企業の人事が大学のキャリアセンターへ「密かに望んでいること」 | キャリコネニュース
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企業の人事が大学のキャリアセンターへ「密かに望んでいること」

企業の人事が「密かに望んでいること」

企業の人事が「密かに望んでいること」

就職活動中の学生にとって、企業の人事も大学のキャリアセンター職員も、ともに接点の多いオトナです。ところが私の見る限りでは、学生に対して言うことに、ややギャップがあると感じています。

どちらも就職支援や採用活動に何年も携わっており、それぞれ持論があると思うのですが、個々の学生にとっては「はじめての就職」であり、何が本当のことなのか判断することがなかなかできません。

そんな中で、身近なオトナたちが異なることを言っていれば混乱します。それもまた曖昧模糊とした社会に入るイニシエーションだと言えないこともないですが、無意味な混乱は避けてあげたいものです。

企業人事側に努力すべきことが多いことは承知しています。しかし今回は、それを前提とした上で、”あえて”キャリアセンターの皆さんに「こうしてくださるとありがたい」と思えることを、ご叱責覚悟で代弁してみたいと思います。(人材研究所代表・曽和利光)

【お願い1】「できること」の棚卸しとアピール

最も大きなギャップは、学生を評価する視点です。

キャリアセンターは「学生自身がやりたいこと」を見つける支援をしてあげることが多いと思います。それに対して、企業人事は学生を「自社の仕事ができそうなのかどうか」で評価しているということです。

キャリアセンターの指導の賜物かもしれませんが、学生はエントリーシートや面接などで「いかにこの会社に入りたいのか」を一生懸命説明してくれます。もちろん、こういう「志望動機」は、それはそれでとても重要な情報です。

しかし結局、合否に影響が大きいのは、「なぜこの会社の仕事をうまくできるのか」「その背景にはどんな能力や性格特性があるのか」ということです。

学生に寄り添う気持ちは、とても分かります。しかし「熱意を伝えてこい!」という指導だけではなく「何ができるか」の分析と伝え方の指導をしていただけると、企業が知りたいことを知ることができるため、合格確率が上がるのではないかと思います。

【お願い2】「企業側の意図」の解説をポジティブに

次にお願いしたいのは、とても厚かましいこととは思うのですが、企業側の意図について、できればポジティブに解説してあげていただきたいということです。

典型的なのは「不合格通知」、通称「お祈りメール」についての話です。よくある学生側のクレームは「不合格理由をきちんと説明すべき」というものです。

ただ、人事実務家のひとりとして思うのは、「不合格理由の明確化」は大変難しいということです。というのも、ほとんどの場合「あなたよりも自社にフィットする人材がいた」というのが本質的な理由で、何もその学生が全くダメなわけではないからです。

また、確かにマイナスポイントがある方だったとしても、例えば「あなたの言語能力では弊社の業務を遂行することはできないので不合格です」と直裁的にお伝えするのは、学生を傷つけるだけになってしまうかもしれません。

それで、多くの企業が揶揄される曖昧な「お祈りメール」になるわけです。もちろん、そういう壁を乗り越えて努力して「不合格理由」をきちんと出している会社もあり、敬意を払っていることは言うまでもありません。

学生側から見えている面だけから見れば、ご立腹もわかります。しかし、オトナであるキャリセンター側は、企業人事の諸々の行いは、決して悪意から出ているものではないことを説明していただければと思います。

それだけでも、学生側は企業に対してむやみに不信感を抱かなくて済むのではないでしょうか。あわせて企業人事は、キャリセンターに「本意」を伝える努力をしなければなりません。

【お願い3】「学歴フィルター」の問題について

企業側の意図について、もう一つ典型的なものをあげるとすれば、いわゆる「学歴フィルター」の問題です。東大生にはDMが届くが自分には届かない、とか、同じ説明会でも自分が見たら満席表示だが東大生が見たら空席があった、という例のものです。

できればこれを、いわゆる「学歴差別」とみなしては欲しくないということです。

私見ですが、「学歴差別」というのは「人物や能力は良いのだが、学歴がよくないので不合格とする」ということでしょう。しかし、企業人事の方とお話ししていて、そういう考えを持っている人はほとんどいません。むしろ、できるだけいろいろな大学から採用をしたいと考えている人事が大半です。

「だったらなぜフィルタリングをするのだ!?」と思うでしょうが、それは単純にリソース(お金とマンパワー)と確率の問題です。例えば、DM1通にも説明会1席にもリソースがかかります。そしてそのリソースには限界があるため、企業側からアプローチする際には、確率の高いゾーンに絞る、というのが「学歴フィルター」の正体なのです。

