カルチャー変革でイノベーション体質に作り変えるNEC積極的なキャリア採用で社会の変化に挑む
通信ネットワークやシステム、ソリューションなど幅広い領域に事業を展開している日本電気株式会社(以下、NEC)は2019年にHR方針「挑戦する人の、NEC。」を策定し、組織と人材の力を最大限に活かすための改革を実施してきた。
2017年には業績の悪化により中期経営計画を見直し、再起を誓ったNECは、「実行力の改革」を推し進めてきた。なかでもとりわけ注力しているのは内部のカルチャー変革だ。
変革を推し進めるNECの次世代に向けた人材戦略とは。人材組織開発部タレント・アクイジショングループ ディレクターの大橋 康子さんに伺った。(聞き手・文 千葉郁美)
社内にイノベーションを起こすには同質性の解消が鍵
――御社は経営課題の抜本的改革を推し進める上で、社員の実行力を高める施策の一つとしてカルチャー変革本部を立ち上げ、社内のカルチャー変革を実施してこられました。まずはその背景を教えていただけますか。
当社は2017年、当時実行していた中期経営計画を期中で取り下げる事態となりました。どうしてこのような事態になったのかと経営陣が考え、その中で変化の激しい時代において、柔軟な戦略変更にも対応できる実行力が足りていなかったのではないかという結論に至りました。その実行力を改善するための施策の一つが「カルチャー変革」です。
まず着手したのが「Code of Values(行動基準)」の策定です。当社の事業は今後必ずグローバルのトップリーダーと戦っていくことになる、その中でどういった行動が必要なのかを考えたものとなっています。「Code of Values」には、社員一人一人の目指す姿が表現されています。
また、浮上した問題点はほかにも複数ありますが、なかでも人材における問題点としてあがったのは、企業文化として同質性が高いことにありました。新卒で入社した、40代50代の男性たちが、経営の全てを決定している、という状況にあったわけです。
外から風が入らない、新しい考え方が生まれにくい環境。もっといえば、イノベーションが大変生まれにくい企業文化でした。
――なるほど。変化が必要だ、という声もなかなか通らないように感じますね。どのように打開していったのですか。
人ってそんなに簡単に変われるものではないですよね。イノベーションを起こすぞ、と言っても昨日の部長と今日の部長は同じ人ですし、同質性の高い環境の中では大きな変化が望めません。
そこで会社を変えていくための方法のひとつとして、中途採用を強化することとなりました。この取り組みは2019年から本格的にスタートして2020年、21年と年々拡大させています。21年には新卒と中途の採用人数を1対1にしようということで、新卒とほぼ同数の600名以上の採用を達成しました。
外部から人が入ってくると、内部ではこれまで当たり前にやっていたことがどうやら特殊らしいぞ、と気づきが生まれます。たとえば中途で参入された方が居心地悪い思いをしているという声が聞こえてきたので、どうしてなのかを探ってみると、新しい人が入ってきた時に教えるべきことがいろいろとあるが、できていなかったと気づいたとか。
キャリアのある方が入ってくるとなると、入社してその日からキャリアを活かしていきなり仕事ができると思いがちですけど、パソコンの設定やプリンタの使い方など、環境の違いに戸惑いがあるのは当然ですよね。そういった細かなことも声に出していただくことによって、IT環境の改善やオンボーディングプログラムの改善などにもつながっています。
また、事業部内での評価の付け方については、マネージャーは外から入ってきた人と中にいた人たちの評価は同時に実施するわけですが、これまでだと「同期の社員同士なら同じくらいだろう」という見方をしていたものが、同期も何も関係なくなりました。キャリアを持って入ってきた人を「あの社員と同年齢だから一緒の評価」なんてできないと気づいて。そんな変化があちらこちらで起こっています。
――内部の人だけでは気づかなかったような小さな問題点を見逃さずに解消していくことで、積み重なるように改善されていくのですね。
そうですね。いくら「あなたたちは同質性が強いですよ、変えたほうがいいですよ」と指摘されても、「どうやって?」で止まってしまうことが多いところを、考え抜いていくことは重要ですね。自分達も変わらなければいけないという感覚は、実際に社外から人が入ってきて実感してもらえているように思います。
なぜなら、新たに入ってくる人が日本語を喋れないとか、新しい上司が英語でコミュニケーションを求めてくるといったことが、当社のあちこちで起きています。そうなったら本当に変わらざるを得ないですよね。
