「会社のためではなく“自分の人生を良くするために働く”」旅館さかえやの理念経営 | キャリコネニュース
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「会社のためではなく“自分の人生を良くするために働く”」旅館さかえやの理念経営

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日ごろから「社員の成長なくして、企業の成長はない」と考え、社員が人として成長し、旅館業が輝ける職場であるということを証明するために、「建設的な生き方」という教育法を活用した人材育成に力を入れている春蘭の宿さかえや様。宿泊業界で人手不足が深刻な中、若者を中心とした社員が定着し、活躍しています。

「人材育成」「業界の地位向上」新たに「インバウンドへの取り組み」「労働生産性の向上」をテーマに、旅館の日本一を競う旅館甲子園において2015年、2017年、2年連続のグランプリを獲得。2017年ダイバーシティ経営企業100選に選定。2020年4月ホワイト企業認定を取得されました。

社員全員で経営を考える意識醸成や様々な人材育成施策、不登校の子供の受け入れと社会復帰への支援等の取り組みについて、湯本晴彦社長にお話を伺いました。

「女将が主導する旅館」から「社員が主役の旅館」へ! 社員の輝く姿とチームワークを重要視する経営を目指す

ーー自社の特徴的な取り組み・制度の概要を教えてください

D.K.レイノルズ博士が創案した「建設的な生き方」という教育法を取り入れています。「人間は一人では生きていけない、他人から助けてもらうことが常にある」ということを社員に認識してもらいながら、周囲と協調して仕事をしていくことの大切さと仕事のやりがいを見つけてもらっています。

取り組みの一環として、毎月1回、ボランティアで地域の学校や駅のトイレ清掃をしたり、日々の自分の行動を心静かに振り返りながら、毎日お客様やご縁ある方々に1枚以上のはがきを書いたり、日々コツコツと学びの時間を設けています。また、社内でのコミュニケーション方法や指導方法についても専門講師を招いた研修を実施し、一人一人の現場での実践・努力を評価に取り入れるなどしています。2013年頃から不登校経験者や養護学校を卒業した生徒の採用活動を実施しています。

「会社のために働くのではなく、自分の人生を良くするために働く」という理念に基づき、実践で人としての生き方の鍛錬を積む社員教育を通じて、社員の輝く姿とチームワークを重要視する経営を目指しています。

▲研修風景

▲研修風景

ーー「実践で人としての生き方の鍛錬を積む社員教育」を始めた経緯や成果があがるまでに苦労したエピソードはありますか?

私が入社した当時は「女将が主導する旅館」経営をしていましたが、女将・仲居・板前と役割によって業務が分断され、連携も取れないことがしばしありました。また新しい取り組みにも消極的な状態でした。そこで、生産性の向上と新しい客層への開拓に向け、人材獲得と社員のやりがいを向上させる「社員が主役の旅館」構築を目指すことにしました。

清掃や毎日のはがき制作などは、まず社長である私が1人で実践しました。「社員へ指示だけ出すのではなく、まずは自分が実践をする。頭の中で一生懸命経営しているつもりでも、社員の顔一つ、館内の飾り付け一つ見ないのでは、それは経営ではない」そんな思いから、1年間館内の清掃活動に取り組みました。社内が綺麗になり変化してくると、一緒に行う社員が一人、また一人と増え、館内の季節の飾りつけを自主的に行う社員も出てきました。強制したわけではないですが、組織が活性化していきました。

そこで、社員一人一人に配慮したうえで業務を任せ、主体性を引き出すようにしました。リーダーもローテーションにし、上下の関係性ではなく「役割があることで全うする」ことを浸透させました。その結果自発的に顧客ニーズを収集し、アイデアを積極的に出し、サービスに活かすようになりました。

曖昧な作業指示ではなく、誰でも担当できる作業標準化を推進し、有給取得が促進

ーー不登校経験者や養護学校を卒業した生徒の採用活動について詳しく教えてください。

人材確保の面で、かねてより地元の高校や大学から職業体験やインターンシップを受け入れ、新卒・既卒問わず採用をしてきましたが、なかなか就職・定着しませんでした。そんな中、あるご縁で引きこもりだった生徒を受け入れた際に、期待以上に活躍をしてくれた事をきっかけに、2013年頃から不登校経験者や養護学校を卒業した生徒を受け入れ、1日、3カ月、1年と、個々に合わせたプログラムを作成し、仕事を任せました。

ーー多様な人材の活躍の場を提供するために、現場環境で気を付けた点はありますか?

業務内容の「見える化」を徹底しました。例えば、清掃を依頼したとして同じ「きれい」でも人によってとらえ方が大きく異なります。不明確な言葉によるコミュニケーションを減らし、それぞれの作業現場に図解した指示書を掲示し、業務内容を具体化させて新人でもわかるような形にしました。また、人は苦手なことで同じ問題を繰り返します。そのため、苦手なことを避けるのではなく、苦手なことに向かい合う大事さを教え、課題を設定して取り組んでもらうことで、人材が成長しやすい土台を構築しました。

ーー取り組みを展開したことで社内・社外から感じられた効果はありますか?

業務内容の「見える化」は、障がいの有無にかかわらず、誰もが同じ水準を目指して仕事ができるようになり、全社員が別部署も担当できる体制が整いました。その結果、繁忙期でも休暇を取得できるようになり、有給も取得しやすくなりました。2015年からはオフシーズンに5連休を取得できる制度を導入しています。

また、様々な研修を通じて、社員のメンタル不調も減少し、人間関係・チームワークが良くなり、仕事の質や生産性、社員の定着率も向上しました。

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ーーホワイト企業の認定取得を目指したきっかけや目的を教えてください

ホワイト企業認定取得前に、社員の時短勤務や組織づくりを意識し、取り組みました。またダイバーシティ経営企業100選に選ばれたりしたことで、旅館業として最先端を行く組織になろうと思い、有給休暇の取得や労働時間の削減などコツコツと努力してきて、そのタイミングでホワイト企業認定の存在を知り、我々の取り組みと似ていたので、応募しました。

ーーホワイト企業認定取得後に、社内外から得られた効果はありましたか?

同業他社から興味を持ってもらえたり、どうやって取り組んでいるのかという問い合わせをいただいたりしました。また学生の採用に動画で紹介するなど、イメージアップにつながりました。

ーーコロナ禍で新設した制度や取り組み、今後の課題があれば教えてください

罹患の疑いや学校の休校による子供の看護の必要性などが出てきた場合は、有給の特別休暇が取れる処置を新たに設置しました。今後の課題としては、経営的な負荷がかかるので、それにいかに対応しながら感染防止に努めつつ利益を確保していくかという点です。

ーー最後にホワイト化を目指す企業様へ一言お願いします

ホワイト企業は、一通過点です。認定がゴールではなく、真にスタッフが働きやすく、やりがいの持てる職場にすることを目指していただき、やさしい企業づくりにお互い励んでいきましょう。

<ホワイト財団のインタビューページ>

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