サステナブル素材を世界へ──若手が海外出張で背負った「日本代表」という使命感 | キャリコネニュース - Page 2
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サステナブル素材を世界へ──若手が海外出張で背負った「日本代表」という使命感

▲海外の展示会に出展し、英語を駆使しながらテキスタイルの提案を行う

▲海外の展示会に出展し、英語を駆使しながらテキスタイルの提案を行う

入社1年目の社員が、ひとりでデンマーク出張に行く会社があるなんて、信じられるでしょうか。豊島株式会社では、主体的に行動できる若手に対し、規格外にチャレンジングな経験を積ませる“自由闊達な風土”があります。多田 賢史が上司を説得してつかんだ、グローバルビジネスへの挑戦についてご紹介いたします。【talentbookで読む】

たったひとりのデンマーク出張──プレッシャーの先にあった“使命感”とは

「デンマークで開催されるサステナブル展示会に行かせてください」

こんな申し出を上司にしたのは、豊島の新入社員であった。

豊島は世界中から繊維商材を調達し、あらゆる国へ販売する流通網を持つ商社である。中でも多田が所属するテキスタイルの輸出入を行う課は、豊島有数のグローバルな組織。

多田 「海外と多く関われる部署に配属され、ワクワクしました。ただ入社してすぐは、経理や通関業務などのデスクワークが中心で、いわゆる単純作業の連続。正直、もどかしい気持ちが続いていました」

そんなとき、たまたま企画会社から「サステナブル展示会の案内メール」が届く。「これはチャンス!」と感じた多田は、水面下で企画会社とやりとりし、出展費用やスケジュール、出展メリットなどをまとめた上で上司にプレゼンした。すると上司からはまさかの「行ってきていいよ」という反応が。

多田 「まさか行けると思ってなかったので、冷静になったらとても焦りましたね。初出張がデンマーク、さらにひとりですから。会社の PR文書の作成、生地の選定や展示方法など、準備することが山ほどあり大変でした。ただ、嬉しかったのは『営業経験もない自分が進言したことを、上司がふたつ返事で OKしてくれた』こと。やらせてもらう以上は結果につなげると意気込んで、短期間で生地の情報をたたき込み、本番に臨みました」

英語は少しなら話せたが、生地の提案自体が初めてであった多田にとって、展示会は大きな試練であった。しかし、ある使命感がそのプレッシャーを跳ね除けてみせた。

多田 「当時は会社として、サステナブル商材を海外へ打ち出す機会が少なかったんです。豊島は 30年も前から、『テンセル』という土に還るエコな素材を扱う、業界でも有数のサステナブル推進企業。世界的に注目が集まる機運を感じていたので、『必ず受注につなげる』という自信と使命感を持ち、臨みました」

結果、3日間で実に150名がブース訪問し、HERMES、COACH、STELLA McCARTNEYなど海外有名ブランドのバイヤーから、多田が提案するテンセルへの問い合わせがあったと言う。

一皮むけて帰国した多田に上司は「大事なのはこれから。数字につながるよう気を引き締めていけよ」とねぎらいの言葉を掛けた。

就職活動の軸は「金・服・海外」留学先で出会ったワクワク感が120%で働く原動力に

▲アメリカ留学中、ホームステイ先のファミリーからは温かく迎え入れられた

▲アメリカ留学中、ホームステイ先のファミリーからは温かく迎え入れられた

多田 「社員のエネルギーとハングリー精神、スマートさすべてに魅力を感じ、豊島への入社を決意しました」

2017年入社の多田は就職活動を振り返り、こう話す。

高齢化や人口減少により、将来的に日本の経済規模が縮小することを危惧していた学生時代の多田は、バイト代すべてを海外留学の費用に充て、世界を見ることにした。日本だけに収まりたくない、という強い想いを抱いていたと言う。

中でも、ロサンゼルス留学中に訪れた「感度の高いショップ」での服選びで感じたワクワク感が、多田を動かした。

多田 「昔から服が好きで、お気に入りのを着たときに高揚感を覚えたり、良い服をビシっと着こなせると自信につながったりしました。服のそんな自己表現ツールとしての側面を魅力に感じていたんです。海外生活をしながら、真剣に将来のことを考えていたときに、流行の発信地アメリカで出会ったこの “ワクワク感 ”こそが、自分の 120%の力を注げる業界だと思いました」

日本に戻り、就職活動の軸を洗い出した際には「金・服・海外」の3つの軸が真っ先に浮上した。その軸をもとに、「繊維商社」一本に絞った多田は、さまざまな商社パーソンと面会を続けていった。多田 「最終的には総合商社を含め、 3社に絞りました。中でも豊島を選んだ最大の決め手は、ある先輩社員が話していた『◯◯(某総合商社)には絶対負けへん!』というひと言です。軸はどの会社も満たしていましたが、最終的には『ひと』で選びたいと思っていて。負けん気・競争心が強く、エネルギッシュな人たちの中で急成長したかったので、豊島社員のその言葉にはとりわけ強く引かれました」

自他ともに認める「負けず嫌い」だと言う多田には、ある苦い思い出がある。

高校まで全力で向き合っていた野球部での地区予選準決勝における延長10回、「自らのけん制球暴投」でランナーを走らせてしまい、相手に決勝点を与えそのまま敗退してしまった。当時は夢にまで敗退シーンがフラッシュバックしていたと言う。以降、「勝負ごとでは誰にも負けたくない」という強い信念を持つようになった。

