キミは旧日本軍兵・小野田さんを発見した日本人「鈴木さん」を知っているか そのユルすぎる珍道中 | キャリコネニュース
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キミは旧日本軍兵・小野田さんを発見した日本人「鈴木さん」を知っているか そのユルすぎる珍道中

書影

10月から日本でも公開が始まった映画『ONODA 一万夜を越えて』が話題だ。今年7月のカンヌ映画祭の「ある視点」部門のオープニングを飾った、この作品はフィリピン・ルバング島の密林で三十年近くも潜伏を続けた旧日本軍兵・小野田寛郎をフランス人のアルチュール・アラリが監督した作品。

劇中では「何が起きても生き延びること」を命じられた、小野田が仲間が倒れる中でも終戦を信じずに孤独に戦いを続けている姿が描かれている。今でも、孤独な戦いを続けた人物として称賛する向きも多い、小野田寛郎。でも、映画を通じて再度評価すべきは、この人物を「発見」した日本人青年・鈴木紀夫のほうではないかと思うのだが……。(取材・文=昼間たかし)

ほとんど興味本位だけの捜索道中

小野田が「発見」され、日本へ帰還するきっかけとなった鈴木の捜索の過程は、彼の著書『大放浪 小野田少尉発見の旅』(1974年 文藝春秋)にまとめられている。奥付をみると、この本の発行は1974年5月30日のなっている。鈴木がフィリピンのルバング島で小野田と接触したのは1974年2月20日。その後、再度元上官と共に小野田に再会し、投降式を行った小野田が日本に帰国したのは3月12日である。

文字通り、世間の騒ぎに乗じた「緊急出版」というやつである。そのためか、まず本の構成がなかなか興味深い。全10章から構成される本の中で、鈴木がいよいよ小野田の捜索に旅立つのは、第7章159ページになってから。

タイトルに「小野田少尉発見の旅」とあるのだが、その話題は全体の4分の1程度で、あとは鈴木がバックパッカーとして、世界のあちこちを回った旅日記になっている。

そして、いざ小野田を探しにフィリピンに渡るきっかけも「軽い」。数年ぶりに、帰国して肉体労働してみたり、ゴロゴロしてみたりしているうちに、既に新聞などでも報じられていた、いまだにフィリピンに潜伏している日本兵に会ってみたくなった……という顛末である。

〈いまの日本が失ってしまったものを、小野田さんなら持っているのじゃないか。そういう人の話をぜひ聞いてみたい。その強い衝動が根本にあったことは事実だ。〉

こう本には記されているが、ようは興味本位。それが、歴史的な出来事になったのだから、まずは行動するのが大切と考えざるを得ない。

そんな道中は、出だしから無茶苦茶である。

てっきり、興味本位とはいえ発見する強い意志を持って出かけたのかと思いきや、まず韓国に立ち寄って、飲み屋でどんちゃん騒ぎ。続いて、台湾に移って、またしばらくブラブラする始末。単なる放浪しているバックパッカーである。

ようやくフィリピンに着いたはいいが、今度は「ルバング島にはどうやっていけばいいんだ」とマニラから、ルバング島にいく船を探して、あちこちを転々とするばかりである。もう「発見の旅」ではなく、単なる珍道中なのだ。

ヌード写真をプレゼントしようとするも……

ようやくルバング島に到着してからも、珍道中は続く。島民に小野田が目撃されたポイントを幾つか教えられた鈴木は、キャンプをして野宿することを決め込む。実は、この時に得体の知れない侵入者に、小野田は既に気付いていたのだが、鈴木のほうはそうとはしらず単に野宿している平和な様子が綴られている。

ようやく、小野田と接触するのは195ページになってから。本文全体で262ページなので「発見」の顛末は想像以上に短い。そこからは、多少なりとも緊迫したやりとりが記録されているのだが、なぜか話にオチが着いている。

小野田から、当時の上官からの命令があれば山を下りるという意志を聞き出した鈴木は再会を約束して、別れを告げる。その時、鈴木はあることを思いたつ。

〈「これを持っていきますか」と、4枚の写真を見せた。雑誌のカラー頁に載っている白人女性のヌード写真だ。日本の週刊誌に毎週載っている比較的おとなしいもので。これは長期滞在を覚悟していた自分用に持って来たのだが、ジャングルに1人で戻ってゆく小野田さんに急にプレゼントしたくなったのだ。
小野田さんは、チラと写真を見たが、
「僕は、こういうの、どうもねえ」
と、手にとって見ようともしなかった。〉

なんともユルいエピソードだ。小野田さんのほかに、パンダと雪男に会いたいと語っていた鈴木は、結局1986年11月にヒマラヤで雪男を捜索中に遭難死した。「感動的な物語」として伝わる発見劇も、彼にとっては珍獣に会えた喜びとイコールだったのか。

それにしても、もし今の時代にこんな話をすれば、SNSでたくさんの「お叱り」が飛んでくるだろう。しかし、一度きりの人生、これぐらいのノリで楽しむ方が、かえって幸せになれるかもしれない。

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