経営戦略を担い、SDGs戦略プロジェクトを束ねるリーダー。エンタメで実現する社会善 | キャリコネニュース - Page 2
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経営戦略を担い、SDGs戦略プロジェクトを束ねるリーダー。エンタメで実現する社会善

▲経営本部 経営企画部・山口 久美子。本社3階イベントスペースの外に広がる夏らしい木々をバックに撮影

経営本部 経営企画部に在籍、会社の中長期経営戦略を考え、サステナビリティを担当する山口 久美子。SDGs戦略プロジェクトではリーダーを務め、二つの副業を持ち知見を深める、志高きビジネスパーソンです。学生時代は検事を目指しましたが、シフトチェンジしエンタメ界へ。根底にある体験、核となる思想に迫ります。【talentbookで読む】

司法試験から就職活動への切り替え。人の心を支えるエンタメの力を信じて

「業務の中心は、当社の中長期経営計画の策定とモニタリングで、中でも長期の経営戦略を考えるという文脈からサステナビリティを担当しています。さらに、非連続的成長をするためのM&Aや投資計画を考えて、投資先やグループ会社の経営管理をすることも業務の一環です」

大学の専攻は法学部法律学科で検事の道を志していた山口。法律は悪を正す大きな力を持っている一方で、「学べば学ぶほど、法律で助けられない人がたくさんいるということがわかってきたんです」と語り、ジレンマを抱えるようになった経緯を振り返ります。

司法試験の勉強から就職活動へと切り替え、報道志望でさまざまなメディアの世界を覗いてみたものの、「報道によっては逆に人を傷つけてしまう可能性がある」ことにも気づきました。法曹界、報道系メディア、いずれも諸刃の剣となり得る世界に身を置いたら、「自分の中でバランスが取れなくなりそうだな」と山口は判断します。

「それに比べて、エンターテイメントは人を傷つけたりしないし、誰かを支える拠りどころになったり、“ここではない世界が外にはあるんだ”と気づかせてくれたりもする。本当にいろいろな力があるなと。結局どんな環境にいたとしても、その人自身がどのように考えて行動するかにすべてが懸かっていると思って。“じゃあ、人の心を支えるものは何だろう”と考えたときに“エンタメだ”と私の中では思い至ったんです」

その選択を導き出した根底には高校時代の鮮烈な原体験がありました。

「あるアイドルのファンコミュニティで知り合った友人がいて、オンラインでの文字のやり取りだけではわからなかったのですが、ある日『ライブに行こうよ』と誘ったところ、実は精神的な病を患っていて外に出るのが難しいと打ち明けてくれたんです。

でも、そのアイドルの話をずっとし続けていくうちに、友人のほうから『ライブに行ってみようかな』と言い始めてくれて。お医者さんでも親友でもご両親でさえ、日々支えながらも友人が外に出るきっかけを作れずにいたのに、アイドルのライブを体感したいという想いが友人を突き動かしたんです。そのとき“エンターテイメントには人の心を動かす大きな力があるんだ”と実感したことは、私の核となっています」

入社後もさらなる成長を目指し自己研鑽。MBA取得がキャリアの転機に

▲「迷った時に見返してもらえるような経営計画でありたい」彼女の”こだわり”はいろいろな場面で役立っています

音楽も映画もドラマも好きという幅広いエンターテイメント嗜好を持つ山口は、それらを網羅する総合エンターテイメント企業であるポニーキャニオンに入社。音楽と映像、映画それぞれの営業、マーケティングや宣伝を行き来し、8つ目となる現在の部署に辿り着きました。異動が比較的多いキャリアの中で悩みもあったそうです。

「経験は多いけど、『こんなスキル、こんな専門性を持っています』とはなかなか言語化しづらくて……。でも置かれた場所で自分の力を100%発揮しなければいけないとは常に思っていました。その先で作品との出会いを待っているお客様にとってベストな状態にしておきたかったからです」

そして、映像部門で宣伝を担当していた時期に転機が訪れます。

「ちょうど配信のプラットフォーマーがオリジナルコンテンツを開発したり、グローバルコンテンツ企業が独自の配信プラットフォームを開発したりするなど、映像ビジネスが大きく変わり、それに伴い戦略に変革を迫られていたタイミングでした。

しかし、宣伝という立場の私が変えられるのは、戦略の下位である宣伝に関わる戦術だけ。その状況は非常に苦しかったですね。“では、本来どういう経営戦略をとるべきなんだろう”という根本の部分を学びたくて、MBAを取得するため経営大学院に通うことにしたんです。

経営戦略とその策定プロセスについて学ぶうちに“なるほど、これが今当社が置かれているビジネス環境なんだ、この視点が当社に欠けているんだ”といろいろなことが見えてくるようになりました。そして在学中だった2020年に経営企画部への異動が決まったんです」

