やっぱり編集者になりたい──編集者になって見つけたやりがいと、仕事にかける想い | キャリコネニュース
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やっぱり編集者になりたい──編集者になって見つけたやりがいと、仕事にかける想い

▲2020年現在の澤田美里

▲2020年現在の澤田美里

小学館集英社プロダクション(以下ShoPro)で、書籍編集者として働く澤田 美里。幼いころから本が身近にあり、自然と編集者を目指すようになった彼女は、アメコミの編集をはじめ、フランスの漫画であるバンド・デシネのシリーズ企画、ノンフィクション書籍などさまざまな本の企画に携わってきた。その軌跡をたどる。【talentbookで読む】

きっかけは編集アシスタント。そこでの経験を通してあらためて抱いた想い

小さいころは、家でひとり、本を読んでいることが多かったですね。親が出版関係の仕事をしていたこともあって、昔から本や漫画が比較的身近にある環境でした。

また、たまにですが、編集者との打ち合わせや集まりに連れていかれることもあって、そんなときに聞こえてくる彼らの話が、とてもおもしろかったのを覚えています。そのころから「なんだか楽しそうだな」と、編集の仕事に漠然と興味を持つようになりました。

学生時代はエスカレーター式の中高一貫校で、高校受験がなかったため、自分の趣味にとことん没頭する日々を送っていました。映画や演劇にも興味があったので、高校では演劇部に所属し、チームでひとつのものをつくり上げていくことに熱中しました。

本も、その時期が一番読んでいたと思います。いろいろと手あたり次第に読み漁りましたが、進路を考えはじめた時期に、フランスの文学や現代思想に興味を持つようになり、大学ではフランス文学を専攻しました。

大学卒業後は出版社に勤めようと考えました。しかし、当時の私は認識が甘すぎて、ろくに対策も立てずに就職活動に臨んでいたため、みごとに惨敗。途方に暮れていたとき、大学の掲示板で、コミックの編集アシスタントのアルバイトを見つけて、そこで働くことになりました。

そこでの仕事は、新鮮で楽しいことばかりでした。当時の上司が目をかけてくださって、それこそ文章の書き方から、校正の仕方まで、編集者としての基礎を叩きこんでくださいました。

ほかにも、アルバイトでは普通させてもらえないような、書籍の帯のキャッチコピーを書くことや、コラムやインタビューの記事をまとめる仕事までさせていただいて。

そこで編集の仕事のおもしろさを実際に体験したことで、やっぱりどうしても編集者になりたい、という想いが強くなったんです。それであらためて就職活動をして、縁あって、ShoProに入社することになりました。

スーパーヒーローの魅力を日本に伝える仕事

▲現在の編集1課のメンバーと

▲現在の編集1課のメンバーと

ShoPro入社後は販売制作部(現出版企画事業部)の配属となりました。出版企画事業部は、書籍やカレンダーの制作・販売を行っていて、ShoProの中では数少ない、「自分たちでつくって、自分たちで売る」機能を持っている事業部です。

結果がダイレクトに返ってくる部署ですし、単に編集をするだけでなく、プロモーションまで含めて、「どうしたら売れるのか」を常に考える必要があるので、ある意味、ビジネスの基本的なしくみを早くから学べたと思います。

入社してまず、アメリカンコミックス、いわゆるアメコミの編集を主に担当しました。アメコミには、それまでほとんど触れたことはなかったのですが、最初に担当した『V フォー・ヴェンデッタ』という作品で、アラン・ムーアという天才アメコミライターと出会えたことは大きかったです。

ムーアの作品をきっかけに、他のさまざまなアメコミにも興味を抱くようになって、次第に、この世界に魅了されていきました。

アメコミの魅力は、なんといっても壮大な世界観です。キャラクターは著者ではなく出版社に帰属するので、ひとつのキャラクターを題材に、さまざまなクリエイターが創作を行うことができます。

時には複数のキャラクターがチームを組んだり、ユニバースを巻き込んだイベントを起こしたり、アメコミの世界でしかできないような壮大なストーリーをつくり出せるのが、ひとつの魅力です。

