Japanのバッチを胸に──経産省職員が挑んだG20環境政策をめぐる攻防 | キャリコネニュース - Page 2
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Japanのバッチを胸に──経産省職員が挑んだG20環境政策をめぐる攻防

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日本の経済と産業の発展を後押しする経済産業省では、多くの若手職員が国の重要な政策決定の裏側で日々奮闘しています。2017年に入省した杉原 裕子は、入省3年目にあたる2019年のG20を間近で体感し、困難な会合の成功に貢献しました。今回は彼女がそこで得た学びを振り返ります。【talentbookで読む】

この国の一員として、直面する危機に立ち向かっていきたい

悲劇の92年組──。この言葉が持つ日本経済の軌跡をどれだけの方が実体験として語れるでしょうか。

バブル崩壊直後の1992年、私は愛知県で生まれました。理解していたわけではないものの、当時の日本経済は長期停滞の初めで、デフレが当たり前の世界が幼いころの強烈な記憶として残っています。

さらに阪神淡路大震災と、東日本大震災の2度の大震災を経験しました。

そのほかにも大規模な自然災害や各地で毎年のように起こる水害、少子高齢化といった山積する社会問題とともに育ち、バブル崩壊以前の「良き時代の日本」を知ることのない初めての世代なのです。

2016年に公開された映画「シン・ゴジラ」には東京にゴジラが襲来し、首都機能が完全に麻痺する姿が描かれており、経産省への入省がかかった官庁訪問中に観た思い出深い映画です。

しかしこの「ゴジラ」は、自然災害や経済・金融危機、人口減少社会など、この国が潜在的に抱えている課題そのものの象徴ではないかと考えています。

これからもさまざまな危機に日本が直面したとき、この国の一員として“ヤシオリ作戦”を遂行する人でありたい。単にそういった危機に悲観するのではなく、かつての成長をまったく知らないからこそ、自分たちの手でこの先の「豊かさ」や「幸せ」を見つけたい。新しい「この国のかたち」をデザインできるはず。

そんな想いを抱いたことが、私が経済産業省を志したきっかけでした。

なかでも、やはり高校卒業の10日後、大学の不合格通知を手にした翌日に発生した東日本大震災は、自分にとって「どうありたいか」「どう生きたいか」を問うあまりに大きな災害であり、自分たちの世代がエネルギー政策の転換を担う宿命にあるのだと感じる出来事でした。

結局その想いを失わなかったことが、経産省でエネルギー政策に携わりたいと希望する原動力となりました。

世界の重要な意思決定を裏側で支える、一つひとつの些細な業務の積み重ね

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2017年の入省後、希望通りエネルギー政策を担う資源エネルギー庁の配属となり、2年目からはエネルギー政策と表裏一体の関係にある気候変動政策に関わっています。

この3年間を振り返ったときに最も印象深い仕事は、経産省環境のG20サブチームのメンバーとして、日本が初めて議長国を務めた2019年のG20軽井沢エネルギー・環境大臣閣僚会合に携わったことです。

G20でエネルギー大臣会合と環境大臣会合を合同開催したのは初の試みであり、それは「気候変動政策は、経済成長を阻害するものではなく両立しうるもの」であり、「双方が志向されることで、好循環を生み出していきたい」という日本の強い意志を表しています。

だからこそ「環境と成長の好循環」という大きなテーマが掲げられましたが、気候変動政策というのは各国が総論で賛成を示しても各論では利害が対立する難しい分野。G20が一体となって合意すべく、議長国として難しい舵取りを迫られます。

チーム最年少の私が担うのは、各国への意見の聴取や二国間交渉、閣僚会合への成功に向けた交渉の道行きを何パターンもシュミレーションした戦略づくり、合意文書の文言調整から、大臣や省内幹部と各国の要人との会談の対処方針など、多岐にわたりました。

報道でも大きく取り上げられるのは本番の閣僚会合のみですが、実はその成功に導くために、各国の政府職員が集まる事務会合が開催されています。

G20交渉というと一見華やかに聞こえるかもしれませんが、本番の成功を大きく左右するのは、地味に見える日々の交渉の検討であり、3回開かれたこの事務会合なのです。

私たちが議長国として実現したい合意事項に対して、各国から意見を聴取し、それらをもとにブラッシュアップを繰り返していく。

着地点が存在しないように見える各国の意見に対して、折り合える点はどこか、議長国として死守しなければいけないラインはどこか、どの局面でどのカードを切るか。

万全の準備をして臨んだのですが、閣僚間でサインする合意文書は、最後の最後まで合意点を見いだせない箇所があり、厳しい調整が続きました。

その絶体絶命の状況の中、大どんでん返しで100点満点の成果を挙げられたのは、各国の「合意したい」という強い意志であり、われわれ事務方の決して最後まで諦めない努力の成果だと自負しています。

交渉の「核」で仕事をした半年間。各国で自国第一主義が蔓延する中で、それでも世界は合意できるということを議長国の交渉チームのひとりとして示した経験は、自分の職業人生にとって大きな財産だと感じています。

入省3年目の若手であろうが胸につけた「Japan」のバッジの重みを感じられるのは「経産省だからこそ」と感じた瞬間でした。

気候変動問題の解決は、未来の経済を形づくる最前線

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G20終了後も、気候変動の国際戦線に立ち続けています。グレタ・トゥーンベリ氏による「未来のための金曜日」のストライキ運動のように、若者を中心に強く吹く「緑の風」は無視できなくなりました。

気候変動問題への取り組みに「ヨーロッパの価値」を見いだしたい欧州、現政権下においてはパリ協定の脱退を決めている米国、経済成長と貧困からの脱却が優先される新興国。さらには、気候変動問題を考える際に表裏一体であるエネルギー問題。

さまざまな状況がある中、「気候変動」という世界共通の問題に対して、変数の多い複雑な方程式を解いていく仕事には難しいながらも大きなやりがいを感じています。

こんな大きなスケールの課題にも果敢に取り組めているのは、上司が異動するときに投げかけてくれた「自分たちの仕事が世界を救うのだ」という言葉があるからです。

自分たちの仕事の一つひとつが、国益・国際益の一部をなしており、その積み重ねが世界をつくっていくのだという自負を持っています。重責を担うからこそ、努力と責任を担う義務がある。それゆえ、若くても仕事を任せてもらえるのだと感じています。

変化の「芽」をつかんで、国の未来のあり方を考えられる

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正しい答えが用意されていない問いや課題に対して、あらゆる検討を重ねて世界の変化の「芽」を捉え、それをひとつずつ政策という形にしていくこと。

経済産業省の仕事は、世界を1ミリでも前に進めるために働くということが絶対的な価値を持っています。

守るべき産業があり、そこに介在する働く人がいるからこそ、地球儀を俯瞰したときに「この国がどうあるべきか」という視点を常に持って働ける、経済産業省はそんな場所ではないかと考えています。

私がやっていきたいのは、変化の「芽」をつかみ、世の中の全体像を見渡しながら政策・戦略を担っていくこと。

これからも国を左右する大きな案件に飛び込んでいきながらも、自分が心惹かれることや信じられることに携わり、経産省でのキャリアを楽しんでつくっていきたいと考えています。

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