葛藤の末にたどり着いた強い組織の築き方──お客様理解、自己理解、そして成功体験 | キャリコネニュース
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葛藤の末にたどり着いた強い組織の築き方──お客様理解、自己理解、そして成功体験

2009年に統合前のアルパインに入社以来、クルマ向けディスプレイ製品の回路開発に携わってきた石田 智己。入社10年目で若き係長となった石田が、開発や人材育成に真摯に向き合う中で見つけたエンジニアとしての想いや理想のリーダー像について語ります。【talentbookで読む】

見えないところで大きな影響を与える回路基板

回路技術部に所属し、お客様であるクルマメーカーとともに、ディスプレイ製品の回路基板の設計開発をしています。

ディスプレイはクルマの正面中央にありさまざまな情報をドライバーや同乗者に伝えるため、ドライブの安全性や快適性さえも左右する重要な部品のひとつです。回路基板はそのディスプレイの中にあります。普段は目には見えませんが、回路に問題があると画面のチラつきや、映像の途切れ、タッチパネルの感触にまで影響を与えてしまうため、品質の高さが求められます。

私は入社以降ずっとディスプレイ製品の開発に携わっています。良い製品ができればお客様に喜んでもらえるやりがいのある仕事ですが、納得できるものをお客様に提供できず苦しい想いをしたこともあります。

ある海外自動車メーカー向けのディスプレイ製品を開発していた当時、モニターに静電気をとばしたときに画面がチラついてしまう事象が解決できずに試行錯誤していました。

原因はモニター周りの素材だったのですが、素材を変更するとクルマ全体に影響を及ぼすこととなりお客様である自動車メーカーに迷惑をかけてしまうので、開発途中から変更することは許されません。

さまざまな改善案を盛り込み、数カ月にわたって検証を重ねたものの、結果は出ませんでした。最終的にはお客様に謝り妥協点を見出すことで、なんとか量産にこぎつけました。お客様に期待通りの製品を提供できないことが本当に悔しかったです。

今振り返ってみると、試作前のコンセプト決め段階から十分に検討できていればお客様に不快な思いをさせることもなかったと思います。開発とは、初期段階からお客様の要求を正しく理解し、広い視野と知識をもって、価値を最大化する方法をお客様やサプライヤーと共に検討することが求められる仕事なのだと痛感しました。

お客様起点のカギはコミュニケーション能力

仕事をする上で大切にしていることはお客様起点です。私たちにとって直接のお客様は製品を納める自動車メーカーですが、本当のお客様はエンドユーザー、つまりクルマを購入してくれる人です。エンドユーザーに価値を感じてもらえるものは何かを常に考えています。

しかし何に価値を感じるかは人それぞれなので、自動車メーカーや自社の関係者と協議し、本当に価値ある製品を作り上げていきます。そこで必要となるのがコミュニケーション能力です。

コミュニケーション能力が大切ということは就職活動をしていたころからさんざん耳にしましたが、それがいったい何を示すのか当時はピンときていませんでした。

答えが見えてきたのは、中国の開発拠点メンバーと仕事をするようになってからです。お互い母国語やバックグラウンドが違うからこそ、相手の話を注意深く聞き、話の背景にあるものまで見るようにしていく中で、コミュニケーション能力とは、人の話をしっかりと聞いて、正しく理解して、解決策を提案できる力だと思うようになりました。

コミュニケーションはキャッチボールであるべきで、ドッジボールのように相手に意見をぶつけることが目的ではないですからね。

一緒に成功体験を重ねることがめざすリーダーへの道

中国メンバーとコミュニケーションを重ねる中で、開発スタイルが日本とはまったく違うという問題がわかってきました。

当時の中国の拠点は、スピード感はあるのですが、とにかくやってみて、だめだったら直せばいいという行き当たりばったりの開発スタイルでした。このやり方は一見すると早いのですが、何十件もの不良が積み上がりその対応に時間が取られるため結果的には無駄が多くなります。本来であればある程度机上で設計、検証してから試作に移ることが理想です。