異動後に山口は「社内のさまざまな事業をポートフォリオとして俯瞰できているという視野の広さが、会社としての経営戦略には役立つと初めてわかった」と言います。

「経営戦略自体をつくったり、意思決定をしたりするのは経営層や現場の第一線に立つ事業本部長なのですが、その前提となる“目線合わせ”は私たちの重要な仕事です。最終的には個々人の価値判断が影響しますが、その前段階で変数をなるべく揃えた状態にします。

きちんとデータを揃えて『今の世の中において我々のビジネスはこう動いていて、このような将来予測が出ていて、こういった要素が求められているんです』と外部環境分析を共有して、“競合他社はどう戦っているのか”という情報も収集して正確に伝えた上で、“では、自社はどう戦うのか”を考えてもらうように心掛けています」

経営層や事業のトップとのやり取りだけでなく、全社員を対象としたコミュニケーションも必須。入社以来、多種多様なコンテンツにさまざまな立場で携わることで獲得した視座と手触り感は随所でプラスに作用しています。

「会社としての意思決定をする時に、事業間や事業とコーポレート間で矛盾したことを言っていないかを精査し、戦略の整合性を取ることも大事な役目です。例えば、それぞれの部署はどうしても“部分最適”になるため、時に俯瞰で見ることが難しくなる。そういう時に、我々がうまく橋渡しをして両者に“全体最適”を考えてもらうようにします。

あとは、経営層や事業本部長が決めた戦略を、社員の皆さんに理解してもらうためにわかりやすく見える化し、資料としてアウトプットするのも大切な仕事だと思っています。経営計画に基づき事業計画が立てられて、各自の具体的な目標に落とし込まれるわけですが、何か迷った時に見返してもらえるような経営計画でありたいので、そこにはこだわりたいです。

作っては発表し、アンケートを取り、たとえば『専門用語が入ってわかりにくかった』という指摘があれば修正して、ブラッシュアップして、絶えず試行錯誤を繰り返しています」

副業で新たな知見をインプット。複数の居場所がもたらす“強固な自立”

▲「世の中の変化に合わせて、自分も変わり続ける」。副業で得た経験をもとにどんな化学変化を起こすのか楽しみです

二つの副業に取り組むようになったのは、いずれも経営大学院で出会った仲間との縁がきっかけ。2022年から参画している株式会社TMIKは、ヒット率の高いメロディを量産するAI作曲エンジン『FIMMIGRM?』の開発・プロデュースをするベンチャー企業。CEOの玉井 健二氏は“作曲の民主化”をうたい、UGCコンテンツ隆盛の時代に誰もがオリジナル曲を持てる未来を提唱しています。

「AIは当社もいつかはチャレンジしたい興味深い領域です。でも、やはり既存の事業がありますし、飛び地であるAIの領域でいきなり新規事業を起こすといった意思決定はなかなか難しいのが実情です。ならば実際その中に入ってみて、価値観やジャッジのスピード感を体感してみたいと思ったんです。

自分の持つ音楽ビジネスのスキルを提供しながら新たな業界の知見をインプットすることができたらWin-winだなと。いつかこの経験がAIやWeb3.0の新規事業立ち上げにつながる一助になればと思っています」

もう一つの副業は、スタートラインを平等にすることで不平等を解決したいという想いから、東京都女性ベンチャー成長促進事業「APT Women」への参画。音楽と映像ビジネスの双方を経て培った宣伝プランナー、PRのスキルを活かし、2021年から広報を担当しています。

「起業家の中で女性は少数派と言われていますが、気づくビジネスの視点が実体験に基づいたミクロな視点で良い意味で女性ならではなんです。そのため男性の投資家にその必要性を説明してもなかなか伝わりづらく、圧倒的に投資家に男性の多い現状ではビジネスをスケールさせにくい側面があるんです。

『APT Women』はそういったアイデアを必要としている投資家の方たちと女性起業家をつなげたり、経営に必要な知識やスキルを提供したりなど、女性起業家の成長を支援する事業なのですが、その広報担当として参加しています」

本業と二つの副業。そんな忙しい中で彼女はあることを感じたそうです。

「まったく違う領域と自分を掛け算することで創発的に得られる知識もありますし、絶えず自分をどこかに依存させることなく、立ち止まらせることなく動かしています。ワーカホリックに聞こえるかもしれませんが、副業先は仕事をするだけではなく一つのコミュニティなんです。

悩んでいることを別のコミュニティで相談すると、思わぬ視点からコメントがもらえて元気が出たり、問題が解決したりとうまくバランスが取れています。いろいろなところに居場所があるからこそ、初めて強固に自立できたと感じますね」

SDGs戦略プロジェクト立ち上げ秘話。社会善と両立するエンタメビジネス構想

▲先日、社内で実施したダイバシティーアンケートの結果を発表。新たな課題に向けて今後も邁進していきます

2022年6月30日、ポニーキャニオンはSDGs宣言をしました。持続可能な社会づくりに貢献するため、サステナビリティステートメントと重点取り組みテーマにおける2030年までの目標を公表。山口は中期経営計画のプロジェクトの一つとして、SDGs戦略プロジェクトを立ち上げました。現在はリーダーとして7人のメンバーを束ねています。

