オンラインとオフラインが融合する「OMOマーケティング」の時代を予見し、2015年に位置情報プラットフォームの運営を目的に設立されたunerry(ウネリー)。大手企業と提携しながら事業拡張し、2022年7月には東証グロース市場への上場を果たしました。
会社設立10年目を前に、事業のさらなる成長に向けてキャリア採用を強化していますが、現在どのような事業を行い、どのようなポジションで、どのような人材を募集しているのか。同社HRチームの澤田千紘さんに話を聞きました。(構成・文:水野香央里)
GPSとビーコン技術で月間840億件以上のログを取得
――御社のサービスの概要を教えてください。
当社は、スマートフォンの位置情報データを収集したリアル行動ビッグデータプラットフォーム「Beacon Bank(ビーコンバンク)」を運営し、企業のマーケティングやまちづくりに必要なサービスを提供している会社です。
Beacon Bankは、同意取得済の4.2億ユーザID(海外含む)を核に、月間840億件以上のログを取得しており、リアル・デジタルのさまざまな生活データを意味づける「生活者行動ビッグデータ」となっています。これを自社で所有していることが当社の強みになっています。
データの取得方法は、スマートフォンアプリのGPSやビーコン反応です。ビーコンとは、一定間隔で電波を発する小型の端末で、Bluetoothの電波圏内に入ったスマートフォンアプリと反応することで、ユーザがその場に来訪したことを把握します。GPSでは捉えにくい地下や「ビルの何階のどの店にいるか」といった精度の高い位置情報を取得できます。
このような位置情報活用の技術モジュールであるSDK(Software Development Kit)を、「お買い物」「メディア」「旅行」など120を超えるアプリに提供することを通じて、ビッグデータを蓄積しています。また、このような多くのアプリと反応することを魅力に感じる多くの事業者がビーコンを登録することで、大規模なビーコンネットワークを形成しています。
――これまでも自社アプリなどで来店者を把握する方法はあったと思うのですが、それとの違いはどこにあるのでしょうか。
自社アプリだけでは、そのアプリ利用者だけの来店しか把握できませんが、120以上のアプリユーザーのビッグデータを活用すれば、お客様全体がどのようなルートを通って店舗に訪れたのか、他にどの店舗を訪れていたのかが把握でき、消費者の行動全体を可視化することができます。
多様なアプリが多くの事業者のビーコンと適切に反応できる仕組みは当社独自のもので、特許を取得しています。これにより、例えばビルの中のテナントや地下などGPSでは補足しきれない人流も捉えることができます。また、屋外のGPSのデータなどと組み合わせて大規模な人流データを把握できるようになります。
この位置情報ビックデータを自社開発のAIで解析することで、消費者の行動特性や場所の状態をとらえることができます。さらに、デジタルマーケティングに精通する当社のチームの力を組み合わせ、お客様のニーズに応じた分析やマーケティング施策に有効なソリューション、広告サービスを提供することで、お客様の売上向上や課題解決を実現しています。
小売業界での精度の高い需要予測や商圏分析が可能に
――位置情報データを活用した事業とは、具体的にどういうものなのでしょうか。
主要事業の1つは、小売業やメーカーをお客様とした「リテール事業」です。位置情報データを利用することで、精度の高い需要予測や商圏分析が可能になります。
このデータを活用し、スマートフォンにお客様の嗜好やエリアに合わせた集客広告の配信や来店効果の計測、施策の改善を図ることができます。また、施設内の人の動線を把握することでテナント設計の参考にできますし、混雑状況を可視化して人員の最適化を図る検討材料にもなります。
消費財メーカー向けに広告サービスでは、店舗をメディア化し、売り場データを活用した効果的な広告を配信する事業も行っています。複数の小売事業者と連携・提携し、事業者の持つデータと当社のデータを組み合わせた配信で、広告配信による売上リフトの計測までが可能です。