また、ひとりの漫画家さんがすべてを手がける日本の漫画と違って、アメコミは、基本的にチームで制作を行います。

ストーリーを担当するライター、絵を担当するペンシラー、インカー、彩色を担当するカラリスト、文字を入れるレタラーなど、分業制になっていて、それぞれの専門家がチームを組んで、まるで映画をつくるように制作を行っているところもおもしろいですね。

アメコミの編集の仕事は、まずタイトルの翻訳出版権を獲得するところから始まります。そこから翻訳者に翻訳を依頼し、上がってきた原稿をチェックして、フキダシにおさまるよう形を整えていきます。普通の翻訳書籍と違って、フキダシに入る文字数が限られるので、短い言葉でどう伝えるかが重要です。

セリフが、キャラクターの性格にきちんと合っているかも大事なポイントですね。「俺」「おれ」「オレ」と、キャラクターによって主語を使い分けたり、ここぞというシーンで、このキャラクターだったらどういう表現のセリフがいいのかを話し合ったりしながら、原作の世界観をなるべく損なわないよう、翻訳者と相談しながら作業を進めていきます。

同時に、デザイナーや印刷会社とのやりとりもし、営業とプロモーションについても相談していきます。

業務は多岐にわたりますが、ひとつの本をつくり上げるまでには、さまざまな関係者が関わるので、いわば「集団の旗振り役」となるのが編集者ですね。本好きにはこれ以上ないくらいおもしろい仕事だと思います。

しかし、5年ほどたって、アメコミのシリーズも安定し始めると、次の企画を求められるようになりました。アメコミに代わる企画を考えるため、いったんアメコミの担当を外れて、新たな方向性を模索し始めることになりました。

過去から多くの手を経て巡ってきたバトン

▲澤田が編集したバンド・デシネ

▲澤田が編集したバンド・デシネ

新たなジャンルの開拓に臨んだとき、ふと、自分が学生時代に学んだフランス文学から、そういえばフランスにも古くからの漫画の文化があったことに思い至りました。

フランスには、「バンド・デシネ(略してBD〔ベーデー〕)」という長い歴史を持つ独自の漫画文化があり、メビウスやスクイテンといった世界的に有名な漫画家をたくさん輩出しています。

しかし、日本ではそれまで、本格的なBDの翻訳出版は、ほとんどありませんでした。そこで、BDについて調べ始めたところ、たまたま大学時代の友人を通じて、BDに詳しい方とも知り合うことができ、『アンカル』という作品の翻訳出版を企画しました。

幸いにも『アンカル』がヒットしたおかげで、他のBD作品も刊行し始め、2012年には『闇の国々』という作品で、文化庁メディア芸術祭のマンガ部門での大賞を海外コミックスとして初めて受賞できました。

賞の受賞を受けて、著者の来日イベントが行われることになり、そこでとても印象深い経験をしました。

BDの刊行を通じて、アメコミやBDなど海外の作品から影響を受けた日本の多くの漫画家さんたちと知り合う機会があったのですが、その時の会場にも、彼らの作品に影響を受けたファンや漫画家の方がたくさんいらっしゃっていました。その中に、『闇の国々』の著者のおふたりが、かつて日本の漫画雑誌で連載をしていたときの、編集長の方がいらっしゃっていたんです。

フランスの漫画制作は、基本的に作家へ全面的に制作が委ねられていて、日本のように担当の編集者が作品の内容にまで踏み込んで口を出すようなことはほとんどありません。ですが、『闇の国々』の著者は、そのときに日本の漫画づくりを体験したことで、漫画の技法について多くを学んだとおっしゃっていました。

『闇の国々』の著者ふたりが、日本で学んだものをフランスへ持ち帰って作品に生かし、そして今度は反対に、彼らの作品が、今、日本で活躍している漫画家に大きな影響を与えている。両国の才能が、お互いに影響し合い、受け継がれる。その様子を目の当たりにすることができたんです。

そのときに、ShoProが20年以上も前からずっとアメコミをはじめとする海外コミックスを出版し続けてきたことは、とても価値のあることなのだと、あらためて感じました。誰かの仕事が、また次の誰かの仕事につながっている──多くの先人から、自分の手を経て生み出されるものがどこかで芽吹き、また次の才能が生まれるかもしれない。無駄なことなどひとつもない、と思えるようになりました。

