いまや海外に行くことはさほど難しくなくなったが、その一方で海外経験のない若者もいて二極化しているという。そんな背景もあってか、転勤や留学、ホームステイなど、海外に行った小さな経歴を過剰に周囲にアピールしたがるゾンビ社員が急増しているそうだ。
2014年10月16日放送の「ワーキングデッド~働くゾンビたち~」(BSジャパン)に登場した入社2年目の大野信行さん(24)も、先輩社員の「海外キャリアデッド」野口純(32)の被害を受けたひとり。海外留学経験のある野口は、横文字ビジネス用語を連発して社内外でヒンシュクを買っていた。
「新たなバリューをアカウントに提供して、バジェットを達成」
「海外キャリアデッド」の生息場所は商社に数多く、業界を問わずベンチャー企業にも多い。まわりの迷惑を考えずに「ニーズ、ベクトル、ヴィジョン、ウィンウィン…」など意味不明の横文字を一方的に使い続けるため、社員間の意思疎通がとれず、仕事はどんどん遅れていく。大野さんは、こう内情を明かしている。
「言ってることは、9割方分からないですよ。それに、仕事バリバリやってる感じだけ出して、実際何もやってませんから」
訪問した取引先に留学時代の友人がいたりすると、さらに厄介な事態に。仕事に関係ない思い出話を何時間も聞かされた挙句、時間切れで新規事業が立ち消えになったことも。
番組ゲストでマーケティングコンサルタントの鈴木進介氏は、実際にある商社の会議で飛び出した発言を具体的な例に挙げた。
「既存商品をリニューアルして、イノベーションを起こそう! 新たなバリューをアカウントに提供して、バジェットを必ず達成することが我々のミッションだ! レッドオーシャンを避け、独自のスキームでコンペに勝とうじゃないか!」
これを聞いた出席者は、何を言っているか分からずポカンとしてしまい、会議の結論は出なかったという。鈴木氏は「まさに会社があの世行きになりそうですね」と結んだ。
対策は、カタカナをすべて漢字に変換することと言うが、これを聞いたホラン千秋は「本当にカッコつけてるだけのド腐れ野郎ですね。こういうヤツ嫌いなんですよ私…」と冷たく言い放っていた。
この手のデッドは留学経験にもかかわらず、高い語学力を身につけておらず、枕詞に「アメリカでは…」を頻発するが、実際の仕事は全く進まないのも特徴だという。
「残業やめろ、ポンコツ」「サービス残業しろ、持ち帰れ」
大手家電メーカーの営業部に働く高梨豊さん(32)は、過剰コスパデッドの部長に日々苦しめられている。「経費削減」や「費用対効果(コストパフォーマンス)」を必要以上に要求するのだ。
会議で使うホワイトボードのマジックを、「除光液につければ使える」と新品を使わせてもらえない。使用済みのメモ用紙を使えと求められ、仕事がやりづらくて仕方がない。
残業していると「残業やめろ、ポンコツ」と責めてくる。「部長が取ってきたあの納期では残業しないと終わりません」と抗弁しても、「サービス残業しろ」「持ち帰れ」と迫られ無理やり帰宅させられるという。高梨さんは肩を落としこう話した。
「毎日コスパコスパって、必要な残業をさせてくれなくて、コストカットしたふりしようとする。嫌気が差してきます。会社を続けられるか…」
鈴木進介氏は、このデッドが急増する理由を、バブル崩壊後にリストラなど「売り上げを上げる工夫」よりも「コスト削減」が最優先されてきたためだという。仕事以外での問題点は、恋愛・結婚・子育てもコスパが悪いと否定するため、「出生数の減少にも影響している」と懸念を示した。
追い詰められた社員たちの「保身術」ではないか
コストカットばかり考えて「パフォーマンスを上げることを考えていない」ので、情報収集や人材育成ができず、かえってビジネスチャンスを失っているとも。対策としては、「コストとパフォーマンスを分けて考える」という空気を社内に作ることだというが、上司の考えを覆すには相当の覚悟が必要だ。
再現ドラマを見ると、海外キャリアデッドもコスパデッドも、本来の業務に意識が向いておらず、根底は「自分を上層部にアピールしたい」人たちに見えた。もしかすると本人たち自身が「コスト削減されるのでは」と追い込まれ、間違った方向での保身術に走っているのではないだろうかと感じた。(ライター:okei)
あわせてよみたい:「働かないオジサン」と「働けない若者」の切り離せぬ関係
- 最強の「ビジネス理論」集中講義 ドラッカー、ポーター、コトラーから、「ブルー・オーシャン」「イノベーション」まで
-
- 発売元: 日本実業出版社
- 価格: ¥ 1,620