リテール以外では、位置情報ビックデータを活用して、自治体や不動産業、公共交通事業者のまちづくりを支援する「スマートシティ事業」も行っており、東京都をはじめとする大型案件も獲得しています。具体的には、観光都市のプロモーションニーズに対応したり、逆にオーバーツーリズムや渋滞に悩む地域には時差観光を実現する情報配信などを行ったりします。また、鉄道沿線都市の回遊活性化支援や、移動ニーズを定量的に図ることによる二次交通の最適配備などの支援や脱炭素効果の測定なども行っています。
――今後はどのような取り組みを強化しようとしているのでしょうか。
当社のお客様は、継続的な取引をしてくださる顧客の割合が高く、はじめは小規模の利用であっても、当社の価値を実感してもらえると「実はこんな課題がある」「次はこんなことをやってみたい」といったお話をしていただけることが多いです。
ときにはお客様と一緒に新サービスを作り上げることもあります。今後もこのような、いわゆるアップセルやクロスセルにつながるご提案を強化していきたいと考えています。
また、当社1社でできることには限界もありますので、自社のみでサービスを提供している「垂直型のエコシステム」を構築するメガプレイヤーとの提携を進めることで「横断型のエコシステム」で新たな価値を生み出していきます。
AIを使って意味づけし意思決定材料を提供
――現在どのようなキャリア採用に注力していますか。
現在の従業員数は80人ほどですが、今後は年2割増程度で社員数を増やしていきたいと考えています。全方位的に採用を行っていますが、中でも力を入れているのが、セールスや事業開発のポジションと、データを扱うエンジニアの採用です。
セールスや事業開発は、流通企業やメーカーでデータを活用してきた方や、広告代理店でデジタルマーケティングの領域に関わってきた方に特に活躍していただけます。当社のお客様はエンタープライズ系の企業が多いので、大手企業を相手にセールスをしてきた経験があれば、より早く活躍できる傾向があります。
データ人材については、データを扱う仕事をしていた人はもちろん、まちづくりに関わってきた人や鉄道会社で働いていた方も入社しています。大学でサイエンスやまちづくりの研究をしてきた人も当社で働いてくれています。
――データ人材はどのようなスキルの方を求めていますか。
お客様が気づいていない潜在的なニーズやインサイト(人を動かす隠れた心理)を見つけられる人です。単にデータを扱えるだけでは十分ではなく、SQLやビッグクエリを使ってデータを抽出し、お客様がどんなデータからどんなインサイトを見つけたいのかを明らかにし、ニーズに沿った分析や試算を行い、課題解決の最適な施策を一緒に考えます。
お客様にとって位置情報データはそのままの状態では意味は理解しにくいので、AIを使って意味づけを行い、お客様にとって分かりやすい形で提供します。このようにデータを分析し、ビジネス課題の解決や意思決定に役立つインサイトを提供する職種は、データアナリストになります。
一方で、基本的な分析を超えて、より高度なデータ解析を行ったり、予測モデルの作成や機械学習モデルの開発を行ったりする職種は、データサイエンティストです。また、unerryの持つ膨大な人流データを効率的にデータ分析に活用するためのデータ基盤の構築をするのがデータエンジニアです。
ただし、ケイパビリティに応じて複数の領域にまたがった業務を担当するケースも多く、時間の使い方のバランスを含めて効率化を意識した組織づくりが必要と考えています。
――セールス職についてはいかがでしょうか。
当社のような新規性のあるサービスやビッグデータをどのように事業で活用できるのかということに関しては、お客様にとっても新しい取り組みであることが多いです。そのため、お客様の課題を紐解き、お客様が本質的に求めているものを明確にすることが重要です。
お客様に当社のサービスを導入してもらった後、そこから取り組みをどう広げていくのか、お客様のパートナーとして一緒に進めていくので、データ理解が深いとお客様からの信頼も厚くなりますし、セールスのポジションについてもコンサルティングの要素は強くなります。
一方で、今後は営業経験の少ない人でも売上を上げられるように、プロダクトをしっかりと固めるとともに、売り方についてもある程度の型を作れるようチャレンジしているところです。
未知のものにワクワクできる人を求む
――求職者の方に御社の魅力はどう説明していますか。
