ワタミ生え抜き新社長に「悪しきサービス残業文化」の変革を期待する
ワタミの社長が、この3月から清水邦晃氏に代わることが発表されました。2期連続赤字やブラック企業批判、若者の酒離れや人手不足など向かい風の中での社長就任ですから、改革は簡単ではないと思います。
清水氏は学生時代からアルバイトでワタミに入り、大学を中退して入社した「生粋のワタミマン」です。ワタミの隅々まで知り尽くしている彼が、どこの何から手を着けて、どう変えていけるのか元社員として注目しています。(文:ナイン)
これを変えなければ、社員もバイトも客も店に戻らない
生え抜きのメリットは「自社の現状をよく知っていること」ですが、逆にそれが世の中の常識や法律に違反していたとしても、当たり前になっていて何とも思わなくなることがデメリットになりうると思います。
ワタミは、社員になると格段に過酷になる会社です。本部からの指示に従いながらバイトの指導や管理をし、顧客とのトラブルの対処や急なシフトの穴埋めなどもしなければなりません。「バイトの延長」と甘く考え社員になったものの、1年も持たずに退職する人は珍しくありません。
そんな壁を乗り越えて出世の階段を昇りつめた清水氏は、「長時間のサービス残業」なんて当たり前だと思っているかもしれません。しかし私は、これを変えないことには社員もバイトもお客様も、店に戻ってこないと思うのです。
例えばワタミには「SIP(シップ)」と呼ばれる業務があることは、清水氏もよく知っていると思います。半年に1度、本社から店舗に視察が来て、マニュアル通りの店になっているのかチェックするものです。
これ自体は、チェーンの飲食店なら当たり前のことでしょう。しかし、シップ対策のために、その店舗の社員だけでなく他の店舗の社員までも手伝いに駆り出され、さらにはそれがサービス残業で行われているのはいかがなものでしょうか。
「連帯責任」で夜中から早朝までタダ働きの掃除
シップとは、S=スタンダード(標準な)、I=インポータント(重要)、P=パトロール(巡回すること)の頭文字を取ったもので、店舗の清潔さが保たれているかという「清掃状況の確認」と、ホールの接客マナーの丁寧さやキッチンの商品作りなどの「営業状況の確認」の2つをチェックします。
シップがある日は本部から事前に告知があり、細部のチェック項目も知らされます。「100点以外あり得ない」という位置づけで、減点されようものなら担当社員は上司に呼び出され、理由を厳しく追及されます。さらに点数が著しく悪い場合には「再シップ(訪問)」という措置が取られる場合もありました。
したがってシップがある日は、店舗所属の社員たちはもちろんですが、店舗を担当する部長や課長もピリピリします。そこで同じエリアの店舗にシップが入る場合、事前の対策の手伝いに行くのか常識となっていました。
ワタミの店舗には「エリア」という区分けがあります。関東なら「新宿エリア」「吉祥寺エリア」といったように細かく分けられ、エリア内には店舗が5~6個あります。
手伝う仕事は、主に清掃です。キッチンの床の油汚れや冷蔵庫内の清掃など、様々なチェック項目があるので、1日で終わるレベルのものではなく何日も前から行います。
ただし自分の店の営業もありますから、手伝いに行く時間は閉店後の片付けを終えた後になります。16時に自分の店に出勤し、朝3時過ぎまで仕事をして、そこから無給で朝6時過ぎまでよその店の清掃をしている時もありました。
社員は「家族」ではない。きちんとカネを払え
こんなスケジュールになるので、同じエリア内でシップが行われると非常につらいです。でもきっと本部の人たちは「ワタミの社員は家族だろ? 仲間だろ? 助け合って当たり前だろ?」と考えているのだと思います。それが、ワタミの文化なのです。
しかし「家族」を口実に、雇った他人をタダでこき使うのは、いかがなものでしょうか。実際、私の先輩社員の中には、事前に手伝いを拒否する人もいました。
「ウチの店のシップの手伝いには、お前は来なくていいから。そのかわり、そっちの店でシップがある時には俺も行かないからな」
社員は他人であって、家族でありません。もしも人手が足りないのであれば、きちんとお金を払って人を集めてください。連帯責任に頼らず、労働時間をきちんと管理させ、長時間労働を避けながら、働かせた分はきちんと給料に反映させるようにしてください。
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