実質賃金「4年連続マイナス」の深刻 庶民は悲鳴「物価だけ上がった感じ。枯れる」
アベノミクスによる円安株高政策で、大企業の業績は好調だ。2015年度はトヨタや日立、NTTなど多くの企業で過去最高益を計上。2015年の春闘では2.2%のベースアップが実現。今年も賃上げが予想されている。
16年卒の就活が「売り手市場」となるなど好景気の気配も見られるが、豊かになった実感がない人も多いだろう。それもそのはず。厚労省が2月8日に発表した「毎月勤労統計調査」によると、2015年の働く人1人当たりの実質賃金は、前年比で0.9%減。4年連続でマイナスとなったのだ。
経団連は「定年再雇用が背景にある」と説明するが
「実質賃金」とは、物価の影響を考慮した賃金のこと。額面による「名目賃金」の動向を示す指数を、商品やサービスの価格変動をあらわす消費者物価指数で割って算出する。
2015年の名目賃金(給与総額)は31万3856円で、前年比で0.1%の微増。その一方で2015年の全国消費者物価指数(年平均)は103.2(2010年を100とした数字。生鮮食品を除く)と3年連続上昇している。
名目賃金は増えているものの、物価の上昇に追いついていない。日本経団連はこの背景には、定年後の「高齢者の再雇用」が関係していると指摘。2月8日の記者会見で榊原定征会長は、実質賃金マイナスの背景を次のように説明している。
「60才定年制の企業で再雇用された社員が増えており、その給与水準が下がることがある。また、こうした(定年退職者の多い)企業の新入社員の給与水準は、定年を迎える社員に比べて低いため、企業の給与総額が減少する場合もある」
「2015年版高齢社会白書」によると、65歳以上の雇用者数は2011年からの4年間で308万人から414万人に急増。60~64歳の447万人に迫る勢いだ。戦後直後生まれのいわゆる「団塊の世代」が再雇用されているとみられ、2012年以降の実質賃金の低下に影響を与えている可能性は高い。
ベースアップは大企業だけ「こちとら賃金10年据え置きよ」
ただし、高齢者の再雇用だけでは説明がつかないところもある。そもそもアベノミクスはデフレ脱却を目指し、インフレ率2%を目指していた。これもインフレ期待による名目賃金の上昇を見込んだものだったが、2015年はこれを大きく下回る見込みだ。
名目賃金が同じでも、物価が下がれば実質賃金は上がる。ただしこれではデフレの悪循環に陥るため、安倍政権は物価の上昇を目論んだ。しかし思ったほどは上がらず、名目賃金も微増にとどまったため、結果的に実質賃金が下がってしまったのが現状といえる。
特に中小零細企業や非正規雇用では、大企業の正社員に比べて賃上げ幅が低いところが多い。そのような人たちは消費税の影響もあいまって、実質賃金の下がり幅がより大きくなっているおそれがある。ネットにはこんな声も見られる。
「零細だと賃上げはないので、物価だけ上がった感じ。枯れる~」
「こちとら賃金10年据え置きよ。消費税やら物価が上がって生活苦しくなるばかりだよ」
これで「マイナス金利」や「消費税再増税」の影響受けたら
朝日新聞論説副主幹の立野純二氏は、2月9日の「報道ステーション」(テレビ朝日)で「実質賃金4年連続マイナス」の問題に言及。ここ数年、企業収益増や株価上昇のニュースが多かったが、庶民はそれを実感できていないと指摘した。
「多くの人の『家計簿の視線』で見たら、いったい景気の回復は本当にあったんですか、苦しくなってるんですけど、という実感が多いんじゃないかと思う」
また、日銀のマイナス金利政策に関し、4日の衆院予算委員会で黒田総裁が「個人の預金金利もマイナスになる可能性」について「当然、否定はしない」としつつ「ないだろう」と答弁したことにも触れ、
「(黒田総裁は否定したが)このうえ、庶民の虎の子の預貯金にマイナス金利の影響が及ぶということになれば、本当に深刻なことになる」
と指摘した。来年4月には消費税の再増税も控えており、庶民の暮らしが明るくなる兆しはなかなか見えそうにない。
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