輸送用機器メーカーの新明和工業 最終面接までオンラインを継続「ウェブ上でも企業の魅力は伝えられる」
航空機や特装車などの輸送用機器メーカーとして、創業から100年以上の歴史を誇る新明和工業株式会社。長期経営計画において売上増や新規事業創出を目標に掲げ、事業部の垣根を越えた取り組みを進めている。
未曾有の災害となったコロナ禍とそれに伴う社会情勢の変化を受け、企業の採用活動の現場にはさまざまな変化が及んだ。とりわけ採用選考のオンライン化に各社が課題を感じ対面実施へと回帰する中、同社では「最終面接までオンライン」の方針を継続していく。その理由とは。人事教育部 人材開発・採用グループ長の滝上 集さんに伺った。(聞き手・文:千葉郁美)
・オンラインの面接に「ただ慣れていないだけ」選考に必要なことは完結できる
――御社の長期経営計画を拝見しますと、事業領域の拡大や海外展開に向けてより一層邁進していく姿勢が示されています。新たな取り組みを実施していく上では、これまでの御社にはない知見を持つ人材も必要になりそうですね。
まず設計開発に関する技術系では、今までの当社ではたとえば機械工学のベースを分かっていてCADが扱えるような人材が求められてきましたが、機械学習やAIなどの最新技術やプログラミングの技術を持つ人材の必要性は高まっています。データサイエンティストをはじめDX推進に関わる職種を求める声は事業部から多数上がっています。しかし採用の実情としては、社会全体でIT人材不足の状況を踏まえると欲張りすぎることはできないのが現状です。
技術系以外の部門では、海外展開に対応できる人材、具体的には高い英語力がある方や海外で活躍したいという前向きな方を求めています。
――昨今では若者や労働者不足を理由に、人材の獲得に難航している企業も多いと聞きます。ここ数年はコロナ禍や社会情勢の変化による影響もあり、採用活動にも大きく影響したと思います。
新型コロナウイルスの感染拡大が、当社の採用計画を大きく左右することはありませんでした。ただ、採用活動の方法や採用ツールは大きく変化しました。2020年2月までは対面による面接や説明会を行っていましたが、同年4月に発令された緊急事態宣言以降はオンライン化へ強制的に変えざるを得なくなったのです。
本社が担当する新卒採用は現在も最終面接までオンラインで行っており、説明会も、ライブ配信やレコーディングしたものをいつでも見ていただけるようにしました。一方、工場単位で行っている高卒採用やキャリア採用については、一部対面も実施しています。
――採用活動の多くをウェブ上で行うことになり、不都合を感じることはありましたか。
面接をウェブ上で行う形に変更した当初は、我々もそうですが、学生の皆さんも不安があったと思います。特に社内の面接官からは「その人の空気感は、実際に会ってみないとわからないところがあるだろう」という声が上がっていました。
しかし、オンラインでの採用面接を2年続けてきた感想として、オンラインであろうと対面であろうと手段は特に関係ないと思っています。「慣れ」の問題であり、「対面が一番いい」という思い込みがあっただけで、結局のところウェブ上でも見るべきポイントをちゃんと見てさえいればなんの問題もない。入社式で初めて本人と会ったら、「想像より背が高かった」といった印象の差異はありますが。
ただ、学生の皆さんにとっては、実際に訪問してみないとわからない、その会社の空気感というものがあると思います。コロナ禍以前であれば、実際に製品を見ていただける工場見学の機会が我々の「キラーコンテンツ」でした。当社は航空機や特装車といった、いわゆる“最終製品”に該当する製品も製造しているため、部品メーカーに比べると分かりやすくインパクトがあります。
工場見学ができない状況下では、工場の様子や製品を掲載している自社のウェブサイトを積極的に案内しました。
――オンラインで行えるようになったことがむしろメリットな部分も多いのですね。
たとえば、採用活動に多くの従業員が参加するようになったのも、ウェブ活用の大きな成果のひとつです。以前もインターンシップの中で社員が語り質問を受ける機会はあったものの、参加できる時間や人数に限りがありました。今ならオンラインビデオ通話ツールで多人数と同時に話ができますし、移動も必要としませんから臨機応変に対応できます。参加者は若手の社員だけではなく、それなりの立場がある中堅社員や、場合によっては設計部長まで参加できる環境が作れたのは一つのメリットだと思います。
――関西に本社を置く御社にとっては、他の地域の学生へのアプローチもしやすくなったのではないかと想像します。
