希望の職種に異動したければ、上司に「絶対異動させないで」と言えるようになろう
松岡修造さんの曽祖父にあたる阪急・東宝グループの創業者、小林一三は「下足番を命じられたら、日本一の下足番になってみろ。そうしたら、誰も君を下足番にしておかぬ」という名言を残しました。
重責のある仕事につけなかったからといって、腐ってしまうのではなく、与えられた仕事で全力を尽くすことで、結局誰かに見出されて出世していくということです。
真偽のほどはわかりませんが、秀吉が信長の下足番を務めていた際に、寒い冬の日に草履を抱いて温めていたことで評価されたというエピソードも有名です。経営者や管理職など、実際に部下に仕事をアサインする側から見ても、共感されるのではないでしょうか。
上記のようなエピソードには、いろいろな解釈があると思いますが、これは「我慢しろ」とか「忍耐力が必要だ」というような精神論を言っているのではないと思っています。
どんな仕事であっても、ルーチンワークもあれば、つまらない部分もあります。楽しいだけの仕事などないと言ってもよいでしょう。しかし、目の前の仕事に全力を出さずに愚痴ばかり言っている人に、新しい仕事を用意してあげたいと思う人は少ないと思います。
逆に、一番仕事を面白がれる人、すなわち「今の仕事が楽しいから離れたくない」と言っている人を、人気職種や重要な仕事につけたいと思うものではないでしょうか。
ハイパフォーマーは「意味付け」する能力が高い
人事コンサルタントとして、様々な会社のハイパフォーマーの分析をすると、共通する能力の一つに、自分の仕事を楽しく面白くできるように工夫する力があります。
ふつうの人なら「つまらない」「退屈だ」と思うような仕事を、彼らは自分なりに意味付けしたり、セルフモチベートしたりすることができるのです。
単に耐えているだけでは、小林一三の言うような「日本一の下足番」になどなれません。その仕事に面白さを見出していなければ、創造性も発揮されません。そういう意味で、与えられた目の前の仕事に全力を尽くせない人は、評価が低いのではないでしょうか。
一つのキャリア志向に意固地になることの弊害は、以前にも論じましたが、どのような理由であれ、やることになった仕事に対していつまでも後ろ向きで「希望と違う仕事なのでやる気が出ない」と言っていてはいけません。
ケネディ大統領がNASAの門番をしていた人に「あなたはどんな仕事をしているのか」と問うたとき、彼は「私は月に人を送り届けるお手伝いをしています」と言ったそうです。
自分の仕事の先に何があるのか、もっと高い視点で見てみれば、やる気も湧いてくるかもしれません。今の仕事に何か良い意味づけができないか、考えてみましょう。
どんな仕事でも磨ける「問題解決」の力
つまらないと感じる仕事の中でも、次の仕事につながる経験を積むことができます。まず問題があり、そこに原因があり、アイデアを絞って策を練り、実行に移し、試行錯誤をして解決にたどりつく。どんな仕事でも本質は同じです。
後にどんな仕事をしようとも、この一連の流れを回すことはプラスでしかありません。ぐずぐずしていないで、それをどれだけ回せるかで基礎能力のつき方が違います。
希望するキャリアと現状とのギャップを感じたら、目の前の仕事がどうすれば面白く、意味のあるものになるかという視点で取り組んでみてください。それが結局は、希望のキャリアへの近道です。
無論、「絶対に異動させないでくれ」という言葉も、口先だけではダメです。本当に楽しんでいるかどうかは、日頃の行動や成果に表れるものですから。
【筆者プロフィール】曽和利光
組織人事コンサルタント。京都大学教育学部教育心理学科卒。リクルート人事部ゼネラルマネジャーを経てライフネット生命、オープンハウスと一貫として人事畑を進み、2011年に株式会社人材研究所を設立。近著に『人事と採用のセオリー』(ソシム)、『コミュ障のための面接戦略』(星海社新書)。
■株式会社人材研究所ウェブサイト
http://jinzai-kenkyusho.co.jp/