NTT東日本グループが新事業「スリープテック」睡眠市場に挑むこれだけの理由 | キャリコネニュース - Page 2
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NTT東日本グループが新事業「スリープテック」睡眠市場に挑むこれだけの理由

NTT東日本
ビジネスイノベーション本部
スリープテック事業チーム/ZAKONE ディレクター
尾形哲平さん

●プロフィール――おがた・てっぺい NTT東日本入社後、ソリューションエンジニアとして市場開拓系業務などを担当。現在、ビジネスイノベーション本部スリープテック事業チーム/ZAKONE ディレクター

NTT東日本
ビジネスイノベーション本部
スリープテック事業チーム/ZAKONE ディレクター
尾形哲平さん
●プロフィール――おがた・てっぺい NTT東日本入社後、ソリューションエンジニアとして市場開拓系業務などを担当。現在、ビジネスイノベーション本部スリープテック事業チーム/ZAKONE ディレクター

NTT東日本グループが新事業として取り組んでいる「スリープテック」とは、一体どのような事業なのか――その新事業が誕生するまでのいきさつについて、ビジネスイノベーション本部スリープテック事業チームディレクターの尾形哲平さんに話を伺った。
(以下、敬称略)

2024年3月6日虎ノ門ヒルズ インキュベーションセンター(ARCH)にて取材

イントレプレナープログラムから新事業が誕生

――スリープテックについて教えてください。

尾形 「スリープテック」とは「sleep」(睡眠)と「Technology」(技術)を組み合わせて作られた造語です。日本人の平均睡眠時間は世界的に見ても短くて、日中に眠気を感じたりする人が多く「良質な睡眠をとりたい」という潜在的ニーズが高まっています。また、良質な睡眠を得ることで、仕事の生産性がアップすることが知られており、スリープテックが注目されています。

今後、スリープテックに関連する「睡眠市場」は、十数兆円規模に拡大すると考えられています。このような背景の中、私たちNTT東日本グループでは新事業としてスリープテックに取り組んでいます。

――NTT東日本といえば「電話」「通信」をイメージしますが、「なぜ睡眠?」という声も上がったのではないでしょうか。そのような中、スリープテックに取り組むことになったきっかけについて教えてください。

尾形 私の所属するビジネスイノベーション本部で、イントレプレナー(社内起業家制度)プログラムが立ち上がり、それに応募をしたことが大きなきっかけでした。そこで集まったメンバー20人ほどで、4チームに分かれて新事業のアイデアを出し合ったのですが、その中で私たちのチームは「睡眠」をテーマに取り組むことになりました。

私はNTT東日本に入社後、ソリューションエンジニアとしての業務に従事してきました。若手社員が市場開拓に関わる機会も多く、新たな挑戦に対する意欲を感じていました。そのため、新規事業に直接関わることはなかったとしても、新しい業務に挑戦する経験を積むことができました。この機会を最大限に活かしたいという思いがありました。

――社内制度をうまく活用されたというわけですね。

尾形 その通りです。ただ、チームメンバー全員が本格的な新規事業に取り組む経験はありませんでした。このため、最初の半年はメンターのサポートのもと、新規事業の創出方法やフレームワークについて学びながら、チームでのアイデア出しを継続してきました。
スリープテックとの最初の出会いは、パワーナップ(仮眠)です。当時はプレミアムフライデーのような働き方改革の流れがあり、仕事がたくさん残っていても、「金曜日は早く帰りましょう!」という社会的なムーブメントが起きていました。その中で、仕事を早く終わらせるためにはどうすれば良いかと考えていたところ、パフォーマンスを向上させるための「仮眠」に出会いました。脳のパフォーマンスを最大化するための仮眠に関する文献を発見し、「これだ!」と思い、事業化の可能性を模索するきっかけとなりました。

「ソリューションエンジニアとして若手社員の頃は市場開拓関連にも取り組んでいました」と尾形さん

「ソリューションエンジニアとして若手社員の頃は市場開拓関連にも取り組んでいました」と尾形さん

――事業化に向けてスムーズに社内承認は得られたのでしょうか。

尾形 そのためにはいくつかのプロセスを経る必要がありました。仮眠ビジネスに取り組みたいという意欲を示した後も、アイデアを洗練させる作業を継続し、上司への定期的な報告が求められました。厳しい意見も述べられる中で、それを乗り越えるためには実績つくりや事業計画をチームで議論しながら乗り越えました。