インターンシップにはさまざまな地域の方が参加してくれるようになりました。当社は全国で営業活動をしているので、地域を定めずに人材を必要としています。その点では今の方が明らかにやりやすいです。特に関東圏の学生の皆さんに対してアプローチできる点は大きいです。
・採用選考は最終面接までオンライン下を継続
――2022年以降はコロナ禍の影響も少しずつ落ち着きが見え始め、オンラインに移行していた活動も再び対面に戻す動きが見え始めています。御社の場合、現在も最終面接までオンライン実施とのことですが、そうした採用活動の方法において変化はありそうですか。
最終面接を対面に切り替える可能性はゼロではないですが、現時点は予定していません。選考時よりも、内定者が入社までの間に一回でも集まれるような機会を作れないかと考えています。2020年度からの2年間は入社するまで対面できない状況がありましたので。
――テレワークの普及など働き方の面でも価値観の多様化が進んでいますが、御社の場合はいかがですか。
当社は製造業ですのでどうしても現場でないとできない業務もありますが、緊急事態宣言下は政府からの「在宅勤務率を70%にしてください」という要請を受けて可能な限り協力してきました。最近は、社内IT化の過渡期でまだペーパーレスではない部分も残っていますので、出社しなければ作業ができないことも多くあるため、部署ごとの判断で業務内容に合わせてテレワークを活用している状態です。
――職種や業務によって柔軟な体制を組まれているのですね。
・売り手市場の今、早期のアプローチと心を掴む社員エピソードが要
――働き方に対する価値観の多様化や若年層の減少、バブル世代の退職など、人材採用においてはさまざまな課題があるかと思います。必要とする人材をより多く獲得するためにはどのような採用戦略が必要だとお考えですか。
まず当社の採用体制は、各事業部から必要とする人材について「設計者が何人、事務系の職種で何人」といった具合に必要とする人材を提示してもらい、それを積み上げていく方式をとっています。全体の採用人数は長年あまり変化がなく大卒は30人から40人程度でしたが、ここ数年は人員の強化や新たにIT人材を必要とする部署が増えていること、さらに今後予想されるバブル期に大勢入社した社員の定年退職を踏まえ、各事業部の採用希望数も増加傾向にあり、2023年度の新卒入社は51人を予定しています。
会社が希望する人材を確実に獲得するためには、新卒においては早期に学生の皆さんとの接点を持つことが重要だと考えています。昨今は、インターンシップの参加も含め3年生の段階で就職先を検討する人が増えています。現状、学生数を求人数が上回り、かつてのように一人で何十社も受ける必要はなくなっています。学生の皆さんの様子を見ていると、数社に絞って説明会や面接を受けてその中で内定をもらえれば…という感覚があるのかな、と感じています。
当社としては、まずはこの「数社」の中に入らなければいけません。先にお話ししたインターンシップのような活動に来ていただき、当社の技術力の高さを紹介して魅力を感じてもらうことと同時に、社員が働きながらどのようにして自己実現を叶えているのか、キャリアをどのように積んできたのかを直接語ってもらうことが、学生の皆さんの心を掴むことにつながっています。
――最後に、御社が今後事業を推進していく上で求める人物像とはどのような人なのでしょうか。
当社が「求める人材」について語るとき、「チームワーク力」という言葉をよく使います。我々はメーカーであり、金融や商社とは違って「1から10まで個人で成果を出す」という機会が少ない。役割がいくつかあって、その中で一つの成果物に向かってみんなで協調してやっていくというケースが多いものですから、そこにやりがいを感じる方が向いています。逆に一人ではできないことが多いので、個人で成果を出したい、できなければ評価が下がってもいい、というような感覚の人にはじれったいのではないかと思います。
航空機に代表されるような大きなものをつくっている会社ですから、むしろ、とても一人ではできないようなことをチームワークで成し遂げることができる、それに対して喜びを感じられる方に、ぜひ来ていただきたいです。
【プロフィール】
滝上集(たきがみ・あつむ)
新明和工業株式会社 人事教育部 人材開発・採用グループ長 人材コンサルティング企業において各社の人事戦略支援を経験した後、現在は新明和工業株式会社にて大卒・高専卒の採用全般や全社の人材育成業務を担当。