もちろんそれもNGで、「DM打つなら就活生全員に打つべきだ!」と思うかもしれませんが、DMだけで全就活生数十万人に数千万円をかける選択は現実的にはありえません。

「学歴フィルター」と「学歴差別」を混同してしまうと、就活学生が「フィルター」を気にして受験をやめてしまい、本当は合格の可能性がある芽を摘んでしまうことにもつながりかねません。それは企業人事側も本意ではありません。

その学生の適性を見てフィットしていると感じることが前提ですが、「フィルター」にぶつかって落ち込んでいる学生に、意図を伝えて、むしろ励ましてあげていただきたいと思います。

【お願い4】社会人第一歩として「常識」を指導して欲しい

厚かましいついでに、キャリアセンターの方にお願いしたいのは、社会人としての常識をふつうに学生に教えていただきたいということです。

全国の本当に多くの採用担当の方が悩んでいるのが、学生の「ドタキャン」です。説明会や選考会、各種イベントなどに予約をしている学生が何の連絡も無しに「来ない」問題です。

レベル感でいうと、20人の説明会の枠を埋めるのに、50人ぐらい予約を受けて、結局来るのは15人(大半が連絡なし)というぐらいひどい状況です。

ドタキャン学生が大勢いるせいで、結局、合格確率の高い属性の人に席を空けるために、先に挙げた「学歴フィルター」をかけなくてはならなくなったりします。まさに「学生の敵は学生」という状況です。

このようなことについてキャリアセンターで指導をしていただけると、企業は大変うれしいです。ふつうに考えて「キャンセルするなら事前に連絡する」ということは当たり前すぎることなので、教育という観点からもぜひお願いしたいところです。

【お願い5】「企業に対してウソはダメ」と指導してほしい

指導といえば先日、キャリアセンターの方が学生に「内定辞退の正しい伝え方、『直接会って、まず感謝』」と指導していたという新聞記事が、ネットで炎上しました。

これに対して、学生側と思われる人たちが「企業はお祈りメール一本なのに、そこまでしなければいけないのかよ」と批判が殺到したというわけです。

本件については、そもそも誤解もあったと思います。そのキャリアセンターの方は個人的に存じ上げておりますが、「本当にリレーションがあってよくしていただいた方の内定の申し出を断るなら、人としてそれぐらいをした方がよい」という至極真っ当なことを考えているだけだと思います。

何も、企業側がそっけなく無礼でも、学生は卑屈に振る舞えなどと言っているわけではありません。ちなみに、私自身の意見としては「会う・会わない」は学生さん自身の価値観・ポリシーに従って振る舞えばよく、どちらでもよいと思っています。結局入社してくれないのであれば、メール一本でもきちんと連絡すれば、問題はないと思います。

そこではなく、多くの企業が望んでいるのは、「来る可能性が極めて低いのに、取りあえず内定受諾をしておく」とか、本当は就職活動を続けているのに「御社で決めました。就活はやめました」等の、ウソをやめて欲しい、できればキャリアセンターでもそう指導してほしい、ということだと思います。

そうしないと、特に少数にしか内定を出さない(出せない)企業は、その学生が来てくれると思って、別の学生を不合格にせざるをえなくなります。

それなのに、後で「実は他社も受けていて、内定もらったので御社は辞退します」では、企業も大変ですが、本当なら合格していたかもしれない学生もかわいそうです。いずれにせよ、「ウソはダメ」だと思います。

もちろん企業側の改善余地は大いにある

以上、非常に勝手なキャリアセンターの方への望みを代弁してみました。「非常に勝手な」と申しているのは、企業側の改善すべきところをいったん棚に上げているからです。

例えば、「ウソはダメ」というなら、本当は採用に直結しているのに「このインターンシップは採用に直結していません」と言うなとか、学歴フィルタリングしているのに「していません」と言うなということですが、企業側が完全にできているとは到底言えないでしょう。

ただ、相手に問題があるから、自分にも問題があってもいい、というわけではありません。キャリアセンターの職員の皆様の日頃の多大な努力は直接に間接に伺っておりますし、実際一緒に仕事をさせていただいたりもしております。

ただ、なかなか企業の要望が届いていない実情もあるかと思い、僭越ながら代弁(と言っても企業の総意ではありませんが)させていただきました。少しでもご参考になりましたら幸いです。

【筆者プロフィール】曽和利光
組織人事コンサルタント。京都大学教育学部教育心理学科卒。リクルート人事部ゼネラルマネジャーを経てライフネット生命、オープンハウスと一貫として人事畑を進み、2011年に株式会社人材研究所を設立。近著に『人事と採用のセオリー』(ソシム)、『コミュ障のための面接戦略』(星海社新書)。

■株式会社人材研究所ウェブサイト
http://jinzai-kenkyusho.co.jp/

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