「韓国を海外事業の柱にする」日韓の壁を越えた2人の経営者たち、覚悟と苦難の10年間 | キャリコネニュース - Page 2
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「韓国を海外事業の柱にする」日韓の壁を越えた2人の経営者たち、覚悟と苦難の10年間

トランスコスモスコリアのCOOを務めるコウォン・サンチョル(左)とASEANを統括する須部 隆(右)

トランスコスモスコリアのCOOを務めるコウォン・サンチョル(左)とASEANを統括する須部 隆(右)

10年で7000人以上の国民雇用を国から讃えられる会社へと、トランスコスモスコリアを育て上げた須部。出資先の韓国企業に1メンバーとして入社した後、そのバトンを受け取ったコウォン・サンチョル。出資先の統合や新規事業展開を経て、日本企業が海外で成功するまでの軌跡をたどります。【talentbookで読む】

ふたつのミッションを携え単身アウェイへ。そして相棒との出会い

トランスコスモスが韓国でコールセンター事業を行うCIC Korea,Inc.(以下CICコリア)への出資を開始したのは2001年。本格的なアジア進出前だったため、本社はあまり現地の経営に関与せず、出資前と大きく変わらない体制で韓国事業を展開していました。

その頃の韓国は、ちょうど携帯電話が広まり始めた時代。その普及に伴いCICコリアは順調に拡大を続けていましたが、2006年に入り携帯の普及が鈍化。競合の登場による過当競争も始まり、2008年までの3年間は成長が止まった状態でした。

この状況を打開するため、韓国に渡ったのが営業統括本部長を務めていた須部 隆。2008年、CICコリア初の日本人副社長として、事業の再生に乗り出したのでした。

ただ須部には、実はもうひとつミッションがありました。

須部 「トランスコスモスは当時、韓国で 5社の企業に出資していたのですが、そのなかのひとつ Inwoo Tch,Inc.(以下 Inwoo技術)が、コールセンター事業で CICコリアと競合するようになっていたのです。

それを収めるため、両社を合併することがもうひとつの目的でした。当時の CICコリアは従業員数約 2000人。 Inwoo技術も約 1500人を抱えており、合併はかなり大規模になると思いました。

海外赴任は初めてで不安はありましたが、韓国はトランスコスモスの海外事業のなかでも規模の大きいところ。合併というミッションにもやりがいを感じていました」

当時、韓国のコールセンター市場は日本に次いでアジア2番目の規模。今後、海外市場がさらに伸びると予測していたトランスコスモスにとって、海外進出の事業基盤を整える重要拠点であることは明らかです。

当然、会社としても重要なミッションである合併をサポートするため、韓国側で選ばれたのがコウォン・サンチョルでした。コウォンはCICコリアが2001年に立ち上がった当時の創業メンバーでしたが、その後トランスコスモスに転籍。経営企画などを担当した後、2006年から韓国でのデジタルマーケティング事業拡大のために設立された、トランスコスモスMCMコリアの実務責任者として手腕を振っていました。

コウォン 「須部さんはプロジェクトマネージャーとして社内から、僕は社外からの立場で合併の計画などを一緒に立てていきました。僕は合併の話があがる以前から、 CICコリアの営業を育てる意味でも、日本からの役員が必要だと主張していました。

経営側には、営業ができて、現場とコミュニケーションがとれ、その上でメンタルが強い人材が必要だと伝えていたのですが、須部さんは、まさに僕が求めていた人材。

出張ベースならばロジカルに仕事を進めればよいかもしれないけれど、韓国に何年も赴任して現場を見ていくということは本当に大変なことで責任感が求められます。話を重ねるうちに、この人なら信頼できると確信しました」

ただCICコリアは、創業以来現地のメンバーのみで運営してきた会社。これまでに社員たちが日系企業で働いていると意識する機会はほとんどなかったため、現地メンバーとはイチから関係構築するところからのスタートでした。

言葉を勉強し自らコミュニケーションをとることで心を開かせる

社内で野球チームを組んで休日は草野球。プライベートでも打ち解けていった(上段左から2番目が須部、3番目がコウォン)

社内で野球チームを組んで休日は草野球。プライベートでも打ち解けていった(上段左から2番目が須部、3番目がコウォン)

CICコリアとInwoo技術は、お互いがコンペティターだったこともあり、当初、合併には両社が反発していました。

そんななか須部とコウォンは、両社の意思や企業文化を尊重しながら、中立な立場で慎重に合併を推進。数々の課題をクリアしながら、2009年に合併を成立。須部が代表取締役COOに就任し、コウォンを経営企画本部長として迎え入れ、トランスコスモスコリアが誕生したのでした。

須部 「合併前は、人事も違えば給与テーブルも違い、両社の人間がお互いに一線を引いている状態。文化の融合という点にはスタートから頭を悩ませました。コウォンさんがいて二人三脚で取り組めたので、なんとか耐え抜いたという感じです。

コウォンさんは、トランスコスモスの方針やスタンスを良く理解していたので、社内で反発があってもふたりで説得していましたね。もちろん一筋縄ではいかず、社員と本音で議論したり話し合いを繰り返しました。

数年を要してようやく社員同士が認め合い、同じ方向を目指していけるようになったんです」

実際に、赴任当初は言葉の壁もあり社員との距離を感じていた須部は、夜間の大学でコツコツと韓国語を勉強し、自分の言葉で社員たちとコミュニケーション深めていったのです。

また、取引先にも率先して訪問し、通訳を介さずに自身がフロントに立って向かい合おうとする須部の姿に、お客様も信頼を寄せるようになっていきました。

ものを売っていないサービス業は、ローカライズしなければ生き残れない。そのためには、片言であろうが自分の言葉でコミュニケーションをとる必要がある。この須部の覚悟が、韓国の人たちの心を動かしたのでした。