採用関連でも、これまでだと入社していただいてからパソコンをお渡しできるまで2、3週間もかかっていて、その間を宙ぶらりんにしているのが当たり前、誰も疑問に思っていなかったという状況があったのですが、IT管理部門と粘り強く交渉して入社3日目には渡せるようになりました。
オンボーディングも、入社4日目までは会社をより良く知っていただいたり、NECで働く上でのライフハックを提供したりというオリエンテーションをしっかりと行った上で現場に送り出すという形に切り替えてきました。
オリエンテーション受講後もアンケートを取って改善点を指摘してもらいプログラムにフィードバックし、入社3ヶ月と8ヶ月のタイミングでキャリア入社社員の状況を確認しつつ、必要に応じて人事からサポートする仕組みを入れていくなど、現在も改善を行っています。
――人事の観点では、そういった新しい人材と現場の状況とのバランスをとることも大事になってきそうですね。
そうですね。職場にスピーディに定着してもらえるようにと思っていますが、すべてがうまくいくわけでもありません。予定の通りにはいかなかったために早期退職につながるケースもあります。また当社には入社一年が経過すると、挙手制で異動ができる仕組みがありますが、それに手を挙げて異動されてしまうこともあります。
採用人数が600人もいればハレーションがどこかで必ず起こりますが、我々人事としては「良い人材を採用すること」に加えて「良い人材の定着」を注視している、というところですね。
――人材を定着させるために、現場の受け入れ体制を支援する取り組みはありますか。
部署向けには、新たに入ってくる人に対して入社当日から1ヶ月くらいまでに「やること」をガイドブックとしてまとめて提供しています。入社から10日間くらいのカレンダーを作って、「こういうことをインプットしましょう」ですとか、受入リストのようなものを作って「この順番に進めましょう」ですとか。部署によって扱っているシステムが違ったり知っておくべき内容が違ったりするので、それぞれにカスタムしてお渡ししています。また、受け入れ部署の方々向けのトレーニングの導入を来期から本格的に実施していこうと考えています。これは採用やオンボーディング、トレーニングに携わる部署と一緒にやろうと考えている施策です。
――丁寧な対策は、人材を受け入れる部署側にとっても非常にありがたいことですね。
「変化の中にしか成長は生まれない」 そんな考えを持つ人に期待
――内側からの変化は今後、時間をかけて大きな成果につながっていくのではないかと想像します。これからも変革を継続してさらなる成長を実現するために、必要とされる人材はどのような人物像でしょうか。
当社の事業は非常に多岐にわたっていまして、生活に身近なものだとスーパーのPOSレジ端末もありますしシステムやネットワークのソリューション、企業や官公庁のDXを推進するコンサルティングなども行っています。さらに、海底にある光ケーブルの敷設や宇宙防衛系の設計・実装といった一般にはあまり知られていない事業もありますので、求める人材の幅もおのずと広くなります。
どのような人が必要か、と言われた時に「一つの形じゃない」というのがむしろ答えとも言えます。やはり事業体によって知識や経験が豊富でないとできない仕事もあれば、知識や経験以上にメンタル面や考え方、行動特性に求めるものが大きい、改革人材を求めるというケースもありますので、こういう人、というかぎカッコに収まるような人物像はないと言っていいと思っています。
ただ、本当に変化が激しい時代に今私たちは生きていますので、この変化を楽しめる感覚が根本にはないと難しいのかなと思います。変化を嫌い、昨日と今日が同じ状態じゃないと落ち着かない、同じことを続けたいという方には向かないと思いますね。行動することが変化を呼びますよね、と考えるような方はとてもフィット感があると思います。
――特に人材を必要とされている職種はありますか。
昨今で一番採用数が多いポジションはDXコンサルティングとなります。経験や知識が豊富な方に即戦力として事業そのものをお任せしますというレベルから、コンサルをやりたいと思っていたという人まで幅広く採用を実施しています。コンサルティングだけを専門に行なっている事業部もありますが、それ以外にもエンタープライズや社会基盤などのソリューション事業部でもコンサルティングが必要されています。
【プロフィール】 大橋康子(おおはし・やすこ) 人材組織開発部 タレント・アクイジショングループ ディレクター。 営業からキャリアをスタートし、新卒、中途採用媒体の立上げ・制作に関わり、人事採用コンサル・アウトソーシング企業を経てインハウス人事へ転向。LINE株式会社にて中途採用、HRBPリードの経験を積み、2021年よりNECにて中途採用のディレクターに従事。