――このイントレプレナープログラムの中で最後まで残ったのはスリープテックだけと聞いていますが、その理由はどこにありましたか。

尾形 まず第一に、スリープテックでの活動が非常に新鮮で興味深かったことが挙げられます。他業界の人々との交流や、クリエイティブなメンバーとの連携による企画やアイデア創出活動は大きな刺激となり、モチベーションの核となりました。

最終的に事業化まで進むことができたのは、私たちの実力だけでなく、この育成プログラムの設計が優れていたからだと考えています。プログラムは短期的に成果だけをみるのではなく、チームの「熱量重視」を重視し、意欲があれば継続できる枠組みを提供してくれました。

最初の段階では、業務の配分は本業が80%、スリープテックが20%でした。事業化に至ったのは単に熱意だけが理由ではなかったと思います。各チームに100万円程度を予算が用意されており、これをチームで判断し、活用することができたことも大きかったと思います。

これまでの業務において、予算を自由に使う機会はありませんでした。新規事業においても通常であれば既存の稟議プロセスを経る必要がありますから。私たちのチームでは、議論の末、100万円をクリエイティブパートナーに企画書の作成に充てることにしました。しかし、もし従来の承認プロセスが必要だったなら、このプロジェクトは実現しなかった可能性もあります。チームのアイデアや進め方を尊重してくれたプログラムがあったからこそ、できたことだったと思います。

共創パートナーとの出会いが追い風に

――いざスリープテック事業立ち上げて、困難を感じたことはありましたか。

尾形 最初の顧客獲得がかなり難航しました。自社のアイデアがどのようなニーズに応えるのかが分からず、試行錯誤の末、ようやく最初の取引先を見つけることができました。”ゼロ”から”1”を生み出すまでが非常に大変でした。

しかし、一度最初の取引先が決まると、社内の反応も一変するんですよね。それを見越して、「机上の計画よりも1つ目の受注!」という意識を持ちながら取り組んでいました。

さらに、私たちは睡眠や仮眠に関する専門知識を持っていなかったため、パートナーが必要でした。そのため、企業だけでなく大学や研究機関にも連絡を取り始めました。その中で、興味を持ってくれたのが、現在のパートナー企業であるブレインスリープです。

ブレインスリープは、脳と睡眠に関する研究から生まれた枕を開発している企業です。お話する中で、彼らは「睡眠をスコアリングするサービスのIoTパートナーとして一緒に事業を展開しませんか?」という提案をいただいて。この提案が私たちのプロジェクトにとって追い風となり、共創パートナーとしての取り組みがスタートしました。

――現在、スリープテック事業ではどのようなことをされているのでしょうか。

尾形 基本的には企業向け“B向け”ビジネスで、現在柱が3つあります。

1つ目は、睡眠市場への参入コンサルティングです。異業種から睡眠市場に参入しようとしている企業が増えていますが、その一方で、参入障壁も多く存在します。例えば、睡眠の研究者の認証が必要な場合や、エビデンスの取得方法が問題になることもあります。私たちはそういった障壁を克服するための企業の事業支援や参入支援を提供しています。すでに、睡眠関連の製品やサービスを提供している企業に対して、事業開発やエビデンス検証の支援を行っています。

2つ目は、企業向けの睡眠改善プログラムです。従業員のウェルビーングやウェルネスを可視化し、数週間や1か月後の変化を改善・分析するプログラムを提供しています。

3つ目は、睡眠プラットフォームと呼んでいますが、睡眠を定性・定量的に計測できる睡眠アルゴリズムをAPI・SDKとして提供しています。

具体的には「睡眠偏差値for Biz」という問診ベースで主観的に睡眠のスコアリングができるサービスと、「BRAIN SLEEP COIN」という眠りを客観的に計測できる、アプリと専用デバイスを提供しています。これら2つのサービスの計測アルゴリズムをサービサーやアプリケーション事業にも提供しています。