コウォン 「僕らの事業は、机上の数字だけでは見えないことがたくさんあります。ただ現場の声を聞くにしても、通訳を通すとどうしても限界がある。

須部さんはそのことに気づいてから、自ら現場を知ろうと、現地の人とのコミュニケーションを大事にしてきました。言葉も文化も、こんなに現地を理解しようとしてくれた日本の方は初めて見たし、自ら動く方だったから、僕も一緒にやっていけたんです。

新しい会社が一致団結できる文化をつくる上でも、韓国の企業としてやっていく上でも、そのスタンスは非常に重要だったと思います」

自分の責任において、やり切るしかない

ASEANへ旅立つ須部の送別会の様子。50人近いメンバーが参加した

ASEANへ旅立つ須部の送別会の様子。50人近いメンバーが参加した

須部やコウォンたちの努力により、トランスコスモスコリアは設立から数年で、社内に一体感が生まれ、皆が同じ方向を向くようになりました。

一方その頃の韓国市場は、価格もさることながらサービスの品質が重視されるようになり、トランスコスモスコリアは、長年培ってきたクオリティの高さを武器に、順調に業績を伸ばしていきました。

そして須部が韓国に赴任してからちょうど10年目の2018年、従業員約7000人にまで成長した会社をコウォンに託し、自身は新天地となるASEANに向けて旅立ったのでした。

須部 「コウォンさんを次の社長に選んだのは、彼のキャラクターもありますが、何より会社の状況を一番よくわかっており、社員からの信頼も厚いことが理由です。迷いはなかったですね。ただ引継ぎは簡単では無いと思ったので、私が会長、コウォンさんが社長という体制を敷き、 1年かけて引き継ぎを行いました。

社員はその間に私が去ることを理解していましたし、逆に将来、韓国から ASEANへのキャリアパスがあることを見せられたのは良かったと思っています」

コウォンは、和を大切にする温厚なキャラクターで、議論の際も、波風を立てずにうまく収めるところがある。ただ社長になる以上は、調和だけでなく、時には厳しい判断もくださなければならない。

須部は1年間の引継ぎを通して、実務とともに、徹底してその厳しさコウォンに伝えていきました。コウォンも、正しいことであれば、やり通す力を須部から学んだと言います。

コウォン 「みんなからは、逃げるなよって言われました(笑)。僕は CICコリアの創業メンバーでしたから、現在の中核メンバーたちは 18年間一緒にやってきた仲間。そのなかで社長を引き継ぐのは、本心では迷いもありました。

代表権を持つことに心苦しさもありましたし、最終責任を負うということは、仲間に対して厳しいこともしなければなりません。ただ会社やプロジェクトのヒストリーを知らない人間に社長が務まるほど簡単な会社ではないことも事実。

それはもう、自分の責任において、やり切るしかないという感じでした」

日本人社長から韓国人の社長へのスイッチは、さらなるローカライズという意味でお客さまからも歓迎されました。一方で、副社長には韓国人の他に、日本人をもうひとり据え、日系企業である強みもアピール。トランスコスモスコリアは、これまでとは違った新しい顔で新たなスタートを切ったのでした。

それぞれの地域で、新たなステージに挑む

成長期を支えた経営メンバーたちと。それぞれが韓国での経験を経て、現在はトランスコスモスチャイナやトランスコスモスベトナムなど他拠点で活躍している(中央が須部、右隣がコウォン)

成長期を支えた経営メンバーたちと。それぞれが韓国での経験を経て、現在はトランスコスモスチャイナやトランスコスモスベトナムなど他拠点で活躍している(中央が須部、右隣がコウォン)

現在トランスコスモスは、世界30カ国で109拠点を展開しており、そのなかでも中国や韓国はサービスや会社組織という面で先行しています。

一方、須部が担当するASEANは、市場としては急速に伸びていますが、会社自体がこの5年~6年で立ち上がったものばかりということもあり、組織としてはこれから成長していくところです。

須部 「現在、 ASEANのなかでは配下に 5000名以上のグループメンバーを抱えています。直接的には 6カ国 9社を見ていますが、それ以外でも複数の関連会社のボードメンバーに入っています。

その 1社 1社が、中韓のような成長をしていかなければなりません。私が赴任して約 1年になりますが、去年からしっかり収益もでてきています。その意味で、 ASEANを中韓に続く、トランスコスモスの 3番目の海外の柱にしていこうと思っています」

一方コウォンが担当する韓国は、現在従業員も約8000名に迫る勢いで、韓国に進出しているグローバル企業約50社のアウトソーシングを手掛けるまでに成長しています。2019年1月からは総資産が100億円を超え、韓国に登録されている企業のうち0.7%しかいないK-SOX(韓国版内部統制報告制度)が適用されたことで、より市場での存在感を強めました。今、須部とともに育ててきた、プロセスと品質を大切にする文化、一致団結して事業に取り組む文化が、花開いているといえます。

コウォン 「東南アジアは、まだまだアウトソーシング事業で成長できますが、韓国はそれだけでは成長は見込めません。これまでの我々の強みは、お客さまから請け負ったプロジェクトを完璧にやり切れることですが、これからはもう一歩踏み込み、お客さまのビジネスモデルや事業課題を深く理解することが重要だと考えています。

お客様とともに考えることはもちろん、時にはリードするような存在として真のパートナーでありたい。人材育成も含め、この 10年はそこに注力し、コスト削減だけでなくマーケティングなど売上拡大提案にも強みを持つ会社に育てていきたいと思っています」

競合する2社から、トランスコスモスコリアという企業をつくりあげ、トランスコスモス海外事業の柱として確立した須部とコウォン。二人三脚で歩んできたふたりは今、新たなステージに挑んでいます。

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