契約社員に裁量労働制適用は「社会の実態に合わない」 弁護士は「制度を濫用され、残業代が支払われない危険も」と指摘
実際の労働時間ではなく、「みなし時間」に対して給与を支払う「裁量労働制」は、契約社員にも適用されるのだろうか。政府は2月6日の閣議で、働き方改革関連法案に盛り込まれる裁量労働制には、雇用形態や年収に関する要件はなく、「契約社員や最低賃金で働く労働者にも適用が可能」とする答弁書を決定したという。共同通信が報じた。
ネットでは「裁量のない不安定な契約社員ですら残業代が支払われなくなるのか」と批判が殺到。松﨑基憲弁護士も「制度を濫用される危険がある」と指摘する。
「契約社員や最低賃金で働いている人が裁量を持って働いているとは考えられない」
裁量労働制は、あくまでも働き方に裁量がある人を対象にしている。「専門業務型」「企画業務型」「事業場外みなし労働時間制」があるが、「専門業務型」では、研究開発、情報処理システムの分析・設計、取材・編集を行う人やコピーライター、弁護士、証券アナリストなどが対象になる。
一方、「企画業務型」では、経営の中枢部門で企画立案・調査などを行う社員が対象になる。共同通信の報道では、対象業種の拡大が法案に明記されるとしていた。
産業別労働組合「UA ゼンセン」の松﨑基憲弁護士は、「現時点でも、裁量労働制は、その要件を満たせば、理論上、有期で働く契約社員や最低賃金で働いている人に適用することが不可能ではありません」と指摘する。政府の答弁書は単に現状認識を述べたにすぎない可能性があるという。
「しかし契約社員や最低賃金で働いている人が裁量を持って働いているとは考えられません。そうした人たちに裁量労働制を適用するのは社会の実態に合っていないと思います」
裁量労働制で想定されているのは、「専門業務型」に当てはまる専門職や「企画業務型」に当てはまる一部のホワイトカラーに限られているからだ。
「専門業務型は、一部の専門職が対象になります。企画業務自体は専門業務ではありませんが、自由にやってもらう方が適切だという場合は、裁量労働制を適用すれば、何時間働いても、逆に働かなくても、特定の時間だけ働いたとみなすことができるようになります。この働き方は、会社から指示されずに働いて成果を出す人、会社に対して交渉力のある人を想定しています」
「本人の同意を得てから、労使委員会で決議する」といった一定の歯止めはある
雇用形態に関わらず適用されることになれば、制度を濫用されるのではないかと危惧する人が多かった。松﨑さんは「専門業務型でも労使協定が必要ですし、企画業務型の場合、相当の知識、経験等がある労働者で、かつ、制度が適用される本人の同意を得ること等を含めて労使委員会で決議する必要があります」と、現時点でも一定の歯止めとなる仕組みがあるとしている。
「しかしこの制度を濫用される心配はあります。『企画立案をしているから裁量労働制を適用する』と言って残業代を支払わないということが起こるかもしれません」