入社11年目で初めて本社の名刺を手にした社員が語る、出向経験が教えてくれたもの
10年間の出向を経て、11年目にして初の本社勤務となった珍しいキャリアの持ち主の中尾 圭吾。新たなコンテナ船会社の欧州現地法人をイチから立ち上げるプロジェクトに携わる中で47ヶ国を相手にしながらも、心にあったのは名古屋で頂いた1TEUのコンテナでした。本社の外で培ってきた経験を語ります。【talentbookで読む】
1TEUの大事さを知った最初の配属──出向生活10年間での学び
2021年現在は自動車物流グループのクリエイティブ・ソリューションズチームに所属しています。
海外にある自動車物流の管掌会社の会社管理がメインの仕事です。
今は本社勤務ですが、私は2009年に入社してから10年間、出向生活をしてきました。
入社後はまず、コンテナ部門の営業会社の名古屋支店へ出向になって、そのあとシンガポール、ロンドンにも出向し、11年目にして初めて日本郵船の名刺を持ちましたね。海外拠点も含めグループ会社へ出向して経験を積むことはジョブローテーションの一環なのですが、10年以上本社勤務がなかったのは非常に珍しいキャリアだと思います。
名古屋ではコンテナ営業を担当していまして、そこで1TEU(※1)というものの大切さがわかりました。
大型のコンテナ船にはコンテナという箱を2万個積めたりするのですが、その箱ひとつを1TEUといいます。新規開拓の営業を頑張って成約に至ったお客様に「NYKに積むんじゃなくて、お前に積んであげるよ」と言われたことをいまだに覚えています。
正直、1TEUを獲得できたとしても、会社の全体規模を踏まえると、金額面ではあまり大きな貢献とは言えないところもあります。
しかし、お客さんにとっては非常に大きな意思決定ですし、大事な1TEUなんです。
そのときのお客さんをずっと大事にしたいなという気持ちがあるので、その後のキャリアで、営業を担当する社内の方と仕事をするときには、きっと自分と同じように感じられながらお客様と接することがあるのだろうということを踏まえて、伝え方を考えられるようになりましたね。
その後、2012年にシンガポールに出向することになりました。
就職活動をしていたときから海外で仕事をしたいという想いがあったので、その希望をずっと会社には伝えていたんです。
そして希望が叶うことになりシンガポールに行くことになりました。
※1 TEU:twenty-foot equivalent unitのこと。20フィートの海上コンテナに換算した荷物の量。1TEUで20フィートの海上コンテナひとつ。
邦船3社が集まるONEの設立メンバーとして、「爆発力」を最大化させる
シンガポールで2年間コンテナの収支管理やオペレーション管理に携わった後、2014年4月にロンドンに出向となりました。
はじめは日本郵船のコンテナ事業の欧州現地法人で仕事をしていましたが、途中で川崎汽船、商船三井、日本郵船でOcean Network Express(※2)(以降、ONE)を設立するという話があって、そこでONEの欧州現地法人の設立メンバーに入り仕事をしました。
そこでは3社の人が集まって、ONEとしてミッションを達成するために、どういうプロセスでオペレーションをするか、コスト計算をするか、営業方針でいくか、それぞれがアイディアを持ち寄り、ベストプラクティスを決めていく必要がありました。
会社によって、今まで異なる文化や手法をとってきましたので、「我々(日本郵船)はこういうロジックで計算していたけれど川崎汽船さん、商船三井さんはどうですか」という確認を一つひとつ丁寧に行うところからでしたね。
欧州の現地法人は欧州・アフリカの47カ国を管掌しており、邦船3社の支店が各国にあったことを合わせると100個以上の支店の意見をまとめ、ベストプラクティスを探っていくことに苦労したのを覚えています。
会社ごとにも文化は全然違いました。はじめは少しお互いに敬遠しあっていて、自分の会社のやり方が一番だと思っている人が多かったように感じます。そういう壁もあったので、途中からはどこの会社出身かという言葉を使わないように心がけていました。そのうちに、ONEの収支を良くすることだけを考えるようになって、自然と垣根はなくなっていたと感じます。
直近の業績を見ると3社がそれぞれやっていたときよりも、収支が良くなってきていて非常に嬉しいと思いますね。
コンテナ船事業は関わる人数規模が大きく、一人のスーパーマンがいても、あまりうまくいかないことがあるのですが、逆にみんなが同じ方向を向いてくれたときには非常に「爆発力」があります。そこが携わっていて楽しいところでした。
爆発力を最大化させるためには、人間関係やコミュニケーションが重要だと思っています。よくメンバーとは一緒にパブに行ってお酒を飲んだり、出張に行ってフェイス・トゥ・フェイスで会議をしたりしました。
