“才能”をつくり変えることはしない。だからこそ、優れた発掘と戦略に磨きをかける | キャリコネニュース - Page 2
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“才能”をつくり変えることはしない。だからこそ、優れた発掘と戦略に磨きをかける

▲「ここ、本当はエンジニアの方が座る席なんですけど。。。」本社7階のマスタリングルームにて。

▲「ここ、本当はエンジニアの方が座る席なんですけど。。。」本社7階のマスタリングルームにて。

音楽シーンを彩る、才能あるアーティストたち。彼らの活躍には、“才能”を見いだす人たちの存在が欠かせません。ポニーキャニオンの音楽ディレクター・守谷 和真は、その発掘力と戦略構築力でさまざまなアーティストをヒットに導きました。積極性と人脈を生かして奔走する守谷の仕事ぶりをご紹介します。【talentbookで読む】

快挙の舞台裏を支える「ディレクター」という仕事

守谷 「僕が考えるディレクター。それは、アーティストがつくり出したものに “プラスアルファ ”を加えることです。

楽曲に対するアドバイスをすることもありますが、基本的に音源のイニシアチブはアーティストが握るものです。ゼロからイチをつくり出す作業はアーティストが行うとしたら、僕たちディレクターはでき上がったイチにどうプラスアルファしてあげられるか。それが仕事のメインだと思いますね。

だからこそ、優れたアーティストを見つけ出し、適切なプロモーションをしていくことが大切なんです」

守谷は、さまざまなアーティストの担当を経て、2019年の今は、山陰発のピアノPOPバンド・Official 髭男dism(以下、ヒゲダン)とシンガーソングライターのスカート(澤部渡)の2組を担当しています。

音源やその周辺物のクリエイトが、ディレクターの主な仕事。アーティストが音源をつくる際に必要なエンジニアやアレンジャー、ジャケットのデザイナー、ミュージックビデオの監督など、クリエイターを都度スタッフィングしています。

ディレクション業務にももちろん従事していますが、守谷が力を入れているのが、アーティストの発掘とリリース・プロモーション戦略の構築。とくに定評があるのが、その“発掘力”です。

担当しているヒゲダンもスカートも、ヒットにつながる可能性があると守谷自身が見つけ出し、ポニーキャニオンとの契約に結びつけたアーティスト。ヒゲダンとの出会いは、自身が聴いていたラジオでした。

守谷 「 2017年の春にラジオでヒゲダンの曲がかかっていたのを聴いて、才能豊かでかつポニーキャニオンとの相性が良さそうだと思ったんです。すぐに当社からリリースしてほしくて、所属マネジメント会社に電話をしました」

その後、ヒゲダンは2018年4月に放送された月9ドラマ「コンフィデンスマンJP」の主題歌『ノーダウト』でメジャーデビュー。さらに、2019年5月公開の同名映画でも引き続き主題歌を担当。

主題歌の『Pretender』は同年10月時点でBillboard JAPANストリーミング・ソングス・チャートで20週連続1位、歴代史上最短で1億再生を記録しました。これは所属レコード会社であるポニーキャニオンにとっても、類を見ない快挙でした。

スカートも、クリエーターに愛される音楽家として、テレビドラマや映画作品とのタイアップオファーが耐えないアーティストとして活躍しています。

一見、華やかにも思える守谷の活躍。しかし、その “発掘力”は、試練を乗り越えた先に培われたものでした。

苦しい中で身につけた、積極性と人脈。それが現在の礎に

もともと音楽や映画が好きだった守谷。自身が“楽しい”と思えることを仕事にしたいという想いのもと、2008年にポニーキャニオンに入社しました。

転機は入社2年目のとき。インディーズのディストリビューションを行う関連会社・PCI MUSICへの出向でした。

守谷 「ポニーキャニオンで働いていたころは、部署に配属されて席に座れば仕事がある状態でした。でも、PCI MUSICでは、仕事を与えられなかったんです。

とりあえず各 CDショップへの発送作業を半年間くらいやっていましたが、『このままではいけない、仕事は自分で取りに行くものなんだ』と気づきました。あのころは、プロモーターやマーケターとして活躍している同期もいたので、かなり焦りましたね。『俺だけ評価されていないのかな?』と……」

そこで守谷が考えたのが、毎日ライブハウスへ足を運ぶこと。良いアーティストを見つけ出し、CDの流通に生かそうと考えたのです。

ライブハウスのスタッフと仲良くなり、アーティストやマネージャーに声をかける日々。東京中のライブハウスはほとんど網羅したと守谷は振り返ります。楽曲を流通させたり、ライブイベントを開いたりと少しずつ自身の “仕事 ”を見いだしていったのです。

その後、出向から戻ってきた守谷は、プランナーとして働くことになります。プランナーはディレクターとは異なり、制作ではなくアーティストの宣伝をメインに行う職種でした。

しかし、いずれはディレクターとして音源の制作に携わりたいと考えていた守谷は、出向で培った積極性と人脈を生かし、自分で制作をしてしまおうと思いつきます。

守谷 「プランナーの仕事をしながら、1年に 1組ほど、アーティストを発掘してきて、制作をしていました。そしてようやく、ディレクターの肩書きをもらえたんです。

ディレクターになってからは PCI MUSIC勤務時代の知り合いからスカートを紹介してもらいましたし、出向で得た人脈は現在のディレクター業務に役立っていますね」

アーティストの“骨”はいじらない。その骨に、適切な筋肉をつけていく

▲「この席の方が落ち着く・・・」本音です。(ディレクターや関係者はエンジニアの後ろで作業を見守るのが普通です。)