やはり自社で一次情報としてビックデータを持っていることが大きな魅力だと説明しています。実際、当社に入る前の職場で分析のための顧客データが足りず、思うようなインサイトが出せなかったという課題感から、当社を選んでくれた社員もいます。
自社でデータを持っていることは、やれることの幅の広さにもつながります。これはデータに直接関わる社員だけでなく、セールスなどにもいえることです。お客様のニーズに合わせて、必要ならば同業の企業とも協業して、どう進めていくのがいいのかを考えられるのは、当社の良さだと感じています。
――求める人物像はありますか。
私たちのサービスは、すでに誰かが成功していて、その前例にならえばうまくいくようなものではありません。未知のものにワクワクできる人や、成功への道筋をチームのメンバーやお客様と一緒に考えることが必要になってきます。そういったことを楽しめる人に当社に来てもらいたいなと思っています。
「unerryで何をやりたいのか」は、選考プロセスの中でも聞きますし、面談を進めていく中で一緒に解像度を上げていきます。特に中途採用では、当社でやりたいことを入社後どう進めていくのかまで、具体的に、はっきりさせた状態で入社してもらいます。
その方が、入社後も活躍してもらえると思いますし、他社と比較して当社を選ぶのではなく「unerryでこういうことをやりたい、だからunerryを選ぶ」といってもらえる状態になってからオファーを出すよう意識しています。
――入社時にはすでにやるべきことが明確になっていると。
一例ですが、当社でここ数年増えているテレビ局との取り組みは、キャリア採用の社員がサービスを開発しています。彼は前職で見逃し無料配信動画サービスの立ち上げに携わったことをきっかけに、さまざまなことにチャレンジしながらテレビ業界を盛り上げたいと考えるようになったそうです。
選考の中では「テレビ業界とunerryのデータを掛け合わせて、新しいサービスを作ってみたい」と話してくれました。入社後は実際にその考えをどんどん深掘りし、事業を広げてくれています。
内定承諾後に「入社後100日プラン」を策定
――人材の定着のために行っていることはありますか。
オンボーディングは選考過程からスタートしているともいえます。選考中から入社後にやりたいことの解像度を一緒に高めることを意識しています。そして内定承諾後からは入社100日後にどうなっていたいかの目標を設定し、それを達成するために入社1カ月目、2カ月目、3カ月目をどう過ごせばいいのかをご自身の中でイメージしてもらっています。
この「入社後100日プラン」は入社後にチーム内でプレゼンしてもらい、場合によっては全社に向けて発表してもらうこともあります。さらにHR主導でオリエンテーションのプログラムも取り入れており、社員の高い定着率につながっていると考えています。
また、当社では基本的に「自分のパフォーマンスが出る場所を自分で規定して働く」という自主性を大切にしているので、多くのメンバーが出社とリモートのハイブリッドで勤務し、出社率は全社平均3~4割程度で、週2日ほど出社する社員が多いです。
ただし入社後3カ月間は、出社してオフラインでのコミュニケーションを重視するようにお願いしています。当社のサービスが扱っているのはリアルのデータです。オフラインで人はどう動くのか、デジタルだけでは分からないことを大切にして欲しいと考えています。
――採用に関して今後どのようなことに取り組んでいきたいと考えていますか。
当社では人材を資本として捉え、その価値を最大限に引き出すことで中長期的な企業価値向上につなげる「人的資本経営」を推進しています。人的資本戦略のひとつに「グローバル企業としてのダイバーシティ実現」を置き、多様な人材が活躍できる環境づくりに取り組んでいます。
具体的には、女性管理職30%超の維持、社員に占める外国籍社員の比率10%以上を目標としており、2024年6月期末時点で、女性管理職の割合は33.0%、外国籍社員の比率は8.5%となっています
基本的には性別や国籍にかかわらず、その人の能力を伸ばして活躍してもらいたいと考えていますが、データを扱う職種は男性が多くなる傾向があり、女性の活躍推進にポジティブなアクションも必要だと考えています。また、人的資本開示の影響もあってか、この一年で海外の方からの自主応募がかなり増えていると実感しています。