「パートナーやクライアントとの出会いについて話せば切りがありません」と尾形さん

「パートナーやクライアントとの出会いについて話せば切りがありません」と尾形さん

――クライアントにはどのような支援をしていますか。

尾形 例えば、エステー社のケースでは、北海道に生息するトドマツの成分が睡眠のどの部分に影響するのかを検証いたしました。また、日本サウナ学会とは、サウナと睡眠の関係の検証を支援しています。

さらに、音楽の分野でもソニーミュージック社と「ささやき声」が睡眠にどのように影響するのかなどを検証しながら、睡眠と音楽のプロジェクトで事業開発やイベント企画を行っています。
当初想定していなかった様々な業界の方が睡眠業界には参入しています。

――「ZAKONE」というサイトもWEB運営されていますが、いかがですか。

尾形 「ZAKONE」は、睡眠業界を盛り上げるために生まれた、企業や個人を繋ぐコミュニティサイトです。睡眠にかかわる企業同士を繋ぐプラットフォームになっており、現在118社(2024年3月時点)集まっています。月1回のミートアップの企画をしたり、睡眠関連の記事を発信しています。

睡眠にかかわる企業同士を繋ぐプラットフォーム「ZAKONE」
https://zakone.jp/

睡眠にかかわる企業同士を繋ぐプラットフォーム「ZAKONE」
https://zakone.jp/

――ZAKONEの中からは、協業も生まれていますね。

尾形 代表的な例として、長谷工の睡眠に特化したマンション実験住戸「快眠のための家」というプロジェクトがあります。そこでは、住まいにおいて、睡眠の質を向上させるための取り組みが行われています。私たちは、そのスリープテックの観点から睡眠体験の設計を担当しています。

具体的には、私たちの睡眠アルゴリズムとIoT家電を連携させ、睡眠バイタルに連動して、照明の調節やカーテンの開閉が行われるなど、睡眠アルゴリズムに基づいた最適な環境を実現する未来のスマートホームを実現することを目指しています。

また、こういった大プロジェクトにはソフトがたくさん必要になってきます。ZAKONEの参画企業のさまざまな快眠グッズとも連動しコラボとして発展させていきたいと考えています。

「快眠のための家」(長谷工)へのZAKONE企業協賛品一例(ブレインスリープ・枕、掛け布団、マットレス、ウエア)
https://note.com/zakone/n/na77284c15ddc

「快眠のための家」(長谷工)へのZAKONE企業協賛品一例(ブレインスリープ・枕、掛け布団、マットレス、ウエア)
https://note.com/zakone/n/na77284c15ddc

子会社化も視野に入れ体質強化を目指す

――今後の事業展開について教えてください。

尾形 現在、売上でいうと1億円ほどの規模ですが、2025年には売上を2桁億円にしたいという目標があります。事業が更に今後伸び、独立して採算が取れる高いビジネスモデルが確立されれば、子会社化も視野に入れた成長のステップを検討しています。

――本業とのシナジーも考えているのでしょうか。

尾形 シナジーはもちろん考慮しています。通信事業と直接的に結びつくというよりは、長谷工社のケースのように、テクノロジーが関わる案件を増やしていきたいと思います。基本的には、独立した事業としてしっかりと収益を上げることが重要だと考えています。

また、現在、ZAKONEのコミュニティは無料ですが、そのコミュニティを活用してビジネスにつなげる方法も検討しています。事業の中核となる参入コンサルティングや健康経営改善プログラムを拡充し、コミュニティを活かして成長を目指しています。

「グローバルに通用する事業に育てていきたい」と尾形さん

――スリープテック事業の今後が楽しみです。

尾形 人生の3分の1を占める睡眠が、日本人にとってあまり重要視されてこなかったのは事実です。その意味でも、我々の睡眠事業は社会全体の向上につながると信じています。私たちはこれからもスリープテック事業を通じて、良質な睡眠の重要性を広く伝えていきたいと考えています。

NTT東日本グループの主要な活動領域は東日本地域に限られており、国内外にはほとんど進出していません。しかし、スリープテック事業が取り組む睡眠の問題は、国を超えた普遍的な課題です。私たちは、日本国内だけでなく、世界中に届けられるサービスやコンテンツを提供していきたいと考えています。

――本日はありがとうございました。

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