多田 「商社という業界は常に勝負の世界です。そこで誰にも負けない人材になり、悔しさを成功体験に塗り替えてやろうと決意しました」

逆風を吹き飛ばした「日本サステナブル企業代表」としての大舞台

▲左:サプライヤー企業代表のパネルディスカッション/右:展示会での多田と上司

▲左:サプライヤー企業代表のパネルディスカッション/右:展示会での多田と上司

デンマーク出張で手応えをつかんだ多田は半年後、上司と一緒にイギリスで開催されるサステナブル展示会に出展することになった。

多田 「海外バイヤーの好意的な反応を見て、『豊島をもっと有効的にアピールできる』という気持ちが強くなりました。繊維産業が CO2排出や水質汚染に影響があるという事実は、業界を越えて消費者の耳にも届いています。そんなときこそ環境に優しくエコな素材を広め、消費者が商品を選ぶ際の考え方自体を変えられると信じ、イギリスにも行かせてもらうことにしました」

しかしこのイギリスで、再び試練が訪れる。展示会中、「各国を代表するサプライヤー企業同士が対談する場」に登壇できる席が、豊島に与えられていたのである。案の定上司からは「がんばってこい」とだけ言われた。

商社というビジネスモデルは日本にしか存在しない。それは海外からすると「信頼」や「知名度」がないことを意味する。商社パーソンは誰しもが「海外での逆風」と立ち向かわなくてはならない。そんな環境下だからこそ、相当大きなプレッシャーが襲った。

多田 「世界では誰も豊島のことを知らないというハンデは常に感じてきました。そんなときこそ『日本代表』という意識を持って戦うことにしています。名も知れない日本の企業が、実は世界の環境問題に大きく貢献できる商材を扱っていて、それが海外のマーケットにとって魅力的であると伝われば、大きなチャンスが広がるからです」

展示会ブースでの接客とディスカッションのシミュレーションに追われ、出張中の業務はかなりハードであった。それでも、「日本代表サステナブル企業」という看板を背負った多田は、なんとか大舞台を乗り切って見せた。

多田 「途中、緊張しすぎて 2分くらいフリーズした気がします(笑)。それでも、豊島のエコな取り組みである FOOD TEXTILE(廃棄予定の食材で染めたエコブランド)や Orgabits(オーガニックコットン普及プロジェクト)のことを英語でプレゼンできました。

とくに FOOD TEXTILEの『福島県で咲いた桜の花びらから染めた Tシャツを、地元のサッカーチームやサポーターに提供し、震災復興を支援する』というプロジェクトは反響が大きく、海外での手応えを感じることができました」

国内産地の底力を海外へ──つくり手の想いを受け継いだこれからの挑戦

▲国内繊維産業の力を世界に届け、将来的に海外駐在所を立ち上げるというビジョンを持つ多田

▲国内繊維産業の力を世界に届け、将来的に海外駐在所を立ち上げるというビジョンを持つ多田

多田は自分のことを、「自他ともに認めるポンコツ」だと自称する。

多田 「普段は生地問屋をルート営業で回っていますが、もれなく『多田君はほんまにポンコツやな』と言われます。初対面でも言われるって、まずないですよね(笑)。でも自分はとても好意的に受け止めていて。商社の商売はいかに相手の懐に入り込めるかによって、振っていただける仕事の量と幅が決まってくるからです。

経験不足から的外れな提案をしてしまうこともありますが、至らなさから醸す可愛げが自分にはあると思っています。もちろん、本当にただのポンコツだったら仕事のリピートはこないので、情報や調達力を武器に、存在価値を感じてもらっています」

多田は取引先や社内における関係性づくりを大切にしている。とくに、アシスタントをしてくれるエリア職についてこのような想いがある。

多田 「海外ビジネスのフォローを通じて日々支えられており、すごく頼りになります。お客様に見積もりを出したり、海外からの問い合わせに率先して対応したり、事務職という職種を超えて仕事の幅を広げる姿勢は、見習うことが多いです。ぶつかることもありますが、『この客先との取り組みをこれぐらい大きく展開したいから、一緒に頑張ってほしい』と率直に気持ちを伝えると、大変な仕事のフォローでも前向きに頑張っていただいています」

飾らない人柄と、周囲への感謝の気持ちを忘れない多田。最後に自分が携わる繊維・ファッション産業全体の展望をこう語る。

多田 「国内業界の縮小を実感しています。でも、繊維は最終的に感性が技術と混ざり、生まれるものですから、小さくなっても『消えない』産業です。これからも海外市場に目を向けることは、国内産地の底力を海外へ示すことだと思っていますので、日本の繊維産業の伝統や想いを背負った “日本代表 ”として、新市場を開拓していければと思います。あと、その過程で『課のナンバー 1』にもなりたいです」

あくまで学生のころからの競争心を貫き、世界のマーケットを相手に付加価値を提供していく多田。市場での売り方は変化し続けるが、つくり手の想いは変わらない。これからも繊維業界における多田の挑戦は続く。

豊島株式会社

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