アスリートのセカンドキャリアへの疑問、社会課題解決に向け奔走する元世界女王の想い
株式会社ゼネラルパートナーズ(以下、GP)で働く酒井裕唯はGPで唯一のアスリート向け紹介事業部キャリアアドバイザー(以下アスリートCA)です。今回は、ショートトラックスピードスケート日本代表として世界の頂点に立った経験を持つ元世界女王の彼女が、GPに入社した理由をひも解きます。【talentbookで読む】
選手としてのキャリアに隠された苦労
私はGPに入社する前、ショートトラックスピードスケートの選手として活動していました。
ショートトラックスピードスケートは、タイムを競うスピードスケートと異なり、着順を競うスポーツです。フィギュアスケートと同じサイズの室内リンクで行われ、「氷上の競輪」とも呼ばれるこの競技を、小学4年生から始めました。日々の鍛錬の結果、バンクーバー五輪とソチ五輪に出場することができたんです。
初めて参加したバンクーバー五輪は、大学4年生のとき。鬼のような300日合宿に参加し、選抜されて出場した五輪でした。当時は五輪に出場できただけで満足してしまったくらいでしたね。
そして大学を卒業し、ありがたいことにスケートだけに集中できる環境へ身を置くことができるようになりました。
今まで学業に費やしていた時間を練習にあてることができたので、厳しい練習で知られるトレーナーの門をたたき、トレーニング量を増やしましたね。そのようなあらゆる好機が重なり、W杯で日本人初の総合優勝を勝ち取ることができました。
二度の五輪出場や日本人初のW杯優勝と、選手としては順風満帆なキャリアを送ることができました。一方で、現役生活8年間の中で3回も所属を移動したので、安心して競技に集中できる環境があったとは言い難い状態だったんです。
ソチ五輪のときは、所属する会社でアスリートの支援が難しくなり、継続雇用はできないと言われてしまったこともありました。
次の所属先を探そうと考えても、情報が全然ありませんでしたし、自分で探していてもどの情報を信じていいのか、誰を頼っていいのかもわからず。本当に苦労しながら、不安な日々を過ごしていました。
自分の手で社会問題を解決したい──選手を想う気持ち
2018年に現役を引退することにしたんです。セカンドキャリアを考える中で、アスリートに関する仕事に関わりたいと思っており、紹介された企業のひとつにGPが入っていて。これがGPとの出会いでした。
入社の決め手としては、クレド(企業理念)が一番大きかったですね。「ビジネスで社会問題を解決する」というところにすごく共感しました。
私自身就職で苦労したこともあり、その経験を生かして雇用という側面からアスリートのプレー環境を整えていきたいと強く思ったんです。
現役時代、海外の多くの選手たちはセカンドキャリアについてすごく考えていました。とくに北米の選手は、現役のときから医者や弁護士の学位を取得している人も。たとえ怪我でプレーできなくなってしまっても次のキャリアがある、というようにみなさん別の選択肢を持っていましたね。
セカンドキャリアやデュアルキャリアという考え方が浸透している国は増えている印象ですが、日本では引退後に考えれば良いという風潮がまだまだ強いです。私も引退してから社会に放り出され、現実は甘くないということを30歳になって痛感しました。
国がやっているセカンドキャリアの支援も、まだ追いついていないと感じます。優遇されているトップレベルの選手でさえそんな状況ですので、下のカテゴリーの選手たちはより就職に苦労することが多いんです。
そしてもうひとつ、入社を決めた理由として、スポーツ連盟が行うアスリートのサポート体制に疑問を持っていたことがあります。連盟を変えるために何ができるか考えていました。GPで働くことで外側からでも何かアクションを起こしていけるのではないかと思ったんです。
私が現役時代のころから「選手ファーストだといいつつも、選手の声が上まで届かない」ことに疑問を感じていました。「多くの声援を背負っている選手たちは4年間に命を懸けているのに、選手ではない誰かのために大会や組織が運営されていることはフェアではない」と物申したい気持ちはあったんです。
障がいのあるアスリートの支援、という形でアスリートと関わることになるとは、現役時代にも引退を決めたときにも考えていませんでしたが、「社会に対しての違和感を自分の手で解決していけるようになりたい」という情熱を持ってGPに入社しました。
入社して2年がたった今、見えてきた課題とは
