ワタミのシフトは「生きぬように死なぬように」 少人数でクレーム起こさず儲けろ
今回も、ワタミ過労自殺裁判の話です。原告(遺族)側は「店のシフトは、長時間労働が前提で、所定の労働時間を無視した恒常的な長時間労働であった」と主張しています。交代勤務の過密さが、過労自殺の一因を作ったという主張です。
対してワタミ側は、「研修においてモデルシフトの作成を指導していた」と主張しています。これは事実で、私が受けた店長研修でも確かに指導されました。ただし重要なことは「普段の営業でモデルシフト通りに実行されていたかどうか」ではないでしょうか。(文:ナイン)
モデルは作らせるが「実行」のチェックなし
ワタミでいう「モデルシフト」とは、店ごとの理想的な人員配置と労働時間を示したものです。飲食店のシフトは、店の規模や売上によって変わります。「今日はこのくらいの売上予想だから、ホールは何人、キッチンは何人必要になるな」といった具合です。
ここが重要なポイントですが、モデルシフトはあくまで理想であり、その状態を常に維持することは「非常に難しい」と言わざるを得ません。経験のある店長ならモデルの重要性を理解しているものの、どうしてもできない店や店長もいます。
なぜなら、どんなに完璧なモデルシフトを作っても、アルバイトの出勤が関わってくるからです。ワタミのシフトに関わる人間の9割がバイト。気まぐれな彼らの予定はアテにならないので、モデルを作っても実行できない場合が多いのが実態です。
学生アルバイトは休みの融通が効きやすく、労働時間もバラバラであることを前提に働いており、無責任と感じるほど急に休むこともあります。「バイトなんだから当たり前」「バイトに責任なんかない」という人もいますが、その穴埋めは社員が行わざるを得ません。
さらにワタミは「モデルシフトを作成しなさいよ」と指導するだけで、モデル通りに実行されているか確認もしないし、実行できていない場合のフォローもしません。これでは「実態がないだろう」という遺族側の怒りも、もっともです。
ワタミでは、人件費が基準をオーバーする「ノーコン」の方を厳しく管理しており、「クレームが出ない程度」に少ない人員を目いっぱい働かせて、利益を最大化しようとします。まるで江戸時代の「生きぬように死なぬように」といったところです。
朝5時まで懇親会、夕方4時から仕事の「異常」
ワタミのシフトに関して、遺族側はこうも言っています。
「研修前のシフトに配慮がない。新卒懇親会は、深夜1時から朝方の5時まであり、その同日、午後4時前から翌朝5時まで出勤となっていて、常軌を逸している」
こういった時間拘束は、普通の会社員では考えられないでしょうが、ワタミ社員であった私から見ると「まぁワタミでは普通だな」という印象です。私もこういったシフトを組まれていた上で、働いていたからです。
遺族側の主張通り「研修があるから、次の日は休み」などという配慮はありません。このような配慮のないシフトは、世間では異常でも、ワタミでは常識なのです。
こうしてみると、ワタミは自分らがしっかりできている部分にのみ焦点を当て、問題のある実態を無視しているように思えてなりません。裁判なのだから自社に有利な部分しか言わないのは当然ではあるのですが、「ワタミはズル賢い大人だな」といった印象を受けます。
もしもこれが裁判対策ではなく「うちのやり方は問題がない」と本気で思い込んでいるのであれば、問題はさらに根深くなります。森さんはたまたま運悪く亡くなったのではなく、会社のしくみに明らかに問題があったと自覚すべきです。
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