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長時間のサービス残業強要で死にそう… それなのに「自己都合退職」っておかしくない?

Aさんは20代前半の会社員。新卒で入社したIT企業がいわゆる典型的なブラック企業で、入社1年目からメンタルをやられそうになっていました。残業代は固定制で月20時間分しか支払われませんが、実際には80時間から100時間は残業しています。

実態とのあまりの違いに、総務の女性に相談したのですが、社長に告げ口されて激怒されてしまいました。「お前の仕事が遅いから残業が発生するのに、なんで会社が払わなきゃならないんだ。こっちは授業料をもらいたいくらいだ!」ということです。

弁護士「3か月を待たずに失業保険を受給できる」

そもそも自由な意思による退職の意思表示ではない

そもそも自由な意思による退職の意思表示ではない

Aさんは「このままウツになってしまったら社会復帰できなくなる」と考え先輩に相談したところ、「少なくとも3年、最低でも1年はいないと転職先もないよ」と諭されました。

それでも残業代のカットと長時間労働に耐えられなくなり、入社10か月いっぱいでの退職を会社に願い出ました。上司は、

「自己都合退職だから失業手当は出ないぞ。来月からどうやって生活するんだ?」

と脅しますが、どうしても耐えられずに翌月に退社しました。

しかしサービス残業をさせられ、かつ身体を壊すような長時間労働を強いられながら、「自己都合退職」というのも理不尽な気がしてなりません。何とかならないものなのか。職場の法律問題に詳しいアディーレ法律事務所の岩沙弁護士に聞いてみました。

――サービス残業を強要された挙句、自己都合退職なんて、本当に気の毒ですね。このまま泣き寝入りするなんてバカらしいですから、こういった悪質なブラック企業とは徹底的に戦いましょう! 失業保険も、3か月を待たずにすぐ受給できる可能性が高いです。

まず大事なのは、労働者の自己都合退職(辞職)の意思表示は、自由な意思でしなければならないということです。Aさんが「サービス残業の強要」という違法行為によって、無理に退職に追い込まれているのであれば、そもそも「自由な意思による退職の意思表示ではない」ということになります。

したがって、まだ退職していないことを前提に、会社に対して引き続き給料の支払を求めることができます。また違法行為について、損害賠償を求めることもできます。

正当な理由があれば「特定受給資格者」になるかも

もっとも、自分から退職を言い出した場合に、それが自由な意思かどうかは、よく争いになるところです。Aさんのように退職の手続をしてから相談するのではなく、退職する前に弁護士に相談した方が適切な解決を導けるでしょう。

また、Aさんの上司は、自己都合退職の場合、すぐには失業保険が出ないような説明をしていますが、これは誤りです。確かに自己都合の退職では、失業給付金を受給するまでに、1週間の待機期間と3か月の支給制限期間が必要となるのが原則です。

しかし、正当な理由があれば、特定受給資格者として、3か月の支給制限期間なしで、失業保険を受給できます。Aさんのように長時間労働を強いられていたような場合、

「離職の直前6 か月間のうちに3 月連続して45 時間、1 月で100 時間又は2~6 月平均で月80 時間を超える時間外労働が行われたため……離職した者」

に該当することが多いのです。この場合は、3か月の支給制限期間はなく、すぐに失業保険を受給できる可能性が高いです。これはAさんの退職が法的に有効であっても同じことです。

「固定残業代制度」の悪用には早めに手を打とう

さらにAさんが勤めていた会社は、固定残業代制度を悪用しており、Aさんは会社に対して残業代を支払うように求めることができます。固定残業代制度とは、残業代をあらかじめいくら支払うと決めて、基本給に上乗せする賃金体系のことです。この制度は、

(1)固定残業代がカバーする時間と賃金額が把握可能であること (2)残業代と基本給が最低賃金を上回っていること (3)固定残業代制度がカバーする残業時間を上回って残業した場合はその上回った分の残業代を支払うこと

という条件をクリアしていれば問題ありません。しかしAさんの会社のように、20時間を超えた残業代を支払わないのは、明らかに(3)の条件をクリアしていませんから、違法と判断されるはずです。場合によっては(2)の条件もクリアしていないかもしれません。

ここで、注意しなければならないのは、未払残業代は、給料日から2年が経過すると、時効によって消滅してしまうことです。いざ残業代を請求しようとしたら、消滅時効が完成していたということにもなりかねません。

上司や会社の言い分を鵜呑みにするのは危険です。疑問に思ったことは些細なことであっても、早めに弁護士や専門家に相談をしてみると良いと思いますよ。

【取材協力弁護士 プロフィール】

岩沙 好幸(いわさ よしゆき)
弁護士(東京弁護士会所属)。慶應義塾大学経済学部卒業、首都大学東京法科大学院修了。弁護士法人アディーレ法律事務所。パワハラ・不当解雇・残業代未払いなどのいわゆる「労働問題」を主に扱う。動物好きでフクロウを飼育中。近著に『ブラック企業に倍返しだ! 弁護士が教える正しい闘い方』。ブログ『弁護士 岩沙好幸の白黒つける労働ブログ』も更新中。

*弁護士法人アディーレ法律事務所では2015年3月31日まで、残業代に関する完全報酬制のキャンペーンを実施中!

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