裁量労働制の拡大に「待った」はかかるのか? 厚労省の不適切データ発覚から振り返る
19日放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)では、対象ではないのに労働裁量制で働いていた例を紹介した。
元編集プロダクション勤務の女性(30代)は、新人で未経験のときから裁量労働制だった。繁忙期には残業が月100時間を超え、身体を壊し退職した後に、自身が裁量労働制だったことを知った。当時の月給は約21万8000円。みなし残業代の約4万円を含み、どれだけ残業しても給料が増えることはなかった。
労働組合に、未払い残業代の請求について相談した際に発覚した。会社からは、
「うちは裁量労働制を導入しているので、固定残業代に組み込まれているから払いません」
と告げられたという。しかし、会社に就業規則は置かれておらず、誰にも読めない状態だった。現在、「未経験の新入社員には裁量は無く、適用は無効」として、残業代は支払われる方向で調整が進んでいる。裁量労働制が長時間労働を是正することなどあるのだろうか。
「改ざんだ」と批判されるも自民党は「責任ある人が謝る。これで一段落」
先月29日、安倍首相は予算委員会で「(平均的な)裁量労働制で働く人のほうが、一般労働者より労働時間が短いというデータもある」と厚労省の調査を紹介した。
しかし、このデータは異なる条件で行われた不適切なデータだったことが判明。野党からの指摘を受け、2月14日に安倍首相は先の答弁を撤回、謝罪している。
問題のデータは、一般労働者の「1カ月の中で最も長く働いた日の残業時間」と、裁量労働制の「通常の労働時間」の比較だったのだ。野党は「不適切という言葉で済む問題なんですか。ねつ造以外の何物でもない」と糾弾している。
20日も、安倍総理や加藤厚生労働大臣が「深くおわびする」と謝罪。一方で、再調査の必要性を否定し、今国会で法案を提出する方針は変わらないとした。さらに自民党の竹下総務会長は
「責任ある人が謝る。これで一段落だろう」
と記者たちに語り、政府を擁護している。
過労死遺族訴え「裁量労働制は、確実に長時間労働に繋がる」
しかし政府は翌21日、裁量労働制の対象範囲の拡大を1年延期し、2020年4月からの施行とする検討を始めた。先送りして批判をかわすつもりだろうか。
野党は22日、新たに117件のデータが異常と指摘し、加藤厚生労働大臣の責任を追及。さらに、加藤大臣が「ない」とした調査データの原本が厚労省の地下倉庫から見つかるなど、信頼性に欠けるとして法案提出の再検討を求めている。
なお、21日には裁量労働制などで働き過労死した人の遺族が、厚労省の田畑政務官と面会。「裁量労働制は、確実に長時間労働に繋がる」として、裁量労働制の適用拡大を法案から除外するよう、政府に訴えている。