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働きやすい職場は必ず「業績のよい職場」になるのか? 満足度向上施策に注力するリスクも

はじめまして、本コラムを担当させていただく株式会社人材研究所代表の曽和利光と申します。どうぞよろしくお願いいたします。この連載では「働きやすい職場とは何か」について、できるだけ様々な角度から考えてみます。

実証的・理論的なことだけによって厳密さを追求するよりも、組織や職場について自由に拡散的に発想してみて、読者の皆様が実際に働きやすい職場を作るための「考えるヒント」や刺激を少しでも提供できればと思います。

「働きにくいから業績が上がる」場合もありうる

「働きやすい職場」は至上命題になりうるか

「働きやすい職場」は至上命題になりうるか

第一回目のテーマは、のっけから反抗的で恐縮なのですが、あえて、そもそも「働きやすい職場」とは必ず「業績の良い職場」なのか、というものです。

一般には「そりゃ働きやすい職場なら、従業員満足度も高くモチベーションも上がり、業績は上がるのでは?」と思われています。

しかし、例えば「働きやすいという感覚」≒「従業員満足」(ここではそう置いてみます)とは、文字通りで言えば「満ち足りる」ことであり、満ち足りた人は、それ以上頑張ろうとしないこともあります。足るを知ることで、野心を持たなくなることもあるからです。つまり従業員は満足していても、業績は低いということもありそうです。

また、逆に「働きにくい職場」は必ず業績を下げるのでしょうか。「切磋琢磨」という言葉がありますが、競争の激しい職場は、もしかしたらプレッシャーもきつくストレスフルで、一概には働きやすいと言えない職場かもしれません。

夜のクラブとかスナックなどでも、従業員同士の競争心を煽る店はお互いの仲は悪いが売上が高いという話を聞いたこともあります。「必要は発明の母」とも言いますし、何か障害があった方が工夫が生まれて創造的になるということもありえます。だから従業員が不満足でも、業績が高いということもあるかもしれません。

大ナタを振るう改革が必要なことも

さらに言うと、もしかすると「働きやすさ/働きにくさ」が「業績」に影響を与えるという因果関係ではなく、「業績」が「働きやすさ/働きにくさ」をもたらすという流れの方が強いかもしれません(実際、そういう研究もあります)。

業績が良ければ、個々人の自己効力感も高まるため職場は活気づき、問題も少ないので不満も高まらない、というわけです。そう考えると「業績が悪いから、業績を高めるために従業員の満足度を高めなければ」という考えには落とし穴がありそうです。

本来は一時的に従業員満足度を下げてでも、大ナタを振って改革を行うことで業績を向上させなくてはならないのに、あまり効き目のない「満足度向上施策」ばかりに力を入れて、時間やパワーを浪費してしまうかもしれないからです。本来やらねばならないことの逆のことをしてしまう可能性があるということです。

このように、(定義にもよりますが)「働きやすい職場」すなわち「業績の良い職場」とは一概には言えなさそうです。企業の存在理由は、社会に価値を提供する≒業績を上げることですから、「業績は悪いが働きやすい職場」は目的にはなりません。

全員にとって「働きやすい職場」にできないかも

とはいえ、一人の働く人間としては「働きやすい」という感覚は、それ自体が目的となりうるものであり、日々幸福を感じるための重要な要素です。いくら業績が高く株主が潤っても、働く人が不幸では存在する意味がないという見方もあるかもしれません。

だから、もし「働きやすい職場」を作ることを考えるのであれば、ナイーヴに「とにかく従業員満足度を上げるのだ」と考えるのではなく、「業績も従業員満足度も両方とも上げる働きやすさを作る」という観点を忘れてはならないと思います。

そのためには先に述べたように、一時的には「働きにくさ」も甘んじて受けなくてはならない場合もあるでしょう。全員にとって「働きやすい職場」にもできないかもしれません。業績に貢献する人とっては「働きやすく」、そうでない人には「働きにくい」ということもあるでしょう。

左様に「働きやすい職場」とは難しいテーマです。本コラムでは、今後、企業業績と個人の満足度や幸福の双方から、「働きやすい職場」について考えていきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。(文:曽和利光)

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