「職業明かすと褒められてつらい」という悩み「会社員ですって答えれば?」「社交辞令を真に受けて喜ぶ人っているんだ」
しばしば特定の立場の人には、他人に言いづらい境遇というのがある。出身、国籍、職業。立ち位置によっても言いにくさは変わってくるが、大抵の場合、当人にとってはかなり深刻な悩みだ。
先日、はてな匿名ダイアリーに「職業を名乗るのがつらい」というエントリーが登場した。さては法に触れる仕事か、と身構えたが、雑誌の編集者をやっているというものであった。
曰くこの人物、美容師さんなどに自分の職業を答えると「え! すごい!」という憧れと羨望がないまぜになったリアクションを受けるそうだ。このとき相手は「瞳孔が開き、鼻の穴がふくらんでいる」のだという。「別にすごくない」と謙遜しても、いかんせん居心地が悪くなってしまうと綴っている。(文:松本ミゾレ)
「すごい!」を否定するまでが大人のコミュニケーションでは?
さらには、相手がライターに憧れている人だとしたら、もう最悪。あわよくば仕事を紹介してもらえるんじゃないか、という精神が見え見えで、その下心をかわすので精一杯になるという。
こうした状況を経験したため、投稿者は、「すごい」と言われる職業に就いている人は、職業を名乗ったときに感じる居心地の悪さをどう受け止めているのかと、疑問を抱いたらしい。
……これは個人的な意見なんだけど、僕は、それぐらいでいちいち悩む必要はないと思う。特に美容室では、「仕事は何を?」と問われてマスコミ系の回答を得たら、本心から驚いていなくても、話を盛り上げるために興奮してみせるのは客対応の基礎も基礎。「なんだ、雑誌の編集か」というリアクションよりも、逆の反応をして心象を保ちたいのは当然のことだろう。
相手が持ち上げ、当人が謙遜するまでがワンセット。これが大人のコミュニケーションのテンプレみたいなもので、そこに深い意味などないように僕は思う。
「『仕事のこと褒めたらこいつ喜ぶな』ってのを職業柄プロは見抜くからな」
ところでこの投稿には、面白いコメントやリアクションも少なくないので、是非ともいくつか印象してご紹介しておきたい。
「会社員です。って答えれば良くね?」
「社交辞令を真に受けて喜ぶ人っているんだ」
「雑誌の編集者と言うから変に期待されるんでしょ。雑誌の文章校正や広告集めやってます。みたいに、仕事のごく一部を示せば、いいんじゃないか?」
「『仕事のこと褒めたらコイツ喜ぶな』ってのを職業柄プロは見抜くからな」
みたいな感じで、賛同の声はそう多くはない。
でも、そりゃそうだと思う。雑誌の編集は別にすごい職業ではないんだもの。第一どの職業も単体では社会のお役には立てないし、相互複雑に別種の仕事が混じりあってようやく形になるのが経済なんだし。
だから、コメントの多くには、投稿に見え隠れする妙な自尊心への違和感と、「じゃあサラリーマンですって名乗ってろよ」という読み手の気持ち、両方が透けて見えるのだろう。断言するけど、投稿者は間違いなく、同窓会で「早く俺に職業について質問してくれ」と願ってしまうタイプだね。
こういう人は定期的に自虐風自慢をしてしまうもの。「すごい」と褒められて伸びるタイプなのだ。それはそれで一つの才能。周囲の褒め言葉を素直に受け止めて上を向けるというのは、今の時代においてなかなか優秀なスキルだと感じる。