その後、手掛けた本の中で転機となったのは、『プ女子百景』という「女子中学生がプロレス技をかけあう」シュールなコンセプトのイラスト本です。

それまで私は、プロレスに触れたことはほとんどなかったですし、興味もなかったのですが、その本をきっかけにプロレスを初めて観て、その後、すっかりハマってしまいました。

自分でも、なぜこんなに夢中になってしまったのか謎だったのですが、いろんな団体の試合を見るようになってわかったのは、プロレスはある種のエンターテインメントの極致だということ。生々しいリアルな人間臭さとエンターテインメント性の、そのバランスがすごい。

プロレスをきっかけに、これまで未知の世界だったスポーツにも興味を持つようになり、女子ラグビーのノンフィクション書籍、パルクール選手のフォトエッセイなども企画しました。現在は、スポーツとShoProのリソースを掛け合わせて、新しい事業を模索するスポーツ新事業企画室のメンバーにもなっています。

そんな経験から、たとえ自分が興味のないことでも、何かおもしろい発見・企画につながるかもしれないので、まずは首をつっこんでみるようにしています。

編集者としての責任とやりがい──プレッシャーの中でも続ける喜び

▲人生の転機となった『プ女子百景』Tシャツと

▲人生の転機となった『プ女子百景』Tシャツと

私が仕事で大切にしていることは、ふたつあります。ひとつ目は、誰よりも自分自身がおもしろいと思える仕事をすることです。

本づくりは、さまざまな人が関わって初めてできあがります。周りの関係者の方が「それおもしろい!やろう!」と乗ってくだされば、こちらの想像を超えたパワーやアイデアを出してくれることもある。そんなときは、これ以上ないほど嬉しいですし、その分だけそれに恥じない仕事を自分もしなければと思います。

ふたつ目は、関係者の皆さんに信頼してもらえるよう誠実な仕事をすることです。たとえば、ささいなことですが、メールはすぐに返すとか、自分の勝手な都合で、相手の時間や労力を奪わない。

何かトラブルが起きたときに、問われるのが日頃の仕事に対する姿勢だと思うので、また次も仕事したいねと相手に言ってもらえるような仕事を心がけています。

旗振り役としてのプレッシャーは常にあります。企画については自分が心からおもしろい!と思う提案ができなければ皆さんを不安にさせてしまいますし、進行管理で言えば、スムーズに制作が進むようディレクションしていかなければなりません。

スケジュールが間に合うか、本当にこれでおもしろいのか、著者さんもデザイナーさんも頑張ってくれたのに売れなかったらどうしよう、と本を一冊つくるたびに寿命の縮まる気がします。

でもその分、つくった本が売れ、読者から評価をいただけると、とても嬉しいんですよね。個人的には、企画を組み立てている瞬間に一番アドレナリンが出るので、「これおもしろい!いける!」という瞬間を味わいたくて、また次の企画を考えている気がします。地獄のスパイラルですね(笑)。

今後は、ShoPro Booksの大事な柱であるアメコミ・海外コミックスを引き続き大事にしつつも、新たなカラーやIP(キャラクター・コンテンツなどの知的財産)となるような作品をつくることが目標です。

ShoProという会社の中でも、とくに出版企画事業部は自由度が高く、クリエイティブ性を尊重してもらえるので、突飛なことでも頭からノーとは言われません。新しいことに挑戦できるのは、恵まれた環境だと思っていますね。

最後に、私にとってShoProは、ひとつの会社にいながらさまざまな業種の人と出会える場所です。テレビ番組をつくっている人もいれば、保育園の運営をしている人もいる。仕事柄、常に企画になるようなネタを探しているのですが、社内をふらふらしていると、何かしらネタがあるんですよね。

本は、自分ひとりではたどり着けない未知の世界や物語、考え方を教えてくれるものです。私たちの仕事は、いろんな方のアイデアや協力をもとに、誰かの世界を広げることで、そこでまた新しいアイデアを生んでいます。これからも社会に創造力の種をまけるような仕事をしていきたいです。

小学館集英社プロダクション

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