情熱とセンスで建設工事を支える──ふたりの匠が語る現場のリアル
都心からほど近く、登山道へのアクセスの良さや温泉も人気のスポット・高尾山。その駅舎のリニューアルや温泉施設の開業において、建設の現場を取り仕切ったのが、京王建設株式会社でした。建築と土木の現場を統括したふたりが、知られざる苦労とやりがいの“リアル”を語ります。【talentbookで読む】
社会のさまざまな風景の舞台裏には、ものづくりの匠がいる
たとえば、「京都にある金閣寺をつくったのは誰か?」という問題。
日本史のテストであれば「足利義満」と回答するのが正解でしょう。ただし、それはあくまでも施主の話。実際に“つくった人”は、名も知らぬあまたの工匠たち──つまり、ものづくりの匠です。
それは現代でも同じ。ビルでも駅でも、橋や道路でも。施主や設計者とは別に、昼夜を問わず現場で汗を流し、頭と体を使ってものづくりに励む人たちがいます。
京王建設の落合は、商業施設を中心に、これまでさまざまな案件で建築の現場監督を務めてきました。
落合 「特に多いのは、京王電鉄および京王グループ各社の案件。現在の部署は改修工事を主に行っていますが、個人的には商業施設の新築案件に携わることが多かったです」
実は、短期間ながら建築金物の商社で営業経験もあるという落合。「でも、やっぱりものづくりの魅力に惹かれて」とのことで、縁あって2007年に京王建設に入社します。
建築の施工管理は、建物などの工事において工期や人員、近隣対応も含めて、調整・管理をするのが使命です。
落合 「設計者の意図をくんで具現化していくと同時に、完成後に安全かつ問題なく利用できるように配慮しながらつくり上げていきます」
一方、土木は橋や道路、トンネルなどの、いわゆる社会インフラに関わる領域を担います。社会生活の基盤となる部分を、安全に、強固につくり上げるのです。
岸良 「新卒 1年目のときに経験したのが、高速道路の中央道と圏央道が接続する、八王子ジャンクションの第 1期工事。約 300メートルにおよぶ工事用の仮桟橋を架けるために、明けても暮れても測量に励んでいました」
土木の関わる領域は、絶対的な安全性が求められます。厳しい管理基準をきちんと満たしつつ、天候不良などのトラブルにも対応しながら予定通り施工する。それが、土木管理の難しさであり、技量を要する部分にもなるのです。
岸良は工事統括のほか、京王電鉄に出向し工事発注業務を行なっていた時期もあります。土木分野のエキスパートとして、多様な経験を積んできました。
そんなふたりのプロフェッショナルが出会ったのは、京王グループが一丸となって取り組んだ大規模プロジェクトでした。
京王グループの名を背負い、挑戦的なプロジェクトが動き出した
「高尾山口駅リニューアルプロジェクト」は、京王電鉄が発注者として動き出しました。駅の改修工事と合わせて、京王グループ初となる温泉施設の開業も決定。プロジェクトへの期待感はいや応なしに高まりました。特筆すべきは、駅舎の高い意匠性。
ダイナミックに張り出した印象的な木組み屋根の設計は、世界的に名をはせる建築家・隈研吾氏が手がけています。
落合 「率直に言って『すごいな』と。同時に『大変だろうな』とも思いました。隈研吾氏の設計は、木や竹のような自然物の利用が特徴的なんです。今回の駅舎もそうですが、自然素材でしかもデザイン性が高いとなれば、現場での大変さはすぐさま目に浮かびました」
岸良 「最初に渡されたのは、 A3の平面図 1枚。そこに、駅舎やロータリーが描かれていて、プロジェクトメンバーから『これ、やれるか?』と確認されました。チャレンジングな試みになることは即座にわかったものの、それを上回るワクワクが押さえられませんでした」
論理的に考え尽くされているとはいえ、設計図はあくまでも二次元の世界。実際の大きさで、実際の現場に、実物をつくり上げられるのか──?
