これからの「人事部」に求められるスキルとは何か? 心理学とデータ分析は必須の時代に
皆さんの会社では、従業員の「性格検査/パーソナリティテスト」は導入されているでしょうか。採用時には受検したけれども、結果がどうだったかわからないし、入社してからは特に話題にも上がらない、というケースがほとんどかと思います。
しかし、これはとてももったいないことです。今、人事の世界では、様々な研究から「人が人を評価することはいかに難しく曖昧で適当なことか」が明らかになる一方で、性格検査のような手法による評価の妥当性が意外と高いことがわかってきたからです。(文:人材研究所代表・曽和利光)
認識のゆがみを排除すれば「相互理解」が進む
これまで人事や経営者、現場マネジャーの感覚やセンスで判断がなされていたある種「神秘的な」人事領域を、数字やデータで「見える化」し、統計分析の力で人の評価や配置などを決めていこうとする流れが出てきています。
昨今では「ピープルアナリティクス」とか「データベーストHR」などというバズワードがあるくらいです。上司や同僚の性格を感覚で理解するのではなく、性格検査などを用いて数字で把握していくことで何が起こるのでしょうか。
一つは、職場の相互理解が進みます。人が人を見る時には、その評価をゆがめてしまう原因となる様々な心理的バイアスがあります。
・自分と似ている人を高評価する「類似性効果」
・一点の美点に引きずられて全体の評価を底上げしてしまう「ハロー効果」
・第一印象がいつまでも影響を及ぼす「初頭効果」
・「体育会の人間はガツガツしていてガサツだ」などという偏見を一度持ってしまうと、それを肯定する情報しか耳に入らなくなる「確証バイアス」
などなど。性格検査を用いれば、認識のゆがみをもたらすものから解放されて、バイアスをかけず、相手をフラットに見ることができます。職場の人がお互いにきちんと理解しあえば、誤解による摩擦や衝突を避けることができます。
組織の問題は、ほとんど誤解から生じるものです。疑心暗鬼がなくなれば協力行動も生まれやすくなりますし、その結果、異質なもの同士がくっついてシナジー効果を起こし、新商品やサービスなどが生じやすい風土になるかもしれません。
重要なのは個よりも「関係性」とわかる
次の効能は、職場の「人間関係」をもっと重視するようになるということです。そんなものは既に重視しているという人も多いかと思いますが、正直日本の会社で、きちんと人間関係を可視化して、最適な配置をきちんと行っている会社はほとんどありません。
どの会社の配属担当に話を聞いても、部署や社員自身の希望や、必要スキルのマッチ度ぐらいの情報で配属を行っています。ただし、単に個人のパーソナリティだけが最重要なのかというと、そういうわけでもないようです。
これまでメンタル問題や早期退職者が続出するたくさんの会社において、従業員のパーソナリティ傾向を調査・分析してきましたが、少しぐらいはあっても、明確な違いはなかなか見られませんでした。ローパフォーマーやメンタルに問題を生じている人、早期退職者などに、パーソナリティ上の特別な傾向はあまりないのです。
ところが、職場に問題が生じている時には、たいてい上司や同僚との「性格の相性」が合っていないものでした。普通は個人の問題と思いがちだったものは、現実には個のパーソナリティを踏まえた「関係性の問題」であることがほとんどだったのです。
これに気づいた会社や職場は、組織の問題を解決するために、個に働きかけるだけでなく、「関係性」を改善するところにようやく目を向けるようになり、やっと実効性の高い施策を打つことができるようになることでしょう。
人事に「神秘性」を持たせている会社は衰退する
このように、個々の従業員の性格を可視化、数値化して科学的なデータ分析を行うことで、組織におけるいろいろな現象を理解し、解決策を検討していくことは、これからどんどん普通のことになっていくことでしょう。
会社によっては、曖昧な人間の目をできるだけ排除しようと、採用などにおいても面接をできる限りしないで、適性検査やワークサンプル(実際の実務をやらせてみる)などに置き換えていこうとする動きも出てきています。
今後、人事に限らず、管理職や経営者など、組織や職場をマネジメントする立場の人にとっては、心理学とデータ分析というのは必須のスキルと言ってよいと思います。
今までのように人事に「神秘性」を持たせているような会社は、早晩、前時代的なマネジメントをしている会社とみなされ、人も入ってこなければ、実際に業績にも影響がでかねません。人を扱う仕事をする人は、心理学とデータ分析、ぜひ勉強してみてください。