私はこの改善のために入社5年目から3年間、中国へ赴任しました。

赴任当初はメンバーの理解もなかなか得られず、思い通りにいかないこともあり、さらには20人ほどいたメンバーのうち7名が辞めてしまいました。中国国内で給与水準が格段に良い都心部へ転職していくメンバーが多いことも原因でしたが、さすがに1/3も辞めてしまい落ち込みましたね。

況を打破するためリーダーとしての自分を振り返った時、もしかすると指示をして人を動かすことだけに必死になっていたのではないかと気づきました。

めざすリーダー像は、先頭に立ちメンバーを引っ張っていくこと、一緒に成功体験を重ねること。

そこからは理想とする開発の進め方を現地メンバーと一緒に実践することで、従来の中国の進め方よりも少ない人数で、楽に、良い結果を出すことができました。

開発の進め方を変えることでうまくいくという成功体験は、メンバーの意識をあっという間に変え、従来からの強みである中国スピードを保ったまま、理想とする無駄の少ない開発ができるようになりました。

リーダーとは、人を動かすだけではなく、一緒に成功に向かって先頭に立つことが大事なのだと学びました。

また中国駐在中には責任範囲が増したこともあり、視野を広げ全体最適を考えるようになりました。

チーム編成を考えるとき、自分のもとに優秀な人材がほしいと思ってしまいがちですが、中国ビジネス全体を成功に導くためには自分のチームのことだけを考えていても仕方ありません。

そこでまず現地メンバーのスキルを図るためテストを自作、実施し、一人ひとりのスキルを明確にした上で人材配置を考えました。ほしい人材がいたとして、中国内での事業優先度を鑑み、泣く泣く他のチームに入ってもらうこともありました。

リーダーとして成功体験を共に重ねること、全体最適の視点は、帰国して係長となった今も非常に役立っています。

自分の部下とは、掲げた目標に対して何ができたかを明確にし、手ごたえを感じてもらうための面談を1カ月に1回の間隔で行っています。小さいことでもいいので一人ひとりが達成感を得ることで、正のスパイラルが生まれ、強いチームになっていくと思います。

そうして一人ひとりが優秀なメンバーとして独り立ちできるようになると、組織を俯瞰して他のチームや部署に活躍の場を設けて、異動してもらうこともあります。一つのチームだけが強い偏りのある組織ではなく、強いチームをたくさん作って全体の底上げに貢献できるよう心がけています。

選ばれ続ける存在になるために

部下をマネジメントするようになってから会社の未来を考える機会が増え、理想の姿は「やっぱりアルプスアルパインっていいよね」とお客様に選ばれる存在であり続けることだと思うようになりました。

そのためにはお客様のニーズを正しく把握すること、時代の流れを正確にとらえることが重要です。加えて、エンジニアとしてすべきことは製品サービスを通して、当社の強みを発信していくことだと思います。

当社には強みとなるコア技術がたくさんあります。私が携わっているディスプレイの表示も強みの一つです。

しかし開発拠点が複数にわたり、それぞれ異なる製品を設計しているためか、残念ながら自社の強みのすべてを理解しているエンジニアは多くないように感じます。

強みを集結させたクルマのコックピット制作プロジェクトも進行中ですが、まだ一部の社員だけしか携わっていないので、こういった取り組みが増えるとより理解が深まるかもしれないですね。

まずは当社の強みとは何かを考え、それを活かした提案を自分から率先して行っていくつもりです。そしてともに考える機会を継続的に部下に提供していくことが、今のポジションにある自分がやるべきことだと思います。

一人ひとりが自社の強みを意識しながら考え実践する風土がもっと定着したならば、当社が社会やお客様へ提供できる価値も格段に増すだろうと期待しています。

※ 記載内容は2023年11月時点のものです

アルプスアルパイン株式会社

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