「やってやろう」という意気込みやプロフェッショナルとしての自負はありつつ、プロだからこそわかる難しさも、ふたりは十分に承知していました。
京王グループを挙げた大規模プロジェクトとしての重責もある中で、決断する原動力となったのもまた、他ならぬ“挑戦という魅力”でした。
落合 「以前、京王線聖蹟桜ヶ丘駅のさくらゲートという商業施設の新築工事に携わったことがあったんです。ここもやはり斬新なデザインで工事は大変でしたが、やりがいのある思い出深い案件でした。難しいほど挑戦したくなる、つくり手の心に火をつける仕事ってあるんですよね」
設計者は、イメージを具体化するのが役割。そして、現場のつくり手は、具体化されたものを現物に仕上げる役割を担います。
世界的建築家の挑戦状に真っ向から向き合い、ワクワクする挑戦への一歩が踏み出されました。
全方向に想いを向け、着実な前進へ──技量とプライドと思いやりと
いわゆるビルや商業施設といった建物の新築工事とは異なり、「高尾山口駅リニューアルプロジェクト」は既存施設の改修をベースとしています。
加えて“駅“という公共施設だけに、施工管理の難易度はより一層高いものでした。
落合 「かなり大規模な工事だけに、建築だけでも現場を統括する所長を 2名配置。最盛期には建築と土木合わせて 100名以上の職人が集い、それぞれの工事を進行していきました。だけどこれは、昼間だけの話ですよ」
日中、高尾山口駅は変わらず営業していました。それゆえに、夜間にしかできない作業があったのです。
落合 「鉄道が運行している昼間は、線路の近接作業は行なえません。駅舎も同様に、お客様のいない夜間の集中作業が必要でした」
それぞれの使命と責任が交錯するのも、建設現場のリアルな姿。連携の中には、折衝や調整が求められる場面も生じます。
岸良 「たとえば、駅舎の床部分には、土木と建築のそれぞれが担うパートがありました。工期と進行度合い、お互いの状況を突き合わせながら、話し合って進行していきます。全体最適を見越して忌憚のないやり取りができるのも、京王建設、京王グループとしての一体感を持って取り組めているからだと思います」
一方で、建設現場はその中だけで完結しきれるものでもありません。特に、工事中は近隣にお住まいの方々への配慮が不可欠です。
岸良 「一番気を配るのは、やはり “音 ”です。リニューアルで産業や観光の活性化につながるというのは、あくまでも運営サイドの意見。自然豊かで閑静な高尾山の土地柄を好んで住まわれている住民の皆さんがいらっしゃるわけですから、生活環境への影響には細心の注意を払いました。
温泉施設の土木工事の過程ではアスファルトを剥ぐ工事を行なう部分がありました。その騒音に対して、 1時間半近くにわたりご指摘とお叱りを受けたことも。こちらとしてはそのお声を真摯に受け止め、誠意を持って対応するだけです。その姿勢を認めていただき、その後は非常に好意的な支援者になってくださいました」
公共性が高く、やりがいのある仕事です。
しかし、すべてがうまくいくとは限らないし、きれいごとだけで済まないこともあります。
苦労もやりがいも、すべてひっくるめて受け止め、そして前を向き進み続けるのが、現場を動かすプロの矜持なのかもしれません。
現場の仕事は、心で動かす。苦労が喜びに変わるその瞬間まで
各工事が進んでいく中で、隈健吾氏が現場の視察に訪れたことがありました。
落合 「『進捗確認のために足場を外してほしい』という度肝を抜かれる依頼があったのですが(笑)、工期遵守のため何とか折衝しました。実際に、大屋根をご覧になって一言、『うわ、すっげぇ!』って言っていただいたのが印象的で。設計者本人にすごいと言わしめるものをつくっているんだと思うと、感慨深かったですね」
リニューアルオープン当日も、駅前のロータリーは大勢のお客様とメディアで溢れかえるほどの大盛況でした。
岸良 「われわれの使命は工事の完遂まで。世にお披露目される段階では手離れしているんです。実は、オープンの様子は少し離れた神社の境内から眺めていました。土木本部の部下と、地元の皆さんと一緒に。大変なことも多かった分だけ、喜びが込み上げました」
土木工事では、真冬のロータリーで夜勤をしたり、公共施設ゆえに市や都、国までをも含む多数の関係者と折衝したり。図面通りにつくり上げた温泉施設は、急きょ想定外な角度からの目隠しが必要になることも。挙げていけばきりのない苦労の数々が報われる瞬間にこそ、仕事の醍醐味があるのです。
2019年現在、ふたりは「京王下北沢高架下開発プロジェクト」で再び同じ現場に携わることになりました。落合は商業施設を、岸良は鉄道の定時運行に必要な防風壁の建設をそれぞれ担います。
落合 「現場監督に必要な素質っていろいろあると思うのですが、一言で表すと、センスの差だと思うんです。人の動かし方のうまさやどんな状況でも適応して前進する力、現場でうまく立ちまわりながら状況をコントロールする力とも言えますね」
岸良 「ある程度の根性と、多少のことでは折れないハートの強さはあったほうがいいです。現場の規模が大きくなるほど大勢の関係者を巻き込む必要があり、一つひとつの言動に怯んでいる余裕はないから(笑)」
現場監督は“プロデューサー的役割”と、落合は言います。コミュニケーションや相手の意図を汲んで物事を進める能力こそ、まさしくものづくりの現場を統べて動かすのに欠かせないのです。
京王グループが一体となって取り組んだ「高尾山口駅リニューアルプロジェクト」。
その建設現場を支えたふたりの現場監督の言葉には、ものづくりのプロであり、京王グループの現場を動かす推進役としての誇り高き姿が輝いていました。
京王建設株式会社
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