障がい者アスリートCAとして働き、まもなく2年がたちます。今まで130名ほどのカウンセリングを経験して、20名以上の方を就職決定につなげました。とはいえ人数としてはまだまだ少ないです。
課題として、アスリート採用事業の認知が低く、相談に来てくれる方が少なかったことが挙げられました。また、自分の実力不足で、企業との連携やアピールなどがうまくできなかったんじゃないか、とも思います。どのように改善していくべきか、毎日考え続けています。
また働いてみて、企業が求めているニーズと候補者が企業に求めているニーズに大きなギャップがあると感じました。「アスリート雇用は仕事だ」ということを理解していない選手が多いので、その市場感のズレを合わせていく必要があると考えています。
他方で企業側は、制度や設備のようにハード面で変えられない部分が多いです。ただ候補者の考えは、情報をしっかりと正確に伝えることで変えていけると思っています。
私自身アスリート時代、レベルが上がるまでは競技に専念できるような環境ではなかったです。給与もそんなに高くありませんでした。
今の自分のレベルでどう企業に貢献できるのか、理想と現実のギャップや競技と仕事のバランスを伝えていきたいですね。
今は東京パラリンピックを控えた「パラアスリートバブル」と呼ばれる時期。アスリート雇用に積極的な企業が増えてきているんです。
ただ、パラリンピックが終わった途端にこの状態がなくなる可能性もあります。そのときにどう働くかをトップ選手であっても考えていかねばなりません。それを支えていくのが私の役割だと思います。
パラリンピック終了後、就職が難しい時期が来たときにどう競技を続けていけるか、生活のためにどのくらい競技を減らしてどう働くのか。
人それぞれ考え方は違います。しかし、「それでも競技をどうしても続けたい」という方の考えを無理やり変えることはできないので、働き方のパターンの選択肢を広げ提示してあげることが私にできることだと考えています。論理的なデータを蓄積しつつ、選択肢をひとつでも多く増やしていけるよう、努力し続けたいです。
元アスリートの強みを生かして──酒井が見据えるこれからの環境
カウンセリングに来られる選手って、私と同じアスリートで、キャリアに悩まれている方達なんですよね。
お話を聞いていると、「私がたどってきた道の、だいたいこの辺だな」と思うこともしばしば。なので共感はもちろんのこと自分の経験を話すこともできます。
当然ですがそれだけではありません。キャリアアドバイザーとして、市場感であったり、データであったりという裏付けの情報提供もしています。
メンタルや競技に関しては、監督やライバルなど相談できる場所がありましたが、キャリアに関して相談できる場所が私の周りにはまったくなかったので。元アスリートの先輩として、相談できる人が近くにいるということで、選手たちの心の支えになれれば嬉しいなと思っています。
アスリートとしての人生よりも今後の人生の方が長いですし、自分が現役時代困っていたからこそ、現役の選手たちには同じ経験をしてほしくないんです。
また、障がい者アスリートCAの業務は、候補者が企業に入社したら終わりではありません。その後のつながりも大切にしています。「今は充実しているから大丈夫」という報告ももちろん嬉しいですが、何かあったときに思い出して、私に連絡してくれるのもすごく嬉しいです。
以前、入社した選手が相談に来たときに、業務の相談ではなくて、アスリートとしての相談を受けたことがあって。
活動費の交渉術やメンタルの部分など、元アスリートとしての知識をいろいろ話しました。「やっぱり酒井さんに相談してよかった!」と言ってもらえたときはすごく嬉しかったし、「これは私にしかできないよね」と、思わず自慢気になりました(笑)。
これからも業務を通してGPは障がい者雇用という部分でトップを走っている会社なので、それをもっとパラアスリートの方にも知ってもらいたいし、それ以外のスポーツに関わっている人にも知ってもらいたいです。
そして、ここにオリンピアンがいるんだということを知ってもらいたいですね。
私が今ここにいるのは、「不安なく競技に集中できる場を提供したい」という想いがあるからです。
「引退した後も自分は生きていけるんだよ、安心して働けるんだよ」という、将来を見据えた情報が周りにある環境。
そうした競技に集中できる環境を、アスリートという私の強み生かし、GPからつくっていきたいです。
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