いて怒鳴る、『仕事に向いていない』と人前で罵るといったパワハラを受けていました。そのせいで不眠症になったり、過呼吸の発作が出たりしました」
こうした劣悪な職場環境の背景には、寺院特有の事情があるようだ。
「管理職が信仰心を利用しようとしているのが問題です。信仰心があれば、きちんと給与を払わなくてもやりがいを持って働くだろう、労働条件について文句は言わないだろうと考えているようなんです」
真宗大谷派が、非常に狭い世界であることも要因の1つだ。
「東本願寺のような大きなお寺で働くには、実家が真宗大谷派の寺だという人が多いです。たとえ東本願寺から離れても、真宗大谷派のつながりから離れることはないのです」
今回の騒動を振り返って、元職員の男性は「こうした問題がお寺で起こったのはとても残念だ」と語った。
「問題は、働く人がモノのように扱われているということです。どれだけ働いてもきちんとお金を払ってもらっていない。モノのように消費されているんです。このことをずっと訴えてきたのですが、結局伝わりませんでした。人を人として尊重することの大切さを教えるはずの寺院で、それとは正反対のことが起きているのは大変残念です」
残業代を請求していた男性2人は、もう1年間契約を延長できるはずだったが、3月末に雇い止めにあった。
東本願寺「それぞれの職種に合わせて、労働環境の改善に取り組む」
東本願寺・総務部の担当者は、「今後は労働環境の見直しに取り組む」と語った。
「東本願寺には、様々な職種があり、それぞれ働き方が異なります。それぞれの仕事に合わせて、働く方が健康を害さないよう労働環境の改善に取り組んでいきます」
割増賃金を支払わないという覚書は、1973年に締結されて以降、見直されていなかった。しかし、現状に合っていないため見直しを進めていくという。パワハラについても、加害者を厳重注意したうえで、第三者機関による研修プログラムを職員が受講したとしている。
また、男性2人は、残業代の支払いを求めたことで雇い止めにあったと考えているが、決してそうではないという。
「男性が勤務する門徒用の施設が改修工事に入るため、事業を縮小する予定です。そのため、男性の契約を更新することはありませんでした」
と説明している。