「2021年に策定した当社の長期経営計画“VISION 2030”の中でサステナビリティへの対応が必要だという示唆出しがあって、その具体化を担う中期経営計画“PC2023”の中でサステナビリティに取り組む組織をつくろうという話になり、『私が担当したいです!』と挙手しました。

いきなり組織をつくるのではなく、まずは部署を横断したプロジェクトという形でスタートさせようと企画書を書き、経営層に提案、承認が下りたんです」

メンバーで当社のビジネスを考え抜いて設定した重点取り組みテーマは4つ。「エンターテイメントを通じた社会課題解決」「ダイバーシティ&インクリュージョン」「クリエイターとのフェアな取引」「環境に配慮した創造」。テーマ別に分科会を設定して活動しています。

「ダイバーシティ&インクリュージョンは多様なコンテンツ制作のために必須であり、他業界に比べても取り組むインパクトが大きく、経営にダイレクトに響くと思っています。さらに、地域活性化事業に代表されるようなエンターテイメントを通じた社会課題解決やクリエイターとのフェアな取引は、この業界・当社ならではの取り組みで、注目されていると感じます。

一方、当社のようなエンターテイメント会社は、例えばエネルギー会社などと比べれば元々環境負荷はあまり大きくないので、環境に取り組むインパクトはあまり大きくはないかもしれません。でも、環境はすべての土台となるので、まずは封筒や名刺の紙素材を変えるといった小さなことからコツコツと始めて、貢献していきたいと考えています。

手に触れるものは社員に対してのメッセージにもなりますし、受け取った社外の方にも“あっ、ポニーキャニオンはこういうところに配慮しているんだ”と気づいていただけたらうれしいですね。

掲げた目標をどこまで達成できたかを公表するサステナビリティレポートも年次で出そうと思っています。そうすれば毎年改善点が明確になりますので。このプロジェクトを一過性のムーブメントで終わらせないよう、“続く”ための仕組みを整えていきたいです」

また、ポニーキャニオンへの入社を希望する人たちに向けて、会社の魅力を伝えるならと尋ねると「二つあります」と山口。

「一つ目は『自分はこれをやりたいんです!』と手を挙げて、それが会社にとって必要であり、実現する算段をきちんと証明できれば『試してみなさい』と任せてくれる会社であること。やりたいことが明確にある人にとってはすごく良い会社だと思います。実際に成功するかどうかはやってみなければわからないですから、まずは手を挙げるだけの熱量を持っていることが重要です。

二つ目は、当社はさまざまな事業を展開しているので、良い意味で決まったカラーがないところ。だからこそ自分が何色だとしてもそこに一つ色を添えられるなと私自身入社するときに思ったんです。ありのままを発揮すればいいし、自分が一番強みを出せるジャンルで企画を立てれば良いと。

『うちは〇〇はやらないよ』と頭から退ける会社ではないので、企画が良ければ通ると思います。いろいろな“色”の人がいて、その集合体がポニーキャニオンという会社を彩っていくので、ぜひ新たな色を加えていただきたいです」

自身の実体験に基づいたPRのメッセージは熱く、強い説得力があります。今後挑戦したいことを尋ねると「今は経営企画の仕事が自分の天職だと思っています」と語り、その表情からは充実感が伝わってきます。

「入社したころは今の状態をまったく想像できていませんでした。でも今はここに“たどり着いた”と感じていて、これまでのキャリアを振り返るとどれも意味があったし、すべてがつながっていると思います。

今後やりたいこととして、サステナビリティの領域で新規事業を立ち上げられたらいいなとは思っています。それをすることが即ち社会善につながって、かつ、お客様から喜んでいただけてサステナブルな状態でビジネスが成立しますよね。その両立が難しく、ハードルは非常に高いのですけれども。

サステナビリティが目指す究極はそういうところにあると考えているので、その新規事業を通じて、当社ならではの力で世の中をより善くできればと思います」

世の中にはびこる不平等、不公平を見過ごすことができず検事を志した学生時代。その後エンターテイメントビジネスの道を選んだ山口は、心の奥底で通奏低音のように貫いてきた初志を法律家とはまた違った形で育み、社会へと還元しようとしています。

「先日エントリーシートを読み返してみたら志望理由の欄に“エンターテイメントは世の薬であると思っている”と書いていたんです。“お、昔の私、わかってるじゃん!”って(笑)。たしかにそう思っていたなと。とはいえ仕事をする上で常に心に留められていたかというと寝る間もなく忙しい時期には抜け落ちてしまっていたこともきっとありました。

でも、キャリアを重ねてきた中でようやく今、入社時の想いをもう一度素直に形にできている気がします。もちろんこれまでも“この作品を届けることによって、誰かの居場所になりたい”という願いは念頭に置いていましたが、よりダイレクトな取り組みをサステナビリティ担当という立場で形にできていると感じています」

※ 記載内容は2023年8月時点のものです

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