▲「この席の方が落ち着く・・・」本音です。(ディレクターや関係者はエンジニアの後ろで作業を見守るのが普通です。)

これまでさまざまなアーティストの制作、発掘やプロモーションに携わる中で、守谷が大切にしてきたこと。それはアーティストの個性をつくるのではなく、“伸ばしていく”ことです。

守谷 「アーティストに骨があるとしたら、その骨をいじってまでヒットをつくりたいとは思いません。楽曲がすばらしければ、ヒットする可能性はどこかにある。だからこそ骨をいじるのではなく、肉づけしてあげることでヒットに向かうことが重要だと考えています」

そのためにも、日々のコミュニケーションを大切にしながら、アーティストとともに戦略を考えていくと語る守谷。ヒゲダンの場合は、とにかく楽曲を重視した戦略を取ることにしました。

守谷 「ヒゲダンは万人に受け入れられる可能性があると思ったので、音源にまつわる周辺クリエイティブは誰にも嫌われないようアクを強くせず、ヒゲダン本来の姿を質高く伝えようと意識しました。

楽曲を聴いてもらえれば勝てると感じたので、変に壁をつくらず、とにかく彼らの作品を聴いてもらうことに集中したプロモーション戦略を取りましたね」

ヒゲダンがつくり出すすばらしい楽曲を聴いてもらいたい──。そこに特化したプロモーションは、見事成功しました。

守谷 「プロモーションも、曲を鳴らす以外の余計なことはしませんでした。看板を打っても、音は聴こえない。じゃあ音を聴いてもらうために何をしよう?と、ビジュアルや MVなど質の高いクリエイティブを発信し、楽曲を聴いてもらうハードルを下げることをひたすら考えています。

聴いてくれれば、必ず良い反応が期待できる。良い反応があれば伝えてくれる、歌ってくれると波及効果が生まれます。その大元の音を聴かせることが、ヒゲダンにもっとも適した戦略だったと感じています」

ヒゲダンは楽曲を重視した戦略が功を奏しましたが、もちろんどのアーティストも同じ戦略でヒットするわけではありません。とはいえディレクターとしてアーティストのプロモーションをしていく以上、やはりヒットは出したいもの。シンプルながら1番“ヒットの法則”と言えるのは、良いアーティストを発掘することだと語ります。

守谷 「逆にどれだけ宣伝を頑張ったとしても、楽曲が良くなければヒットを生むのは難しいし、売れないんじゃないかと思います。ヒットを生むには、とにかく良いアーティストを見つけて、正しく伝える戦略を考えること。

そのためには、楽曲を理解する感性に加え、新たな才能を見つけ出すために動けるアグレッシブさが、求められますね。その部分のキャッチアップは、常に心がけています」

良い才能を見つけ出し、その才能を開花させるための適切なプラスアルファを加えていく──。

そのためには、誰よりも深く広く音楽マーケットを知り、楽曲の真意を把握しなければ成り立ちません。アーティストの相談を受けて的確にアドバイスするためにも、引き出しを多く持つ必要があるのです。

せっかくならば、“楽しんで”売れよう

▲「僕たちは「裏方」なので、このシチュエーションは恥ずかしいです。この【アー写(アーティスト写真)?】皆にいじられますよ」と笑う。

▲「僕たちは「裏方」なので、このシチュエーションは恥ずかしいです。この【アー写(アーティスト写真)?】皆にいじられますよ」と笑う。

「エンターテインメント業界」そう聞くと、華やかなイメージを抱く人も少なくないでしょう。しかしそのイメージとは裏腹に、ディレクターには、“地道さ”が求められるのです。

こうした日々の仕事に向き合う中で、守谷には大切にしていることがあります。それは、とにかく“楽しむこと”。

守谷 「メジャーレコード会社でリリースするアーティストは、ヒットを出したいと思っている人が多いと思います。でも、ヒットしたとしてもリリースまでのプロセスが楽しくなかったら、結果的にハッピーじゃなくなる可能性がありますよね。

音楽業界は人を楽しませる仕事です。まずは、僕たちもアーティストにも楽しんでもらいたいと思ってやっています。心底楽しんで、その結果ヒットして、世の中の人が楽しんでくれたら良いよね、という感覚です」

アーティストを自力で発掘し、戦略を構築してヒットにつなげている守谷。今後も常に若い感覚を持ち、コンテンツづくりに携わり続けたいと考えています。

守谷 「今でもライブハウスに行ったり YouTubeを見たりラジオを聞いたりして、アーティストの発掘を心がけています。そんな形でヒットにつながったので、現場でアクションしていくことがヒットにつながる可能性もあると若い人たちに示せたと思うんです。

若い人たちに、売れる(=ヒット、楽曲やアーティストが広く認知されていく)サイクルを示すためにも、自分が積極的に動いていきたいですね」

ヒットする可能性のある才能豊かなアーティストを見つけ出し、ともに戦略を考える。これからも守谷は、発掘力と戦略構築力でアーティストを支え続けます。

ポニーキャニオン

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