※2 Ocean Network Express:略称はONE。ONEは2017年7月7日に、川崎汽船、商船三井、日本郵船の3社で定期コンテナ船事業を統合し設立された。
コミュニ―ケーションの裏には武器を
また、当時意識していたのは、GHQ(※3)のシンガポールの本社が収益を上げるために策定した方針を、そのまま欧州の各国に展開しないことです。
GHQの方は欧州含め全地域を統括していて、必ずしもそれぞれの国ごとの状態へ合わせた方針がくるわけではないため、私はロンドンのRHQ(※4)で現状を見極めながら「この数字を達成するためには、どの国を攻めないといけないか」という方針を一旦かみ砕いて各国に伝えることを意識していましたね。
そのような仕事をロンドンでしていたときの上司に教わり、今でも大事にしていることがあります。それは、コミュニケーションを取るのは当たり前で、それと合わせて必ず裏に武器(数値)を持っておかなければならないということです。
たとえば一見達成が難しそうな収支ターゲットがあった場合でも、それを達成できる具体策を数字としてもっておき、達成した先にはその国の取り扱い規模を更に拡大できる可能性も秘めていることなどを「武器」としてもっておき、各国の方々と議論するようにしていました。
実は、家ではあまり仕事の話をしない性格なのですが、のちに振り返ると、ONEの設立の準備をしていたときは、仕事でうまくいったことや、大変だったことを自宅で話していたようです。
また、息子を一緒に会社に連れて行く機会があったり、ONEのカレンダーコンクールで息子が応募した絵が受かってカレンダーになったりすることもありました。そのため、息子は街でONEのコンテナを見つけると「ONEだ!」と騒いでいました。自分の父親がONEで働いているというのが嬉しかったみたいですね。その様子を知って、自分もモチベーションが上がりました。家族に誇れる仕事をやっていて、本当に良かったなと思います。
※3 GHQ:Global Headquarters 本社。
※4 RHQ:Regional Headquarters 地域統括社。ここでは欧州複数か国をまとめる欧州地域統括のこと。
初の本社勤務でも、常に心に1TEUを──現場の声にヒントがある
ロンドンから帰国後、現在の部署に配属となり、入社11年目にして初めて本社に帰ってきました。帰ってきたときは正直、ドラスティックに自分自身が会社へ貢献できているとは感じられないことに戸惑っていました。また、良し悪しあるのですが、社内の限られた方々とのお仕事も多く、本当にこれで良いのかなと思っていた時期がありました。
しかし、徐々に部門・会社に自分が思ったことを提案しやすい環境が多いと気づき、研修など自分がやりたいと思えば、何でもやれる世界だと知ったんです。
今までのキャリアを振り返って、一番思い出のあるのは、ONEの設立です。なぜかというと最初のお客さんにもらった1TEUを忘れなかったから、というのが大きいです。
お客さんにもらった1TEUの重要さを知らなかったら、みんなで同じ方向を向けるような方針を考えず、ぶっきらぼうで乱暴な方針を欧州・アフリカの方々にお伝えしていたかも知れません。
あの経験があったからこそ、みんなに同じ方向に向いていただけるように努力して、思い入れのある成功体験をONEでつくれたのかなと思います。
そのような経験から、場数を積極的に踏みにいくこと、つまり自分から現場の話を聞きに行くことを正にこれから色々な経験をしていく方々に大事にしてほしいと思います。
現場の人の話が一番大きいと思うんです。
自分は船のオペレーションをやったことはないのですが、集荷営業の方、カスタマーサービスの方、お客さんの声、それがコンテナのコマーシャルな世界で言う現場だと思っています。そこでの経験や実情の話を聞くだけでも、今何が起きていて、今後何が必要かというヒントが得られると思うので、重視するといいかなと思います。
本社では、入社1年目でいきなり会社管理をする人もいます。それは良い経験の一方、その会社の収支が、現場で具体的にどの様な営業活動や調達活動の結果、そのような数字になっているか、わからないところもあるかと思います。
与えられたポジションなので、その仕事や責務を全うするのは重要なのですが、時には通常の業務範囲を超えてでも、現場に近い人の話を聞き、いろいろなヒントをもらうよう心がけるといいと思います。
1TEUもしくは1ドルが与えるインパクト・重要性をご存知な方がどこの現場にもいらっしゃると思うので、ぜひ現場の方々と話してヒントを得て、同じ方向を向いて「爆発力」を感じてほしいと思います。
日本郵船株式会社
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